砂漠緑化、テラフォーミングの試み

 コケ植物は、強いストレス耐性能力を持っており、また自らが土となり、荒れ地に土壌を育む “パイオニア植物”である。そこで、悪環境下でもたくましく育つ「スーパーコケ植物」の研究開発を行い、地球や他の星の緑化も目指す試みがある。

seeds_6-12-3

 火星のテラフォーミングを大々的にやろうと言っているのは、イーロン・マスク氏のSpaceXが有名である。テラフォーミングは地球以外の惑星や小天体などを地球化するというこで、別の地球をつくりましょうというイメージ。

 そのために、ヒメツリガネゴケというコケを使ってテラフォーミングをしようと考えているのが北海道大学藤田知道教授である。教授はJAXAと共同で国際宇宙ステーション「きぼう」利用実験もすすめ、宇宙環境で植物がいかに成長するのかを研究し、将来の宇宙居住の基礎研究を進める。

 北海道大学 藤田知道教授の研究 

 私は、JAXAの「Space Moss」プロジェクトを主導し、国際宇宙ステーションにおける無重力環境下でのコケの栽培実験に注力してきた。コケは小柄で地味に見える一方、厳しい環境でも生育する驚異的な生命力を持ち、その特性は地球環境の保全や宇宙農業への応用など、多彩な可能性を秘めていると考えている。

 本プロジェクトを通して、コケがもつ力をさらに引き出し、地球規模の環境課題解決に貢献するとともに、将来的には人類による他惑星での栽培やテラフォーミングを見据えた研究につなげたいと思っている。

 私たちは、コケの優れた環境耐性を品種改良によってさらに向上させ、それを活用した緑化を通じて、深刻な課題である砂漠化や塩害を緩和し、人々が安心して暮らせる緑豊かな生活圏を広げることを目指している。さらに、月や火星といった宇宙環境でも栽培可能なコケの品種の開発にも挑戦し、未来の宇宙開拓に貢献したいと考えている。

 コケは、進化の過程で初めて海洋から陸上に進出した初期の陸上植物であり、根や維管束を持たないシンプルな構造を持つ一方、他の高等植物とは異なる高い環境耐性を示す。たとえば、南極の湖底、砂漠、夏場50℃を超える道路上、さらには重金属汚染地域などの極限環境でも生育可能。日本には約2000種、世界全体では2万種以上が存在すると推定され、その多様性と適応能力は注目に値する。

 近年では、火星模擬環境下で生存可能なコケが報告されるなど、その潜在的な利用価値がさらに高まっている。また、コケは生育が早く実験が容易であり、過去にJAXAの「Space Moss」と題した宇宙実験でも利用されてきた。この特性を生かし、地球環境の再生と宇宙環境での活用に挑戦したいと考えている。

 コケ植物が火星の環境でも生存することが判明

 火星は地球以外の天体へ人類が入植する候補地として長年注目されている。しかし、現在の火星の環境はあまりにも過酷であるため、火星の環境を変える「テラフォーミング」を行うことが検討されている。もしも早い段階の過酷な環境でも生存する植物があれば、テラフォーミングの初動を後押しすることになる。

 2024年7月中国科学院のXiaoshuang Li氏などの研究チームは、砂漠や極地などの厳しい環境に生息するコケ植物の1種「シントリキア・カニネルウィス (Syntrichia caninervis)」を過酷な環境にさらす耐久実験を行った。その結果、乾燥したシントリキア・カニネルウィスは、火星を再現した実験環境に7日間さらした後でも生存しただけでなく、水を与えれば30日かけて元通りに成長することが判明した。これは一部の微生物やクマムシを凌駕するほどであり、植物としては並外れた耐久力である。

 地球でも生態系の基盤として重要な役割を果たしていることを考慮すれば、火星のテラフォーミングで最初にコケ植物の繁殖が試みられる可能性は十分に考えられる。

 コケ植物のシントリキア・カニネルウィスは、極度の乾燥、低温、放射線にも耐え、再現された火星の環境でも生存することが今回の実験で示された。

 「火星」は将来的に人類が地球以外の天体に入植する有力な候補地として注目されている。しかし、平均気温マイナス55℃、二酸化炭素を主成分とする地球の約0.75%の気圧しかない薄い大気、極度に乾燥した地面、宇宙から強い紫外線や放射線が降り注ぐ現在の火星の環境は、人類が生存していくにはあまりに過酷すぎる。入植の初期には生存可能な環境を維持する基地で生活することが考えられるが、それではごく一握りの人口しか維持できない。

 そこで、火星の環境を改変し、地球のように生身でも生存できるような環境を人工的に作り出す「テラフォーミング」の実施が検討されている。現在ではまだ構想段階であるものの、テラフォーミングに関連する科学や技術の研究は火星への入植だけでなく、地球における過酷な環境への対応や、大きな社会問題となっている地球温暖化や気候変動の理解や対策にもつながるため、研究が進められている。

 テラフォーミングを行うにあたっては、合成した温室効果ガスを放出するなどの人工的なプロセスと同時に、生物の力を借りることも検討されている。地球では、ほとんどの生物が死滅してしまうような環境でも生存する、驚くほど強靭な生物がたくさん見つかっている。その中には、現在の火星の環境でも生存が可能なのではないかと考えられている生物もいる。