脳の手術中に「クラリネット」を演奏
脳深部刺激療法(DBS)は、脳の深部にある特定の領域に電極を埋め込み、体内に埋め込んだ刺激装置から電気刺激を与えて、パーキンソン病、本態性振戦、ジストニアなどの症状を改善する治療法である。飲み薬の効果が不十分な場合に適用され、脳の異常な活動を抑制することで、症状の緩和を目指す。
2014年にパーキンソン病と診断されたデニース・ベーコンさん。動作の遅れや筋肉の硬直に悩まされていたため、歩行やダンス、クラリネットの演奏などに支障をきたしていた。
ベーコンさんは脳の手術が演奏能力を改善するかを確認するため、手術室にクラリネットを持ち込んだ。脳に刺激が加わると右手が楽に動くようになり、演奏の向上につながった。

脳の電気刺激を伴う手術中に楽器を演奏するのは、脳の重要な機能を守るための「覚醒下手術」で行われる手法である。主に、運動機能や感覚、言語、音楽に関連する脳の部位に腫瘍や病変がある場合に、それらを損傷させないようにするために用いられている。
手術中に患者が楽器を演奏することで、医師は電気刺激を与えながら、どの部位を操作しても演奏に支障が出ないかをリアルタイムで確認する。これにより、運動機能の中枢や音楽を司る部位を正確に特定し、損傷を避けることができる。
パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS)などでは、電極を埋め込む際に患者に楽器を演奏してもらい、症状がどれだけ改善するかをその場で調整する。
無事手術を終えたデニースさんは、現在は順調に回復してきているという。
脳手術の怖さ「ロボトミー手術」
脳手術で危険性を感じる過去の事例にロボトミー手術がある。ロボトミー手術は、精神疾患の治療法として1949年にポルトガルの神経科医であるエガス・モニスがノーベル生理学・医学賞を受賞た治療法だ。
当時は革新的な治療法とされていたが、多くの副作用や問題が明らかになり、現在では行われていない。
モニスは精神疾患の治療法として、前頭葉の一部を切除する精神外科手術であるロボトミー手術を考案した。当初は不安や妄想に悩む患者が穏やかになるなど、画期的な治療法として高く評価されていた。
しかし、当時の切除の仕方に正確性がなく、不必要に神経細胞を傷つけてしまった結果、副作用や無気力状態になるような問題点が明らかになり、ロボトミー手術は行われなくなった。1950年代に抗精神病薬が発明されたことも、ロボトミー手術が衰退した一因になった。ロボトミー手術は、安易な解決策に飛びつくことの危険性を示す教訓として、現在も語り継がれている。
脳のはたらきや機能が探求され、治療法も多様になった現代、電気的刺激を与え、患者の反応を見ながら行える「覚醒下手術」で行われる手法は安全性が確立されたといえるのではないだろうか。
どのような病気で楽器演奏が行われるか
このような覚醒下で行われる手術にはどんな事例があるのだろうか。例えば脳腫瘍。運動野や感覚野に近い部位に腫瘍がある場合、切除中に機能を温存するために行われる。
パーキンソン病の場合、脳深部刺激療法(DBS)において、電極の最適な位置を特定するために行われることがある。
音楽家がジストニアの場合、特定の演奏動作を行う際に不随意運動が起こる疾患で、脳手術中に演奏してもらいながら治療を行うことがある。
あるバイオリニストの腫瘍摘出中にバイオリンを演奏し、術後の音楽的スキルを保った事例がある。
パーキンソン病治療中のクラリネット奏者が、DBS手術中にクラリネットを演奏し、症状の即時改善が確認された事例がある。
あるギタリストがジストニアの手術中にギターを演奏した事例がある。 このような覚醒下手術は、患者のQOL(生活の質)を維持するために重要な役割を果たしており、特にプロの音楽家など精密な運動機能を必要とする人々に有効な治療法である。
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