正倉院THE SHOW開催
正倉院の1300年にわたる歴史や、宝物の美を全身で楽しめる初の体感型展覧会が上野の森美術館で開催されている。宮内庁正倉院事務所監修のもと、巨大スクリーンに映し出される超高精細映像と、1300年前の正倉院宝物の姿を再現した「再現模造」を組み合わせた展示空間で、宝物の美に包まれるような体験が堪能できる。
また、戦国武将の織田信長が熱望したことで知られる幻の香木「蘭奢待らんじゃたい」の香りが、科学調査に基づき初めて再現されたことを受け、会場では、天下人を魅了した香りを実際に楽しむこともできる。
奈良では正倉院展が毎年開かれているが、東京で正倉院展が見られるのは貴重だ。場所は上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)。会期は2025年9月20日(土)~11月9日(日)開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)会期中は無休である。観覧料は一般:2,300円/高校生・大学生:1,700円/小学生・中学生:1,100円である。
説明会で、宮内庁正倉院事務所の飯田剛彦所長は、宝物の保存と魅力発信を同時にかなえることのジレンマを語り、「より斬新な見せ方をできないかと考えました。聖武天皇と光明皇后が東大寺の大仏に捧げた宝物を、東京のでも多くの方に見ていただけるよう期待しています」とあいさつした。
「蘭奢待」 香り成分や年代判明
今回の正倉院展の見どころの一つは、織田信長や足利義政などが求め、切り取ったとされる、正倉院に収蔵の「蘭奢待(らんじゃたい)」という香木の香りを嗅ぐことができること。
専門家の調査で「蘭奢待」の成分と、木が生えていた年代が判明した。大型放射光施設「SPring-8」やガスクロマトグラフィーなど、最新の機器を用いて測定。8世紀後半~9世紀後半の樹木で、ラブダナムという植物の甘い香りをベースに、バニラなど約300種類の成分が混じったものだった。
蘭奢待は、様々な権力者によって切り出された来歴がある香木で、黄熟香(おうじゅくこう)とも呼ばれる。東南アジアの山岳地帯に生える「沈香(じんこう)」という香木の一種で、重さ11.6キログラム、長さは156センチメートルある。自然突然変異で香りを持つようになった。 蘭奢待という文字の中に「東大寺」という漢字が隠されており、室町時代に流行した「言葉遊び」による命名だと考えられている。
正倉院では宝物の点検・保存と記録を行っており、「香木なので香りの記録も大切。どうにかして後世に香りを伝えられないか」と、昨年からプロジェクトを開始した。正倉院事務所保存課長の中村力也さんは「蘭奢待は近づくとほんのり香りが分かる。1000年以上経っているのに、それだけ香りがするのはすごいこと。他の宝物にはにおいが残っているものはない」と話す。
調査すべき項目として、香木の年代・香りの発生源・香りの成分・どのような香りとして感じるか、を挙げた。まず、年代を放射性炭素年代測定で調べたところ、8世紀後半から9世紀後半にかけて生えていたということが分かった。蘭奢待の木の種類は日本にはないため、切られて東南アジアから船で持ち込まれたと考えられる。
成分の解析をガスクロマトグラフィー質量分析法で詳しく見たところ、3-フェニルプロピオン酸が主たる成分だった。3-フェニルプロピオン酸は水に溶けにくく、エタノールに溶ける物質。その他に300以上の物質が検出されたため、それらを香りがあるものとないものに分けた。香り成分ではラブダナムという甘めの香りが多く検出されていた。
最後に香りを再現するため、人間の嗅覚に頼った。調香師といわれる香料を調合する専門家に協力を仰いだ。調香師に蘭奢待の香りをかいでもらい、香りを記憶してもらった。その嗅覚の記憶を元に、先ほど多く検出されたラブダナムに甘いバニラ系の香り、スパイシーなアニス系の香りなどを足していき、最終的に「令和に再現した蘭奢待の香り」ができあがった。
中村さんは「再現できるということは記録を後世に伝え、残すことができたということ。高い技術力と高精度の機器を使う体制が整っており、科学の力がすごく役に立った」と振り返った。正倉院には他にも香料となる原料が保存されており、今回の手法を応用して解析することができるかもしれないという。
この「再現した香り」は、上野の森美術館(東京都台東区)で開かれる「正倉院 THE SHOW-感じる。いま、ここにある奇跡-」という特別展(9月20日~11月9日)で実際にかぐことができ、香りを紙にしみこませた「蘭奢待香りカード」(880円)をミュージアムショップでも販売する。
第77回正倉院展
奈良国立博物館では「第77回正倉院展」が10月25日から11月10日まで、奈良国立博物館(奈良市)で開かれる。異国情緒あふれるガラスの杯や豪華な装飾が施された鏡、歴史上の人物を魅了してきた香木など、正倉院宝物を代表する品々をはじめとした67件が出展される。原則、事前予約が必要な日時指定入場制となる。
正倉院の宝物は「御物(ぎょぶつ)」と呼ばれ、天皇家の所有物であるため国宝に指定されていない。しかし、正倉院の建築物である「正倉院正倉」そのものは、1997年に例外的に国宝に指定された。つまり、天皇家の私物を見ることができるというのが興味深い。
開催期間は10月25日(土)~11月10日(月)会期中無休。開催場所は奈良国立博物館(奈良市登大路町)午前8時~午後6時(金、土、日曜と祝日は午後8時まで)入館は閉館の60分前まで。
料金は一般2000円、高大生1500円、小中生500円レイト割一般1500円、高大生1000円、小中生無料(月~木曜は午後4時以降、金・土・日曜と祝日は午後5時以降)
聖武天皇ゆかりの品々をはじめ、奈良時代に花開いた天平文化の粋を今に伝える、正倉院宝物。1,300年もの時を超えて、東大寺の正倉院正倉が守り伝えてきたこれらの宝物群は、約9,000件にのぼる。「第77回 正倉院展」は、世界的にも高い価値を持つ正倉院宝物のなかから、初出陳6件を含む67件を選りすぐって公開する展覧会だ。
本展には、高貴な素材と技を駆使した、聖武天皇ゆかりの調度品を出陳。「木画(もくが)」と呼ばれる寄木細工の技法を用いて、鳥や唐草の装飾文様を施した双六盤《木画紫檀双六局》、草花や飛鳥などの地文様の上に書を表した屏風《鳥毛篆書屏風》など、聖武天皇の身近に置かれた最高級の調度品を紹介する。
また、シルクロードを介してもたらされた宝物も公開。「蘭奢待(らんじゃたい)」とも呼ばれ、足利義政や織田信長、明治天皇といった時の為政者をも魅了した名香《黄熟香》、西方からシルクロードを経て東アジアにもたらされたガラス器のなかでも最高水準を示す、深い紺色の盃《瑠璃坏》などを展示する。
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