海の百獣の王
「ジョーズ」といえばサメそれも凶暴なホオジロザメをさすことが多い。しかし、このサメを食糧にする海の王者がいるそれは何か。 正解はシャチ(Orcinus orca)である。「まさか」と思う人もいるだろう。シャチはイルカの仲間だからだ。
ハクジラ(歯のあるクジラ)の一種で、マイルカ科の中では最大の種である。白黒模様の体が特徴であり、北極から南極、熱帯海域まで、世界中のさまざまな海洋環境に生息する。雄の体長は通常 6–8 m で、体重は6トンを超える。雌はより小さく、体長 5–7 m、体重は3–4トン。
しかし、イルカといってもあなどるなかれ、シャチは頂点捕食者であり、自然界に天敵が存在しない。海洋系での食物連鎖の頂点に立ち、武器を使うヒトが唯一の天敵である。
しかも賢い。オオカミの群れのように集団で狩りをするため、「wolves of the sea (海のオオカミ)」と呼ばれることもある。魚、頭足類、哺乳類、海鳥、ウミガメなど、様々な獲物を狩る。
さらに、意図的に仲間に新たな行動を教える。動物の中で最も重たい脳を持つマッコウクジラに次いで、海洋哺乳類の中では二番目に重たい脳を持つ。人間を含むどの哺乳類よりも多くの灰白質と皮質ニューロンを持つ。

2023年2月、南アフリカで、サメの胸を正確無比に切り裂き、肝臓だけを食べるシャチが観察された。それだけではない。彼らがほかのシャチにサメの肝臓の取り方を教えていることも観察された。これが本当なら、知性も含め人類に匹敵するぐらい強いのではないかと恐ろしくなる。
サメの肝臓だけを食べるシャチ
2023年2月、南アフリカのケープタウンの海岸に19頭のエビスザメの死骸が打ち上げられた。打ち上げられた死骸はすべて同じ状態だった。胸をざっくりと裂かれ、そこから肝臓を吸い出されていたのだ。ほかの臓器は無傷だった。
海岸の近くに住むアリソン・タウナー氏は、サメを殺した犯人がすぐにわかった。まるで外科手術のように正確無比なやり方は、「ポート」と「スターボード」と呼ばれる2頭のオスのシャチの特徴的な手口だ。
2頭は少なくとも2015年からこの方法でエビスザメやホホジロザメを襲っていて、今回も2日前に付近の海域で姿が目撃されていた。南アフリカ、ローズ大学のサメ生物学者で博士候補生であるタウナー氏は、「またやったか」と語る。「彼らを止めることはできません」
「ポート」と「スターボード」をめぐる最大の謎は、彼らの捕食行動がユニークなものであるかどうかだ。シャチは世界中に生息していて、幅広い食性や行動様式が見られ、サメを食べるものもいる。サメの内臓、特に肝臓は、脂肪分に富んでいるからだ。
しかし、今回のような一貫性あるやり方でサメを捕食するシャチの存在が学術文献に記載されたことはこれまでなかった。それだけではない。2頭のシャチの観察から、彼らがほかのシャチにサメの肝臓の取り方を教えていることが示唆されたのだ。これが本当なら、動物界における「文化」の一例としても非常に興味深い。
狩の方法を仲間に伝えるシャチ
南アフリカの南西岸に位置するフォールス湾にはエビスザメが生息していて、いつもならスキューバダイバーは1回のダイビングで70頭ものサメを見ることができる。けれども2015年11月9日、ダイバーたちは異変に気づいた。一夜のうちに、サメたちがダイビングエリアからいなくなってしまったのだ。
その後、海底で数頭のエビスザメの死骸が見つかった。どの死骸も、同じやり方できれいに切り裂かれていた。ダイバーたちは写真を撮ってタウナー氏や他の研究者たちに見せ、この傷が漁業によるものなのか、動物の攻撃によるものなのかを議論した。
1つの可能性はシャチだった。南アフリカでは珍しいが、2009年以降、フォールス湾でシャチが目撃されるようになっていたからだ。ただし当時は、ミナミアフリカオットセイなどの海洋哺乳類を捕食していることしか知られていなかった。
2016年4月、さらに5頭のエビスザメの死骸が海岸に打ち上げられた。そのすべての胸が切り裂かれ、肝臓がなくなっていることが確認されると、南アフリカ国立公園の海洋生物学者のチームが解剖を行った。胸の切り裂き方は、2015年11月に撮影された写真と一致していた。そしてシャチの歯形に気づいた。
この発見は、シャチが南アフリカでエビスザメを殺した最初の記録になると同時に、シャチがサメの肝臓を食べるためにその胸郭を慎重に裂き、それ以外の部位を残した最初の記録ともなった。シャチがサメの肝臓を食べることは以前も記録されていたが、この食べ方は「かつてない特殊な技術」である。
彼らは、サメの背中を大きく切り裂くようなことはしない。肝臓が始まるところを正確に狙って裂いている。信じられないことだ。
そして、ほかの4頭のシャチがいる前で「スターボード」がサメの肝臓を取り出す技術を見せる姿をとらえた動画は、重要な証拠となる可能性がある。
クジラやイルカ(シャチはマイルカ科で最も大型の種だ)の仲間の多くには、ある種の方言や狩猟戦略やその他の行動を次の世代に伝える「文化」の兆候が見られる。動物界で文化をもつ種は比較的少なく、カラスや類人猿のような、長寿で大きな脳を持つ社会的な種で見られることが多い。
このサメの食べ方を発明したのが「ポート」と「スターボード」なのかどうかはわからないが、研究者は「この行動は広まる可能性が高い」と言う。
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