カーボンクレジット

 災害の激化や夏の高温化かつ長期化など、気候変動の影響を肌で感じる昨今、環境保全の取り組みは私たちにとって喫緊の課題となっている。

 さまざまな環境を守る取り組みの中で、最もよく耳にするのが、気候変動に関する国際条約のCOP。正式名称を「国連気候変動枠組条約締約国会議」という。COPは、毎年10月~12月頃に約2週間にわたって開催され、2025年は30回目の開催となるため、「COP30」と呼ばれる。

 この国際会議を通じて、CO2を減らすことが環境を守ることだとして、CO2減少量を基準として様々な取引ができる仕組みが生まれた。それが「カーボンクレジット」という仕組み。

 カーボンクレジットとは、従来の方法では排出が見込まれていたCO2排出量(ベースライン)と、省エネ技術や再生可能エネルギーを導入したことによって減少した実際の排出量との差をクレジットとして認証するシステムである。

 このクレジットは、削減目標を達成できなかった他者に提供することができ、他者は削減量をこのクレジットで購入することができる。購入した側は、購入分のCO2排出削減量を自社のCO2排出削減量として取り扱うことができ、また、提供する側は、クレジット収入により資金を得ることができる。

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 ブルーカーボンクレジット

 カーボンクレジットを創出することで、他企業などから収入を得ることができ、その資金を利用して環境を守る企業として運営できる。カーボンクレジットの中で海に関する取り組みを「ブルーカーボンクレジット」という。

 「ブルーカーボンクレジット」は、海洋生物(海藻やマングローブなど)が吸収・固定した二酸化炭素(CO2)を、カーボンクレジットとして取引する仕組み。日本国内では「Jブルークレジット」がその代表例であり、クレジットを購入することで、企業のカーボンオフセットや環境保全活動への貢献につながる。創出側は、クレジットの販売を通じて、ブルーカーボン生態系の保全活動の資金を得られる。 

 つまり、ブルーカーボン(海藻、海草、マングローブなどの海洋植物)が光合成によってCO2を吸収し、それが分解されずに海底などに長期間貯留される炭素のことで、ブルーカーボン生態系の保全・再生プロジェクトなどによって吸収・固定されたCO2量を、一定の科学的根拠に基づき算定し、これを「クレジット」として発行している。

 CO2排出量をどうしても削減できない企業などが、このクレジットを購入することで排出量をオフセット(埋め合わせ)し、環境保全活動を支援する仕組みだ。

 カーボンオフセット

 カーボンオフセットとは、企業のCO2排出量を認識した上で、積極的に削減の取り組みを行ったにも関わらず削減が難しい部分の排出量を、他者が創出したCO2排出削減・吸収量で埋め合わせることを指す。

 埋め合わせの部分では、CO2排出量削減・吸収の取り組みをクレジット化し取引するカーボンクレジットが主な方法となっている。

 近年、ブルーカーボンがビジネスで重要視されているのは、「脱炭素化の新たな手法として活用」「企業価値の向上」「新たな雇用の創出」などの理由がある。

 例えば、企業の脱炭素施策の一つとして、カーボンオフセットの仕組みを活用してブルーカーボンの維持・拡大のための活動に投資するなど、新たな脱炭素の手法を導入することで、「環境に配慮する企業である」との社会的な評価を得ることが可能になる。

 環境価値・環境価値証書

 環境価値とは、再生可能エネルギーなどによって「CO2(二酸化炭素)を排出しない」という、電力や熱といったエネルギーが持つ付加価値のこと。この価値は、「非化石証書」、「J-クレジット」、「グリーン電力証書」といった環境価値証書を通じて取引可能であり、企業がCO2排出削減の取り組みをアピールする目的で活用される。

 化石燃料由来の電力は「電気としての価値」しか持たないが、再生可能エネルギー由来の電力はこれに加えて「環境価値」も持つとみなされる。

 環境価値は、発電方法から切り離して、証書として売買することができる。環境価値証書を調達することで、自社でCO2排出量を実質的に削減したとみなすことができ、脱炭素経営のアピールにつながる。

 主な環境価値証書として、「非化石証書」、「J-クレジット」、「グリーン電力証書」といった環境価値証書がある。

 非化石証書は、非化石電源(太陽光、風力、原子力など)で発電された電力の「非化石価値」を証書化したもの。

 J-クレジットは、森林によるCO2吸収量や、省エネルギーなどによる温室効果ガス排出削減量をクレジットとして認証・売買する制度。

 グリーン電力証書は、再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、バイオマスなど)を利用して発電された電力の環境価値を認証するもの。

 ブルーカーボンクレジットを創出する「藻場再生」

 こうした環境価値の向上につながるブルーカーボンの一例を示そう。現在、藻場の再生を通じてブルーカーボンクレジットの創出に取り組んでいるのが、神奈川県葉山町で葉山のアマモ場の再生を願い、2006年に発足した葉山アマモ協議会である。

 神奈川県の沿岸部・葉山町。都心からアクセスも良く、海と山に囲まれた豊かな自然と人の営みが共存するこの土地の海では近年、町沿岸部の海藻類の減少が進み、「磯焼け」が問題に。

 葉山アマモ協議会は2006年、葉山にかつてあった広大なアマモ場の再生を願って発足された。葉山町漁業協同組合、葉山一色小学校、ダイビングショップナナ、鹿島建設株式会社葉山水域環境実験場で構成され、葉山町内の藻場の再生やウニの駆除やモニタリング等の保全活動、教育活動等を行っている。

 現在、再生した海藻のカジメ、天然ワカメ、養殖ワカメを対象にブルーカーボンクレジットを「Jクレジット」として46.6トンCO2/年を創出・販売。他企業はこの環境価値「Jクレジット」をカーボンオフセットとして購入する。こうした環境保護、新規企業、雇用創出が循環することは、これからの社会に有益な方法だと思う。



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