注目されるコーヒーナップ
コーヒーを飲むと眠気が覚めるのは、コーヒーにカフェインが含まれているからだ。ではカフェインがあるとなぜ眠気が冷めるのだろうか。
それはカフェインが睡眠を促す物質「アデノシン」の阻害剤になるためである。摂取後15〜30分程度で効果が現れ、4時間ほど持続する。
一方で、過剰摂取は胃の不調やカフェインへの依存を引き起こす可能性があり、飲むタイミングや量に注意が必要だ。現代のカフェインを利用したドリンクには、集中力の向上や長時間の活動を約束するエナジードリンクや眠気対策コーヒーなどがあふれている。
最近、もっと単純な方法が注目されている。コーヒーと昼寝(ナップ)の組み合わせ「コーヒーナップ」だ。
いわゆる「コーヒーナップ」は決して新しいものではない。例えば、スペインでは昼食後にコーヒーを飲み、短いシエスタ(昼寝)を取る習慣がある。しかし、この習慣に科学的根拠があるかどうかを専門家が調べ始めたのはごく最近だ。
では、昼寝前にコーヒーを飲むと、それぞれを別にとるよりも脳に大きな効果をもたらすのだろうか? コーヒーナップの分子レベルでのしくみと限界について説明しよう。
眠気の原因 アデノシン
眠気は単なる感覚ではない。化学的、生物学的なプロセスが働いている。
人間の場合、重要な役割を果たす物質の一つがアデノシンだ。アデノシンは神経調節物質で、1日を通して、細胞のエネルギー消費とともに、脳内で少しずつ蓄積していく。
アデノシンが蓄積すると、A1、A2A、A2B、A3という特殊な受容体と結合する。これらの受容体は、睡眠を含む重要な細胞の働きを調節する役割を担っている。
これらの受容体は活性化すると、神経伝達と神経伝達物質の放出を遅らせる。その効果は精神の調光スイッチのようなものだ。結合によって、神経の活動が抑えられ、私たちは眠気を感じる。眠るとアデノシンは分解され、脳は正常な機能を取り戻す。
カフェインはアデノシンの拮抗阻害剤
カフェインはこのシステムを利用し、私たちを覚醒状態に保つ。カフェインは強力なアデノシンのアンタゴニスト(拮抗剤)で、一つひとつの受容体でアデノシンの作用を阻害する。
カフェインが受容体に結合すると、アデノシンがじゃまされて働けなくなる。その結果、神経細胞は発火を続け、神経伝達物質は流れ続け、覚醒状態が維持される。カフェインの濃度が非常に高くなると、アデノシン受容体の大半がブロックされる。
しかし、この関係はいたちごっこだ。カフェインがアデノシン受容体のじゃまをすると、体はより多くの受容体をつくってこれを補う。そして、時間とともに、同じ効果を得るには、より多くのカフェインが必要になる。これが分子レベルで耐性と依存性を引き起こすしくみだ。
覚醒効果は増幅されるのか
昼寝もカフェインも眠気をリセットできる。仮眠はアデノシンを除去することで、カフェインはアデノシンをブロックすることで。
そうなると、コーヒーを飲んだ後に短い昼寝をとれば、覚醒への効果は増幅されるのだろうか?
昼寝そのものが眠気を和らげる。カフェインも眠気を和らげる。だから、両方を組み合わせれば、より強い効果が得らる。
好都合なことに、カフェインの効果が出始めるまで約20~30分かかる。これは理想的な昼寝の長さとほぼ一致する。30分とか1時間以上寝ると、深い眠りに入る。それより短い睡眠であれば、すっきり目覚め、脳への効果が高まる。
睡眠慣性とは、昼寝後に残るだるさのことだ。昼寝と同時にコーヒーを摂取できれば、パフォーマンスが向上する可能性がある。
「コーヒーナップ」はよく話題にのぼっていても、実のところ研究は不十分だ。1997年の研究では、カフェインと短い昼寝を組み合わせた参加者の運転能力が向上したことが確認され、2001年の研究では、カフェインが昼寝後の眠気を軽減すると報告されている。
試してみるだけの価値は十分にある
現在、より厳密な検証が始まっている。初期の結果は有望だ。2020年に発表された予備的な研究では、夜勤の休憩中に30分眠る直前に200ミリグラムのカフェインを摂取するコーヒーナップでも疲労を軽減し、認知機能を向上させることがわかった。
この結果は、一定の利点があることを裏付けるものだと述べているが、研究規模が比較的小さく、研究室で行われたことを認めている。ほかの研究者も同様の欠点を指摘し、より幅広い実生活のシナリオで「コーヒーナップ」の効果を検証する追加研究を求めている。
これらの研究には限界がありる。一つは、被験者のほとんどが20代前半から30代の健康なボランティアだったこと。中高年や睡眠障害のある人は、同じ効果を得られない可能性がある。
個人差も考慮すべきだ。昼寝をしやすい人もいれば、カフェインに異常に敏感な人もいる。コーヒーナップの効果について研究が何を示そうと、結局は人によって、状況によって異なる。
カフェインが注意力や覚醒度を高める効果は確かにあるが、「コーヒーナップ」は決して生産性の特効薬にならず、良質な睡眠の代わりにもならない。それでも、試してみるだけの証拠は十分にあると思う。


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