成功した失敗 (successful failure)

 日本の月着陸実証機スリム(SLIM)は2023年9月7日に地球を出発。2024年1月20日、月面の「神酒の海」にある「シオリクレーター」付近、半径100メートルの円内の傾斜地を目指し、ピンポイント着陸に成功した。

 だが太陽電池は発電しなかった。その後分析の結果、電池が太陽光と反対の西を向いていることが分かった。正しい姿勢で着陸できなかったのだ。

 このことをはっきり映像で確認できたのが、スリムが搭載した小型ロボット「LEV-1」「LEV-2」だ。2台の小型ロボットは計画通りに着陸直前の高度2メートルで分離した。中央大学などが開発したLEV-1は地上で電波を受信し、月面での活動を確認。タカラトミーなどが開発したLEV-2は自分で判断し、スリムを撮影するミッションを持っていた。

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 LEV-2はスリムを探し出して撮影し、ノズルが天頂に向いた姿勢の画像を我々に届けてくれていた。LEV-2は、スリムの着陸状況が分かる情報を取得するというミッションを見事に達成した。スリムにもカメラはあったが、スリムの自撮りはできず、LEV-2の画像によってSLIMの着陸状況を鮮明に捉えることができた。

 ピンポイント着陸に成功したものの、着陸姿勢の制御には失敗した。このため太陽電池がはたらかなかったが、小型ロボットの実験は成功した。

 ロボットの制作はタカラトミー

 タカラトミーというとおもちゃの会社。リカちゃん・ダイアクロン・チョロQ・トランスフォーマー・ベイブレードなど楽しい物づくりの専門家だ。その会社がロボットをつくるのは驚きだ。   

 タカラトミーは2006年(平成18年)3月1日にトミーとタカラが合併して誕生した。21世紀初頭、日本の玩具業界は1990年代後半から続く少子化の流れを受けて縮小傾向にあり、業界大手のバンダイが大手ゲームメーカーのナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)と経営統合するなど、業界再編が進んでいた。

 この頃、タカラはヒット商品を相応に出してはいたが、ベイブレードブーム終了の反動で過剰な在庫を抱えることが多発した事や、別途展開していたチョロQ実車化によるミニカー事業や家電品事業がそれぞれ失敗したことで経営危機に陥り、廃業倒産の危機にあった。

 一方、トミーはバブル崩壊後の経営危機をファービーやポケモン関連商品のヒット、リストラなどの事業縮小で乗り切ってはいたものの、今ひとつ派手さにかける企業イメージの改善と更なる経営基盤の改善を求められていた。

 おもちゃの技術が宇宙で活躍

 2024年1月に月面着陸し、月面観測を遂行した小型月着陸実証機(SLIM)。このSLIMの月面での姿を撮影したのが、世界最小・最軽量の変形型月面ロボットLEV-2だ。

 2024年初めに日本初の月面着陸に成功し、月面観測によって多くの貴重なデータを地球に届けた小型月着陸実証機(SLIM)。このSLIMには2つの小型探査機、LEV-1とLEV-2が搭載されていた。LEV-1はホッピング移動や地上への通信を行う機能等を持ち、LEV-2は搭載する2つの可視光カメラで周辺を撮影する機能を持つ。

 今回のミッションでは、この2機が月面で通信し、LEV-2が撮影した写真データをLEV-1が地球に送り届けることに成功した。

 LEV-2は直径約80mm、質量約228gという手のひらサイズのロボット。今回のミッションの目標は、月面で超小型ロボットの探査技術を実証すること。そのなかで、SLIMに搭載して月へ行くことをミニマムサクセスに、月面で周辺を撮影することをフルサクセスとし、月面を移動してSLIMの着陸状況および着陸地点周辺の情報を取得することをエクストラサクセスに掲げていた。

 今回は「エクストラサクセス」を達成。LEV-2の活躍を振り返る。LEV-2開発のきっかけは、宇宙探査イノベーションハブ(探査ハブ)で実施した第1回研究提案募集(RFP)。ここで「小型ロボットに関する研究提案」を募集したところ、おもちゃ製作の技術・ノウハウを持つ株式会社タカラトミーからの提案があり、共同開発がスタートした。

 2016年からスタートした共同研究には、2019年にソニーグループ株式会社、2021年に同志社大学が新たに参加。そしてJAXAからは探査ハブ、研究開発部門などからメンバーが集まり、産学官や部門などの枠を超えたチームでの開発が進められた。

 その結果、LEV-2は、LEV-1とともに、「日本初の月面探査ロボット」「 世界初の完全自律ロボットによる月面探査」「 世界初の複数ロボットによる同時月面探査」「世界初の月面ロボット間通信」を達成、LEV-2はこれに加えて「世界最小・最軽量の月面探査ロボット」となった。日本のものづくり技術は改めて「素晴らしい」と実感した。
 タカラトミーはJAXA等と共同開発した、月面を探査する超小型変形ロボットLEV-2をモデルに「SORA-Q」を実物大で商品化。「SORA-Q Flagship Model」を発売2023年9月2日(土)発売。価格は27,500円(税込)。 月探査の感動体験を自宅で楽しむことができる。



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