温暖化対策に期待の水素燃料

 利用時にCO2を排出しないエネルギーである水素は、カーボンニュートラルの実現に向けたカギとして、近年注目を集めている。水素エネルギーのメリットは、主にCO2を排出しない環境への優しさ、さまざまな資源から製造できることによるエネルギー自給率の向上、貯蔵・輸送が可能であることによる多様な利用があげられる。

 水素は、燃焼しても水しか排出しないため、地球温暖化の原因となるCO2を出さない。水素はそのまま燃料として燃やしてもいいが、主に燃料電池で利用されおり、代表的な燃料電池式発電機が「エネファーム」である。

 2009年に販売開始された家庭用燃料電池エネファームは、広く一般に普及している。2019年11月にはエネファームは28万台が普及しており、2030年までに530万台を普及させる計画だ。他にも燃料電池は「燃料電池自動車(FCV)」としても開発・販売されている。

 問題は水素をいかに効率よくつくるかである。水素は様々な方法で作ることが可能だ。そのつくり方によって、グリーン水素・ブルー水素・グレー水素などと呼ばれている。

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 グリーン水素とブルー水素

 グリーン水素とは、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される水素のこと。この水素を利用し、酸素を大気中に放出することで、環境への悪影響を与えずに水素を利用することができる。

 電気分解を実現するためには電気が必要だが、それには電力が必要。グリーン水素を作るためのプロセスは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用することで副産物としての二酸化炭素を排出させることなく、水素を製造することができる。

 ブルー水素とは、天然ガスや石炭等の化石燃料を、蒸気メタン改質(Steam Methane Reforming)や自動熱分解(Autothermal Reforming)などで水素と二酸化炭素に分解し、二酸化炭素を大気排出する前に回収する方法。このとき二酸化炭素を回収することで、グリーン水素と同様に、温室効果をゼロにすることができるのがポイント。

 この回収方法は、カーボン・キャプチャー・ユーズド・アンド・ストレージ(Carbon Capture Used and Storage)と呼ばれるプロセスを経て行われる。

 グリーン水素 vs ブルー水素

 将来の水素エコノミーを実現する上で、グリーン水素とブルー水素のどちらを優先的に扱うかは、コストの面で比較されることが一般的だ。

 グリーン水素とブルー水素のコストを比較した研究では、グリーン水素の方がブルー水素よりもかなり高価であることがわかっている。それは、再生可能エネルギーを利用して水から水素を製造するプロセスである電気分解のコストが原因である。

 具体的には、電気分解によって生成された水素(グリーン水素)は、その生成に使用される電気よりも常に高価であるのに対し、天然ガスは電気に変換するよりも大幅に低いコストで水素に変換できるからだ。世界の電気分解能力は限られているうえ、水素の生産量が増えると明らかにグリーン水素のコストがブルー水素より高くなる。

 ただ、グリーン水素製造コストは、2015年から2020年までに40%低下しており、2025年までにさらに40%低下すると予想されている。そのうえ、業界の専門家の多くは、電気分解能力を大幅に増やせば、今後10年間で約70%のコスト削減になるとも予想している。そのため、すでにEUでは、ブルー水素を行わず、グリーン水素を普及させることを政策として掲げている。

 グレー水素とイエロー水素

 グレー水素とは、水素を生産するプロセスはブルー水素と同様だが、ブルー水素と異なり、二酸化炭素を回収せずそのまま大気中に放出する手法。この方法では、残念ながら水素の生産過程で気候変動を引き起こしてしまう。

 2020年時点で、現在世界で生産されている水素のうちグレー水素が約95%を占めている。しかし、気候変動に対応するための水素エコノミーに向けては、グレー水素は禁止されていく方向にある。

 イエロー水素とは、グリーン水素と同様に水の電気分解によって生産されるが、原子力発電を利用している水素。地震の多い我が国では原発の放射能漏れや、緊急停止の危険性がいつもある。

 グリーン水素は、現状では生産能力でもコスト競争力でも課題を抱えているが、2050年までに世界経済がネットゼロエミッションを達成し、世界の気温上昇を 1.5℃に抑えるために不可欠な要素になると見られている。

 ゴールドマン・サックスによれば、グリーン水素は2050年までに世界のエネルギー需要の25%を供給し、2050年までに10兆米ドルの市場になると見立てている。すでに、オーストラリア、チリ、ドイツ、EU、日本、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、韓国、米国等、多くの国が水素の国家戦略を発表している。

 グリーン水素製造への投資は、再生可能エネルギーと電気分解技術の両方のコストが低下し、政府が支援策を導入することで次第に普及していく。炭素回収技術を用いたブルー水素は今後10年間の成長分野になる可能性が高く、再生可能エネルギーから製造されるグリーン水素は2030年以降に意味を持つようになるだろう。





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