どうなる太陽光パネルの大量廃棄

 気候変動の解決に向けて、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーである太陽光発電の活用が進んでいる。太陽光パネルの導入が急速に進んだきっかけは、2012年からスタートした固定価格買取制度(FIT)である。

 2009年に太陽光発電の余剰電力の買い取りが電力会社に義務付けられ、住宅用システムを中心に太陽光発電の導入が進んだ。そして、2012年に開始されたFITでは、太陽光発電にくわえて、風力、水力、地熱、バイオマスも買い取りの対象となり、再生可能エネルギーの更なる普及拡大を目指した。

 結果として、投資家を巻き込んだ売電事業が急速に成長し、太陽光発電に関しても小規模な住宅用だけではなく、メガソーラーなどの大規模発電の設置が相次いだ。

 FIT制度開始前の2011年は太陽光発電の累積導入量は約5GW程度だが、2023年3月末時点の累積導入量は約70GWとなり、太陽光発電は加速度的に増加している。

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 FITをきっかけに大量に導入された太陽光パネルは、今後寿命をむかえ、使用済み太陽光パネルとして廃棄される。政府の推定によると2030年代後半以降、年間で最大約50万トンもの太陽光パネルが廃棄される見込みだ。

 50万トンの排出量は、自動車や家電などの年間廃棄量と同程度。すべてが直接埋め立て処分された場合、2021年度の最終処分量の約5%に相当する。

 太陽光パネルの構造について~太陽光パネルは本当に危険なのか?

 まず初めに、太陽光パネルには主に3つのまとまりがある。一般的な太陽光発電所はアルミフレーム枠で囲われた1枚単位を、太陽光パネルまたは太陽電池パネル、太陽電池モジュールと呼ぶ。

 しかし、メガソーラーと言われる大型の太陽光発電所では太陽光パネル数十枚を一纏まりとして架台と言われる台に固定しており、これを太陽電池アレイと呼んでいる。さらに、太陽光パネルをよく見てみると、小さな四角形がいくつも組み合わされていることに気付くと思うが、この10cmから15cm程の四角形を太陽電池セルと呼んでいて、これが太陽光パネルを構成する最小単位となる。

 次に成分から太陽光パネルを見てみよう。太陽光パネルはシリコン系、化合物系、有機物系の主に3つの種類に分類されている。ここで重要なことは、半導体ウェハの種類ごとに含まれる有害物質の種類や場所が異なる。報道やニュース記事ではよく「太陽光パネルには、鉛やセレン、カドミウム、ヒ素などの有害物質が含まれていて」と言う表現が使われているのだが、1枚の太陽光パネルにこの4つの物質が全て含まれていると誤って理解されている方が多くいる。

 太陽光パネルの種類について~有害物質はどこにどれだけ含まれるのか?

 まず、鉛やセレン、カドミウム、ヒ素の4つの物質が、それぞれどの部分に含まれているか。実は4つの中で、鉛だけ別の場所に使われていて、その他は半導体ウェハを構成する化合物の一つとして使われている。

 太陽電池セルには3本の細い縦線が入っている。この細い線は、実は電極の働きをしていて、半導体ウェハに太陽光が当たって発生した電子を集めて電気として運ぶ役割をしている。まさにケーブルや電線と同じ役割だ。

 そして、この電極には銀(Ag)や銅(Cu)、錫(Sn)といった原料が主に使用されているが、有害物質と言われる鉛(Pb)も添加剤として少しだけ使用されていることがある。

 1990年代から2000年代に製造された太陽光パネルの電極には数%から数十%の鉛(大型のパネルの場合、重量にして数グラム以下)が使用されていたが、2010年代以降では鉛フリーの電極も増えており、鉛の含有率は全体的に減少している。

 鉛に限らず、重金属(比重が4以上の金属)と言われる物質は、過剰摂取すると人間にとって有害なものが数多くあり、どの金属や化合物が有害で、どれが大丈夫かは一概に言えない。

 昔ラジオなど電子機器を組み立てるときに使用するハンダ(金属同士の接合に使われる合金)には、鉛が多く使われていた。しかし、多くの産業で鉛入りのハンダを使用した作業員の健康被害が報告されたため、鉛に有害性があることが分かりハンダへの鉛使用が禁止された。 今では、鉛やセレン、カドミウムなどは一度摂取すると体内に蓄積して内臓疾患や中毒症状を起こすことが分かっている。

 次に、半導体ウェハごとの含有する有害物質の種類について見て行く。一つ目のシリコン系ですが、シリコンウェハには有害物質は全く含まれていない。

 世の中に普及している約95%以上の太陽光パネルはシリコン系だ。鉛以外の有害物質が含まれる化合物系は5%未満しか普及してないが、パネルの種類の説明なしに有害物質だけが強調されて、あたかも全てのパネルに4つの有害物質が含まれているような記事があることは一つ問題。

 有害物質については、2つ重要なポイントがあります。1つ目は、ヒ素(As)が含まれるのはGaAs系ウェハ、セレン(Se)が含まれるのはCIS系やCIGS系ウェハ、カドミウム(Cd)が含まれるのはCd-Te系ウェハと含有する有害物質は種類ごとに分かれていること。2つ目は、これらの化合物系ウェハは、何も太陽光パネルだけではなく、世の中の多くの半導体電子機器で使用されているということだ。

 太陽光パネルの構造について~太陽光パネルの成分は?

 次は太陽光パネルの構造について見て行こう。早速だが、我々は72セル型という大型の太陽光パネル(縦12枚×横6枚計72枚の太陽電池セルで構成されているパネル)をよく使用している。

 大きさが、だいたい縦2m、横1m、厚さ4cm程あるのだが、この1枚のパネルでどのくらいの重量があるかご存知か?72セル型で約22kgある。

 大型のパネルになるとかなりの重量になるが、その内約60%の重量を占める素材があるのだが、何か。

 正解はガラスだ。太陽光パネルは広義ではテレビやエアコン、他の家電製品と同じように電気機械器具に分類されるが、他の電気機器と違う特徴は大部分がガラスだということ。

 では次に、ガラス以外にどういった素材で構成されているか見てみよう。一番大事な太陽電池セルは酸化によって劣化しないように上下をEVAと言われる封止材で密封コーティングされている。次に表面に保護ガラスを、裏面にはプラスチック素材のバックシートで保護し最後にアルミフレーム枠で固定している。

 重量比で見ていくと、ガラスの次に多いのはアルミフレームで約15%程、次にバックシートやジャンクションボックス、封止材等のプラスチックが約20%弱、太陽電池セルは5%いしかないくらいの割合。ガラスとアルミフレームの2つで全体の80%近くの割合を占めているとは驚きだ。

 有害物質の流出や拡散と言葉だけ聞くと不安な気持ちになるのもわかるが、冷静に考えれば恐れる必要はない。

 電極の中に鉛が使われていると言ってもかなり少量だし、電極が付いた太陽電池セルは密封されてガラスで保護もされているので、すぐに流出や拡散することはイメージできない。

 もちろん、壊れたパネルを何年もずっとその場に放置していると、流出や拡散してしまう可能性がゼロとは言えないが、これは他の電気機器にも同じことが言える。どんな時でも、まずは基本事項を整理し、平均的な広い視野で判断することが大事だ。

 廃棄物処理法の仕組みについて~廃パネルは有価物か、それとも廃棄物か?

 突然だが、質問。日本の法律ではゴミを主に2種類に分類している。それは何と何か?

正解は、一般廃棄物と産業廃棄物。

 簡単に説明すると、各家庭や企業の事業所等から排出される生活系のゴミは一般廃棄物と定義され、その収集運搬や処理責任は所在の市町村にある。

 一方で、企業等の事業活動によって排出されるあらゆるゴミは産業廃棄物として20種類に定義され、その収集運搬や処理は全て排出事業者の責任となる。これらは「廃棄物と清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法とする)」の中で規定されている。

 例えば太陽光パネルを1000枚くらい設置すると、どうしても1,2枚は落としたり傷つけたりして使えなくなった廃パネルが発生する。その場合、事業活動を行っている企業では排出事業者として産業廃棄物である廃パネルを適切に処理しなければならない。

 ここで、そもそもの話だが、なぜ廃パネルは”廃棄物”なんだろうか? 一番の理由は素材としての価値がないから、つまり有価物でないから廃棄物。

 例えば、発電所の建設中には廃パネル以外にも金属くずや廃ケーブルなど我々にとっては不要な物がいくつか発生するが、それらは廃棄物にならない。なぜなら、金属くずや廃ケーブルは素材としての価値があるため有価物として売買されるから。

 例え有害物質が含まれていても、その適正処理も含めて有価であれば廃棄物にならない。廃携帯電話が良い例。携帯電話の中にも厳密には微量の有害物質が数種類含まれているが、それ以上に金(Au)や銀(Ag)、パラジウム(Pd)などの貴金属が多く含まれているため一定量が集まると有価物として市場で売買されている。

 太陽光パネルは、ガラスが一番多くて60%程、次にアルミフレームが15%程。素材の価値評価には運搬費用や分解・精製費用も考慮する必要があるが、ガラスは重く運搬費用が掛かる上、ガラスだけをきれいに分別して精製するにはより費用が掛かり、素材としての価値はマイナスになってしまうのが現状。

 またアルミフレームは、アルミ単体であれば有価物として市場で取引されているが、パネルから取り外す費用を考慮すると、ガラスのマイナスを補うほどの価値はない。このように、廃パネルが有価物でないことが廃棄物であることの前提になっている。

 太陽電池モジュールの適正処理(リサイクル)ができる廃棄物処理業者

 適切な処理をするには、まず廃パネルが産業廃棄物のどの種類に分類されるかを知る必要がある。産業廃棄物は20種類に分類されている。

 太陽光パネルは厳密に言えば電気機械器具の一種でテレビやエアコン、その他家電製品と変わりない。電気機械器具は、複数の種類の素材が混合して、複合しているために容易に分けることが出来ない一体不可分の廃棄物として扱われる。一体不可分は専門用語。要は様々な素材が混ざっているということ。

 ここで戻るが、太陽光パネルの構造を思い出そう。ガラス、アルミフレームと続いて、次に多い割合の素材は何か? そう。プラスチック素材。

 つまり、廃パネルは産業廃棄物として処理するときに「(6)廃プラスチック類」「(8)金属くず」「(9)ガラスくず、コンクリートくずおよび陶磁器くず」の3つが混合したものとして扱う必要ある。

 最初に産業廃棄物の処理は排出事業者が責任を持つと説明したが、実際に排出事業者が直接処理をすることはほぼ無くて、それぞれの分類ごとに収集運搬や処理の許可を持った会社に委託することが一般的。我々は排出事業者として、適切な許可をもった廃棄物処理会社を選ぶ必要があるが、これが意外と難しい。

 収集運搬や処理の許可を持った廃棄物処理会社は全国にたくさんあるが、廃パネルの場合、上記3つの素材に分類するために破砕や分別等の事前処理をする必要がある。また、有害物質の鉛が含まれていることも考慮しなければいけないので、許可だけでなく、事前処理から有害物質の適切処理までできる総合力をもった廃棄物処理会社が必要とされる。

 近年では、総合力のある会社も増えてきており、また2018年7月に太陽光発電協会(JPEA)が「太陽電池モジュールの適正処理(リサイクル)ができる廃棄物処理業者」を公表したことで以前よりは容易になった。色々な組織が関わって、廃パネルの処理や関連法は日進月歩で進化している。

実務 太陽光パネル循環型ビジネス
山口桃子
エネルギーフォーラム
2023-05-10


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