地球の内部はどうなっているか?

 地球の内部は、大まかにいうと球状の層が3つ重なった構造となっている。外側はケイ酸塩の固体からなる地殻。その下が、これらが融けて粘性を持ったマントル、続いて鉄やニッケルが主成分になる核と呼ばれる部分に分かれる。

 地球の内部は、主に地球を通過する地震波の分析などで調べることができる。内部構造が違うと地震の伝わり方が違う。

 火星の内部はこれまでよくわかっていなかったが、表面の岩石については、隕石やNASAの火星探査機スピリット、オポチュニティによって、地震波については探査機インサイトが2019年初頭から地震計を使って、火星の内部構造を調べていた。

 その結果、火星内部はやはりいくつかの層に分かれ、外側にはマントル、中心に直径約3700キロメートルの液体の核が存在していることがわかった。

 火星の核は予想以上に大きかった

 2018年に火星に着陸したインサイトは、高感度の地震計を搭載している。人類が初めて他の惑星に送り込んだ地震計だ。今回、そのデータを解析し、火星の内部構造に迫った3つの研究成果が、7月22日付けの学術誌「サイエンス」に発表された。

 内部構造から見える火星の成り立ち 地中を伝わる地震波は、これまでも地球の内部構造を知るために利用されてきた。異なる構造の境目で、地震波の速度や方向が変化するからだ。

 火星でも同じようにして地震波を調べたところ、内部はやはりいくつかの層に分かれ、中心に直径約3700キロメートルの核が存在していることがわかった。

 地震データを直接測定して核の大きさを求めた天体は、地球と月に次いで、今回の火星が3番目となる。地球の核は1900年代初期に、月は2011年に測定された。

 インサイトは核だけでなくマントルと地殻の測定も行っており、これらの結果をすべて合わせれば、火星の歴史についてさらに詳しい理解が得られると期待されている。

 過去45億年の間に火星はいかにして形成され、変化していったのか。数十億年前は液体の水をたたえ、磁場を持ち、生命がいたかもしれないこの星は、どのようにして今日のような砂漠の広がる過酷な環境に変わってしまったのだろうか?

 火星を全体的に取り囲んだ磁場も、今では弱い磁場が部分的に残っているのみだ。

 たった1台の地震計で挑む 

 インサイトのデータを解きほぐして火星内部の構造を明らかにするのは、なかなか困難な仕事だ。地球上では数万台もの地震計のネットワークを使って地震波を観測するが、火星には、インサイトの地震計がたった1台、1カ所にしか置かれていない。

 おまけに、地球と違って火星には大きな地震がほとんど起こらない。火星で最大級の地震でも、震源地から数キロ以内に立っていなければ人間の体では感じることもない。

 その点インサイトは極めて敏感なため、地震の少ない火星では遠くで発生したごくわずかな揺れでも感知することが可能だ。とはいえ、風の音や舞い散る砂塵、気温の変化によってインサイトに生じるきしみや破裂音など、雑音を完全に遮断するのは難しい。

 地震波P波・S波で分かること

 地球上の地震波と同様、火星の地震波にもP波とS波がある。P波は固体、液体、気体を通過できるが、S波は固体しか通過しない。こうした性質を利用することで、惑星の内部構造を推測できる。

 火星内部においては、P波は固体のマントルの先にある液体の核まで通過するが、S波は核まで入り込むことができない。一部のS波は核とマントルの境界面で跳ね返り、地表まで戻ってくる。

 スイス、チューリッヒ工科大学の惑星地震学者シモン・シュテーラー氏を含むインサイトの研究者たちは、まさにこの跳ね返りを探していた。2019年7月に発生した地震データからヒントを得た研究チームは、地震波が3段階に分かれて届いた地震がないかを調べた。P波、S波、そして数百秒後に跳ね返ってきた微弱なS波が届くような地震だ。

 すると、該当する地震は火星で6回発生していた。これを5000種類の火星マントルのモデルと照らし合わせてみると、地震波は地下およそ1600キロで何かにぶつかって跳ね返ってきていることがわかった。ここが、固体のマントルと液体の核との境界面ということになる。

 この境界面の深さを基に、インサイトのチームは、火星の核の直径がこれまで考えられていたよりもわずかに大きい3580~3740キロであると推定した。つまり、核の平均的な密度は考えられていたよりもわずかに低いということになる。

 この推定を過去の研究成果と合わせて考えると、液体の核は鉄とニッケルから成り、総重量の10~15%の硫黄を含み、その他少量の酸素、水素、炭素といった軽元素を含んでいると考えられる。

 火星に磁場がない理由

 また、火星のマントルは地球ほどの深さと圧力がないため、下部マントルは形成されていないことも示された。地球の場合、地下約660キロより深いところに高温高圧の岩石でできた下部マントルが存在し、核の熱を閉じ込めている。火星の核が冷えやすかった原因は、この下部マントルがなかったためとも言えそうだ。 

 この冷えやすさが、太古の火星の核における熱移動を助け、惑星全体を包む磁場を作り出していたのかもしれない。 

 現在の火星にはそのような磁場は存在しないが、南半球の地殻は強力な磁気を帯びている。これは45億~37億年前に、火星に地球のような磁場があったことを示している。

 火星が磁場を失ったのは、大気の大部分が失われたことと関連付けられており、なぜ磁場がなくなったのかがわかれば、火星が今のような乾燥した不毛の星になった時期や原因も明らかになる可能性がある。

参考 National Geographic:火星の核は予想以上に大きかった、続々明らかになる内部構造