食糧難の時代をどう乗り越えるか?

 世界の人口が78億人を超えた。世界人口は2050年には97億人に達し、人口増加や食生活の向上によりタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質危機」が起きると予測されている。

 このため代替タンパク質として、植物由来タンパク質とともに培養肉の実用化が期待されている。2013年にオランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授が世界で初めて、ウシの筋肉組織の幹細胞から人工肉を作った。だが、慣れ親しんだ肉の舌触りだが、味が違う。脂肪がないという感想だった。

 今回、大阪大学の松崎典弥教授らの共同研究グループが、筋肉の細胞だけでなく、サシとなる脂肪や血管になる細胞も人工培養した。さらにこれらを3Dプリンター技術を活用して多数束ね、幅1.5センチほどの「サシ」の入った「霜降り培養肉」の塊にすることに成功した。

 3Dプリント金太郎飴技術

 培養肉は、ウシなどの動物から取り出した少量の筋肉などの細胞を人工的に培養して作る「代用肉」だ。現在の培養肉は、主に赤身の筋肉の細胞から作られるミンチのような肉で、本物の肉のように筋肉、脂肪、血管などの線維がそろっていない。このため食感などは本物の肉より劣ると言われてきた。

 松崎典弥教授らは、筋肉の細胞だけでなく、サシとなる脂肪や血管になる細胞も人工培養できる方法を駆使。増やした筋肉や脂肪、血管の細胞をもとに、3Dプリンターを用いて直径0.5ミリ前後の細い筋線維ファイバー42本、脂肪ファイバー28本、血管ファイバー2本の計72本のファイバーを作製した。

 さらにこれらのファイバーを多数束ね、幅1.5センチほどの「サシ」の入った「霜降り培養肉」の塊にすることに成功した。

 共同研究グループは腱(けん)が筋肉を支えていることに着目。腱の主成分であるⅠ型コラーゲンで人工腱組織を作製し、そこに筋肉や脂肪、血管などの線維組織を結合させることで線維組織が安定的にできる工夫をしたという。

 グループはこの技術を「3Dプリント金太郎飴技術」と名づけた。この技術があれば、肉の複雑な組織構造をテーラーメイドで構築できるようになり、微妙な味や食感の調整が可能になると指摘。

 松崎教授は「日本が世界に誇る和牛の複雑かつ美しいサシの構造を再現することを目的に技術開発した。和牛培養ステーキ肉が新たな産業になると期待している」などとコメントしている。

参考 大阪大学:3Dプリントで和牛の“サシ”まで再現可能に!  (osaka-u.ac.jp)