バタフライエフェクト

 NHK番組で「映像の世紀バタフライエフェクト」というものがある。この意味は、大衆文化でも歴史の連鎖や人間の営みに大きな影響を与えるという意味で使われている。

 バタフライ・エフェクト(またはバタフライ効果)とは、小さな変化が将来的に予測不能な大きな変化を引き起こす現象を指す言葉で、カオス理論の概念である「初期値鋭敏性」の比喩表現。気象学者 エドワード・ローレンツが提唱し、「ブラジルでの蝶の羽ばたきが、地球の反対側で竜巻を引き起こすかもしれない」というタイトルで講演したことが元になっている。

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 ブラジルの蝶の羽ばたきのようなささいな現象が、災害を引き起こす竜巻と関係があるとは、普通考えられない。しかし、この理論は、未来を正確に予測することの難しさを示すと同時に、個人の人生や社会において、小さなアクションが大きな変化につながる可能性を示唆している。

 気象予想プログラムの些細な違い

 1961年、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の気象学者エドワード・ローレンツは、気象予測プログラムに数値を入力していた。彼のモデルは12の変数に基づいており、そのうちの1つの値は「0.506127」だった。彼が再度モデルを走らせる際、その数値を「0.506」と入力し、コーヒーを飲みに部屋を出た。部屋に戻ると、このごくわずかな変更が劇的に異なる気象予測をもたらすことに彼は気付いた。

 1972年の米国科学振興協会(AAAS)の講演で、ローレンツがカオスとそれが引き起こす極端な予測不可能性についての画期的なモデルを発表した際、ローレンツは次のような問いを投げかた。「ブラジルでの一匹のチョウの羽ばたきが、テキサスで竜巻を起こすだろうか?」

 ローレンツが示したかったのは、「一見単純な数式で構成されるシステムにおいて、粒子の初期位置のほんのわずかな変化が、将来の位置に巨大な変化を引き起こしうるということ。そして、現在の微小な変化が、将来の巨大で予測不可能な変化につながるかもしれない」ということだ。

 個人による一見ささいな行動が、将来の混乱やカオスにつながりうるというこの類比も、ローレンツの魅力的な比喩によって非常にシンプルかつ見事に表現される。おかげで、科学者だけでなく一般の人々の想像力をかき立てた。

 バタフライエフェクトと「シュレーディンガーの猫」

 バタフライエフェクトの一般的な解釈における主な誤解は、ごくわずかな撹乱が遠く離れた場所で組織化された大きな現象を引き起こしうるという概念が、実在の現象と思われている点だ。

 これはあくまで比喩であり、この分野の主要な専門家たちが最近、この考えが「シュレーディンガーの猫」(科学的に証明も反証もされていないアイデア)であると合意したと指摘する。

 「シュレーディンガーの猫」とは、1935年に物理学者のエルヴィン・シュレーディンガーが提唱した思考実験で、量子力学の「重ね合わせ」という現象を説明するために用いられた。

 放射性物質と毒ガス発生装置と共に箱に入れられた猫が、観測するまで生きている状態と死んでいる状態の「重ね合わせ」にあるとするこの実験は、ミクロな世界の量子力学的現象をマクロな巨視的現象(猫の生死)に適用した際に生じる奇妙さやパラドックスを浮き彫りにし、量子力学の解釈に疑問を投げかけるものとして知られている。

 シュレーディンガーは、この思考実験を通して、観測されるまで状態が確定しないという量子力学の概念が、猫のような巨視的な存在に適用された場合の直感的に受け入れがたい奇妙さ、あるいは量子力学的記述の不完全さを指摘した。

 バタフライエフェクトは比喩的な定義なのに、文字通りの事実であると受け入れるのは間違いである。結論として、一匹のチョウの羽ばたきが数千キロ離れた(あるいはもっと近くの)場所で竜巻の発生を起こすのかという点については、いかなる状況下でもあり得ない。

 釘が1本足りないと王国が滅びる

 一方で、バタフライエフェクトはことわざのような民話(1640年に詩人ジョージ・ハーバート)で最もよく説明できる。

 釘が一本足りなかったために、蹄鉄が失われた。

 蹄鉄が足りなかったために、馬が失われた。
 馬が足りなかったために、乗り手が失われた。

 乗り手が足りなかったために、戦いに敗れた。
 戦いに敗れたために、王国が失われた。

 すべては一本の蹄鉄の釘が足りなかったせいだ。

 この詩は、わずかな撹乱が、最終的には数値積分に大きな影響を与えうることを示唆している。

 風が吹くと桶屋が儲かる

 日本にも似たことわざがある。
 風が吹く:と土埃が舞う。

 土埃が目に入り、目を傷つける人が増える。

 目の不自由な人が三味線を弾くようになる。

 三味線の胴を張る猫の皮の需要が増えるため、猫が狩られる。

 猫が減るとネズミが増加する。

 ネズミが桶をかじるので、桶の破損が増える。

 その結果、桶屋の仕事が増えて儲かる。

 だからこそ基礎研究は大切

 バタフライエフェクトは、カオスを科学的に定義する上で重要な役割を果たしてきた。

 バタフライエフェクトは主に天気予報で役に立っているが、気候変動のモデル化にも貢献しうる。

 研究者たちはAIを用いてバタフライエフェクトをシミュレートし、天気予報の改善に繋げられないかと期待していた。残念ながら、AIはバタフライエフェクトをシミュレートすることに失敗した。これはバタフライエフェクトを否定するものではなく、AIがバタフライエフェクトをまだ理解できないことを示しているだけだ。

 ローレンツと氏のバタフライエフェクトが与えた影響は、今も広がり続けている。カオス理論は、物理学、生物学、工学、経済学、さらには社会科学など様々な分野に革命をもたらした。アンテス氏によれば、ローレンツのモデルは、未来が現在に依存するあらゆる分野に絶大な影響を与えたという。

 「バタフライエフェクトの概念は、未来の状態が現在の状態に依存するほぼすべての複雑なシステムに適用される。大気や海洋、気候、物理学、人間の健康を含む生物のシステム、そして経済や政治システムを含む社会全般」一見小さな変化が、将来的には巨大で予測不可能、かつ意図しない結果をもたらす可能性がある。

 2011年、MITはローレンツの名を冠した気候研究所を開設し、実社会への明らかな応用を目的としない研究に資金を提供している。この「純粋基礎研究」と呼ばれるタイプの研究は、チョウの羽ばたきと同じく重大な結果をもたらすかもしれない、あらゆる小さな動きについて理解する助けとなるだろう

バタフライ・エフェクト 世界を変える力
アンディ・アンドルーズ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2011-03-16