未来の通貨 デジタル通貨

 ITとその関連技術の進歩によって、これまでの常識を覆すような新たなお金の概念である「デジタル通貨」が普及してきた。

 最近は現金を出し、小銭でお釣りをもらうのが嫌になってきた。スマホで「ピッ」とかざせば買い物ができる「電子マネー」が便利だ。

 今後は貨幣など使わないデジタル通貨の時代になることは間違いない。日本では渋沢栄一氏が新1万円札の顔になる。まだまだ貨幣は身近なものに感じるが、世界では一足先にデジタル通貨が国民の通貨になりそうな国がある。

 その国は何とネパール。欧米や日本などの先進国ではなくて、発展途上国だ。その理由は国民のほとんどが携帯電話を持っているが、3分の1の国民が銀行に口座を持っていない。貨幣は流通しにくいが、デジタル通貨なら流通するというわけだ。

 デジタル通貨とは何か?

 デジタル通貨という言葉については、明確な定義があるわけではない。だが、ここでは「デジタルデータに変換された、通貨として利用可能なもの」という意味である。

 現金ではない「電子マネー」や「仮想通貨」といったものが、デジタル通貨にあてはまる。

 「 電子マネー」は、「円」をデジタルで記録し、現金の代わりに使用するデジタル通貨のこと。あらかじめ現金をチャージしておく前払い(プリペイド)が基本になるが、クレジットカードと連携させた後払い(ポストペイ)といった支払方式もできる。

 近年話題となっている、ビットコインをはじめとした「仮想通貨」もデジタル通貨の一種。仮想通貨の多くは非中央集権を目指していることが多く、法定通貨をベースとせずに、インターネット上で世界中の人と取引することができる。

 「デジタル通貨」を、国の主要通貨にしようという取り組みも日本でも始まっている。

 中国ではデジタル人民元を市民に配る大規模な実証実験が進んでいるほか、カンボジアなど実際に運用を始めた国もある。そうした中、日本のあるベンチャー企業の技術が世界から注目されている。

 ネパールで国の通貨に?

 東京都内にある創業4年目のベンチャー企業は、国境を越えた送金をスマホで瞬時に低コストで行うシステムを開発した。このシステムに目を向けている国のひとつがネパール。

 取材した日、システムの導入に向けて、ネパールの窓口となる経済団体幹部と協議が行われていた。

 ネパールでは、銀行口座を持っていない人でもスマホはほとんどの人が持っています。デジタルで買い物や預金、国際送金などができるようになれば、利便性が高まると期待しています。

 ネパールの経済団体幹部のヒラチャン氏は協議の中で「(ネパールは)銀行口座を持っていない人が30%以上いる。システムができれば、全ての国民がお金のやり取りができるようになる」という見方を示した。

 その上で「ネパールの国、経済を支えるために、安くて安心で早くできる技術をぜひやってほしいというネパール政府からの要請が強い」と話した。

 協議に参加したシステムの開発者、日下部進さんは「メリットはコストが安く運用できること」と説明したうえで、「デジタル通貨は(金融面で)不自由を感じている国のほうが早く立ち上げることができるのではないか」という考えを示した。

 「フェリカ」で培われたセキュリティー

 日下部さんはかつて「Suica」などの電子マネーのもととなる「フェリカ」と呼ばれる技術を開発した。

 最大の特徴の一つはセキュリティーの高さである。運用が始まってから20年、ハッキングによる大きなトラブルは一度も起きていない。

 今回開発したシステムは、フェリカの開発で培った高度な暗号化技術をさらにアップデートしている。

 日下部さんは「少なくとも今運用されているほかのものよりは(セキュリティーが)強いことは間違いない。私の中の自己満足度から言うと90%ぐらい」と話す。

 電子マネーでお金のかたちを変えた日下部さんは、世界のデジタル通貨への採用を目指して開発を続ける。「(技術が)次から次へと進化するからこそ新しいものに対して商品価値も出てくるだろうし、(技術の革新は)永久に続くと思う」と話した。

 日本のデジタル通貨の技術は、このベンチャー企業とは別の会社のシステムがカンボジアで使われている。

 銀行口座が普及していないネパールのように、アジアや中南米でデジタル通貨の導入を検討する動きが広がっている中、日本で生まれた技術がどうなっていくか注目される。

参考 NHK news:デジタル通貨 日本発の技術に注目