宇宙開発に必要な「3R」技術
人類が次に目指す宇宙開発の目的は月面着陸、月面基地建設、火星探査など明確になってきたが、その時に問題になるのが、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題だ。
スペースデブリとは、運用を停止した人工衛星やロケット、それらの部品や破片のこと。米スペースXによる通信衛星「コンステレーション」をはじめ、宇宙ビジネスの成長に伴って近年急激に増え、大きさ1ミリ以上のデブリは1億あるという推計もある。運用中の衛星などへの衝突や、衝突によるさらなるデブリ発生が問題となっている。
米国のスペースXは世界で初めて商用ロケットの再使用を成し遂げた。ファルコン9ロケットは2015年に初の垂直着陸を達成した後、2017年からは実際に回収したロケットが再使用されている。既存の使い捨て型ロケットと比べて半分以下のコストでの打ち上げを実現。打ち上げコスト低減を活かし、衛星インターネットのスターリンクにも参入しており、2020年には世界最大の衛星コンステレーション事業者となっている。今後は、3R「Reduce (リデュース)」「Reuse (リユース)」「Recycle (リサイクル)」が宇宙開発でも大切になる。

スペースデブリ捕獲の問題点
問題は今あるスペースデブリだ。日本の宇宙開発でもスペースデブリは出ている。そのデブリとは、日本が2009年に打ち上げたロケット「H-IIA」の上段で、全長約11m、直径約4m、重量約3トンと大型バス程度の大きさがある。
このタイプのデブリを捕獲するにはいくつか問題がある。対象とするロケットの上段が「非協力物体」であることだ。非協力物体とはロケットの一部や運用が終了した衛星など、接近・捕獲に必要な位置データの提供や姿勢制御といった協力が得られない(居場所を教えてくれない、信号を送ってくれない、姿勢も不安定な)物体を指す。このため、難易度が非常に高い。
しかも、デブリは秒速7~8kmという超高速で、様々な方向に飛んでいるため、これを捕まえるのは難しい技術である。軌道上サービスの実現には、安全に対象物へ接近し、捕獲する「RPO(Rendezvous and Proximity Operations)」と呼ばれる技術の確立が不可欠となる。
既に世界で100社以上が軌道上サービスへの参入を表明しているが、これまで宇宙空間でRPO技術を実証できたのは、アストロスケールと米SpaceLogistics(スペース・ロジスティクス)の2社だけだという。しかし、SpaceLogisticsが実証したのは、姿勢が安定しており、居場所が特定できる稼働中の衛星、つまり協力物体の接近観測であった。
今回、アストロスケールは2024年2月に開始した、CRD2フェーズⅠの実証において、非協力物体であるH-IIA上段から約50mの距離まで接近、相対静止をして映像を撮影した。さらに、デブリの周囲を飛行して観測する運用にも世界で初めて成功した。
スペースデブリに15メートルまで接近、捕獲に向け前進
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙ごみ(スペースデブリ)の除去に向けた「商業デブリ除去実証(CRD2)」に関する成果報告会を2月26日に開いた。宇宙スタートアップ企業のアストロスケール(東京都墨田区)の人工衛星が、高度約600キロの軌道を周回するデブリ(H2Aロケットの上段)に15メートルまで接近し、公開されている情報としては世界初の成果を得たという。同社はこの成果を受け、このデブリを捕獲する人工衛星を2027年度に打ち上げる予定だ。
JAXAでは宇宙利用の持続性確保への取り組みとして、CRD2プロジェクトを立ち上げた。デブリへの接近と近傍での運用から捕獲と軌道上からの除去までのうち、近傍運用までを「フェーズⅠ」としてアストロスケールとの契約を2020年に結んだ。同社は人工衛星「ADRAS-J」を開発し、2024年2月に打ち上げた。
接近と近傍運用の対象となるH2Aロケットは2009年に打ち上げられ、上段の重量は約3トン。衛星利用測位システム(GPS)による位置情報を得ることができず、捕獲のために用意された構造がない「非協力物体」であり、軌道上を秒速数キロメートルで回っている。
JAXA研究開発部門CRD2プロジェクトチームの山元透チーム長らによると、ADRAS-Jは去年2月の打ち上げ後2カ月ほどをかけてデブリ後方数百メートルまで接近。5月にはデブリの後方約50メートルにつけた。11月に15メートルまで接近し、過酷な宇宙環境に15年以上さらされたデブリの形状や表面の様子、捕獲の難易度に関わるデブリの回転具合などを撮影して確認したという。
JAXAは成果報告会で、「地表からデブリまでの接近で定点観測や周回観測を実施し、デブリと衝突せずに安全に離脱できた。フェーズⅠでクリアすべき4つの目標を達成した」と発表した。
JAXAとアストロスケールは2024年8月にCRD2のフェーズⅡの契約を約132億円で結んでいる。同社が2027年度に打ち上げる人工衛星でデブリを捕獲し、大気圏に落として燃え尽きさせる予定だ。
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