過渡的発光現象「スプライト」

 雷雲と地表間の雷放電の際、雷雲上方の成層圏や中間圏でさまざまなタイプの放電発光現象が発生することが最近分かってきた。それらは過渡的発光現象(TLE:Transient Luminous Event)と総称される。その中の最も代表的な発光現象はスプライト(Sprite)と呼ばれる中間圏発光現象である。

 この現象は、1989年ミネソタ大学のJ.R.Winkler教授の研究グループがロケット搭載観測機器のテスト中に偶然撮像に成功したもので(Franz et al.1990)、それ以来スプライトの研究は急速に発展している。スプライトと命名したのはアラスカ大学のD.D.Sentman教授で、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」に登場するいたずら好きな小妖精スプライト・パックからとったものである。赤色の発光なのでレッド・スプライトとも呼ばれる。


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 発光領域は高度50-90kmの中間圏で、形状は多数のカラム(円柱)が並んだタイプやニンジン状の発光などが代表的である。水平のスケールは10-50km程度である。ニンジン状のスプライトの中心部(高度60-75km)はヘッドと呼ばれ、多数のストリーマー(線状放電)からなる複雑な内部構造をもつ。しかしヘアと呼ばれる上部(75km以高)はストリーマー構造がない一様な発光となる。

 スプライトの頂上部に凸レンズ状の発光が見られることがしばしばあり、スプライト・ハロー(Sprite Halo)と呼ばれている。スプライトの発光時間は数ミリ秒から数10ミリ秒で、正極性落雷に伴って発光することから、雷雲上部の正電荷の消失によって中間圏に2次的に作り出された準静電場によって大気の絶縁破壊が起こり発光するモデルが考えられている。

 地球と宇宙の境界から来た、一瞬のシグナル

 地球の大気は、1つの大きな電気回路のようなものだ。雷雨がバッテリーで、回路を流れる電流が稲妻だ。地上からは、稲妻が空を走って地面に落ちたり、雷雲を照らし出したりするのが見えるが、雷雲の上には「レッドスプライト」や「エルブス」「ジェット」などの謎めいた光がひしめく“秘密の園”がある。

 これらはいずれも、雷雨の際に大気圏上層部で発生する「過渡的発光現象(TLE)」と呼ばれる。

 「TLEは神秘的で美しい光で、普通の稲妻とは全然違います。ある劇的な瞬間に、気象と宇宙と電気を結びつけるのです」と、中国科学技術大学の博士課程に在籍してTLEを研究しているハイリャン・ホアン氏は言う。

 「TLEは雲よりもはるかに高い場所で、静かに発生します。ほとんどの人には見えませんが、雷雨の奥深くで展開する、力強いプロセスを反映しています」

 TLEが初めて観測されたのは1989年のこと。瞬く間に空を横切る赤い閃光が写真に捉えられた。この現象がシェイクスピアの『真夏の夜の夢』に登場するいたずら好きの妖精にちなんで「レッドスプライト(赤い妖精)」と呼ばれるようになると、新しいタイプのTLEが見つかるたびに、妖精にちなんだ名前がつけられるようになった。

 科学者たちは今でも、これらの不思議な現象が起こる原因や発生頻度、地球の大気について何が分かるかなどについて、精力的に研究を続けている。

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