窒素を同化する植物を発見
海に住む、ある微生物(藻類)に空気中の窒素を取り入れる能力があることが発見された。その微生物の名は「ビゲロイ」。
窒素ガスを細胞の増殖に有用な化合物に変換できるタイプの細胞小器官を持つ。「ニトロプラスト」と呼ばれるその構造体が藻類に発見されたことで、植物が自身の窒素を変換、すなわち「固定」させるように遺伝子操作できる可能性がでてきた。
これによって、作物の収量が増加し、肥料の必要量が少なくなるかもしれない。これまで豆類の根に共生し、窒素を取り入れる根粒菌の存在は知られていたが、植物体の細胞に発見されたのは初めてである。
この研究論文は、2024年4月11日にScienceに掲載された。この論文を発表した著者の1人は、高知市内に住む日本人女性研究者だ。
わたしの研究が科学雑誌の表紙に!
「サイエンス」に掲載された論文の著者の1人、高知大学客員講師の萩野恭子さん。高知市郊外の漁港では、萩野さんが小さなバケツを海に投げ入れ、海水をくみ上げる作業にあたっていた。
萩野さんは慣れた手つきで顕微鏡の準備を済ませると「小さな海の藻」の実物を見せてくれた。顕微鏡をのぞき込むと、2本のべん毛がある小さな生き物が水のなかを元気に前に後ろにと泳ぎ回っていた。大きさはわずか100分の1ミリ。
「小さな海の藻」の名前は「Braarudosphaera bigelowii」。学名が長いので研究者からは「ビゲロイ」と呼ばれている。
この藻が、大気中の8割を占める窒素を直接取り込む能力を獲得した生き物と分かり、世界の研究者の間で注目を集めている。
国際研究チームに高知大学から参加した萩野さんが「ビゲロイ」を安定的に培養できる手法を確立し、詳しい分析が可能になったことが今回の研究の突破口となった。
出会いは30年前 美しい形に”一目ぼれ”
萩野さんと「ビゲロイ」の出会いは30年以上前の1993年、高知大学4年生のころにさかのぼる。
卒業研究のテーマとして東北地方沿岸に生息する藻の仲間を調べることになり、与えられた海水のサンプルの中に偶然含まれていたのが「ビゲロイ」だった。
その時の形はなんとサッカーボールのような形。正五角形の面がある殻に覆われ、違う生き物のように見えた。これが同じ「ビゲロイ」だというから驚きだ。ライフサイクルのなかで大きく姿形を変える生き物なのだそうだ。
小学生の時、星や天体が好きだった萩野さん。顕微鏡で見た「ビゲロイ」の幾何学的な形が、望遠鏡で眺めた天体のようで美しく感じた。一目ぼれだった。
その後、萩野さんは博士号を取得し、ポスドク(任期付きの研究者)として「ビゲロイ」の遺伝的な特徴を調べていたとき、サッカーボールのような形をした「ビゲロイ」と今回論文に掲載された「小さな海の藻」のDNAの塩基配列が一致することに気付いた。
当時、別の生き物と考えられていた2つの生き物が、実はライフサイクルのなかで大きく姿を変える、同一の生き物だったのだ。
工業でも重要な窒素固定
窒素固定とは、空気中に多量に存在する安定な(不活性)窒素分子を、反応性の高い他の窒素化合物(アンモニア、硝酸塩、二酸化窒素など)に変換するプロセスをいう。
自然界での窒素固定は、いくつかの細菌と一部の古細菌(メタン菌)によって行われる。これらの微生物には、種特異的に他の植物や、動物(シロアリなど)と共生関係を形成しているものもある。
また、雷の放電や太陽からの紫外線、山火事や火力発電所、内燃機関での燃焼により、窒素ガスの酸化によって窒素酸化物が生成され、これらが雨水に溶けることで、土壌に固定される。
これとは逆に窒素化合物を分子状窒素として大気中へ放散させる作用または工程は脱窒と呼ばれ、窒素固定と合わさることで窒素循環が成立している。
また、アンモニア合成を代表として人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか開発されており、工業的に非常に重要な位置を占めている。
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