BBB(Blood Brain Barrier)

 血液脳関門(blood-brain barrier : BBB)は、血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の物質交換を制限する機構である。これは実質的に「血液と脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構」=血液脳髄液関門 (blood-CSF barrier, BCSFB) でもあることになる。

 ただし、血液脳関門は脳室周囲器官(松果体、脳下垂体、最後野など)には存在しない。これは、これらの組織が分泌するホルモンなどの物質を全身に運ぶ必要があるためである。

 血液脳関門は、血液と脳組織の間で有害物質が脳に侵入するのを防ぎ、必要な栄養素は選択的に脳に供給するバリア(障壁)である。脳の毛細血管内皮細胞が密着結合を形成していることが物理的バリアの基本であり、アストロサイトやペリサイトといった細胞が協力してその機能を制御している。

 だが、この関門を通過する病原体もあり、この関門の存在は、薬剤開発において、脳へ薬を届けるという点で大きな課題となっている。通過する病原体には、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、ポリオウイルス、髄膜炎菌、肺炎球菌、大腸菌などがある。

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 血液脳関門(BBB)の仕組み

 物理的バリア:脳の毛細血管の内皮細胞がタイトジャンクション(密着結合)によって隙間なく連結し、病原体や有害物質の物理的な侵入を防ぐ。

 物質の選択的輸送:アミノ酸やグルコースなど脳の活動に必要な物質は、血管内皮細胞に存在する輸送担体によって脳内へ輸送される。

 排出機能:脳内に入った有害物質を再び血中へ戻す排出トランスポーター(P糖タンパク質など)も存在する。

 アストロサイトの役割:脳の神経細胞と毛細血管の間にあるアストロサイト(星状膠細胞)は、検疫所のような役割を果たし、物質の選別を助ける。

 血液脳関門(BBB)の働きが低下するケース

 ストレス:強いストレスは血管内皮増殖因子(VEGF)の濃度を高め、血液脳関門の機能低下を引き起こすことがある。

 疾患:髄膜炎や脳炎などの炎症性の疾患では、血液脳関門の機能が低下する。

 弱点:アルコールやカフェイン、ニコチンなど、一部の物質は血液脳関門を通過する。

 血液脳関門がもたらす課題としては創薬の面で、脳内の疾患を治療する薬を開発する際、血液脳関門を通過できるかの問題が大きな課題となる。

 例えば、がんの脳転移に対する抗がん剤が、血液脳関門によって脳内に届きにくく、治療が困難になることがある。

 血液脳関門(BBB)の歴史

 最初に血液脳関門の存在を示唆した実験は17世紀、イギリスの生理学者であるハンフリー・リドリー(英語版)によって行われた。彼は動物に静注した水銀が脳内に蓄積されないことを脳血管の密着性が他の血管と大きく異なるからと考えた。

 かつては19世紀後半にドイツの細菌学者のパウル・エールリッヒが血液脳関門の概念の創始者とされていた。彼はウサギの血管にアニリンを注射すると、多くの臓器の組織は染色されるが中枢神経だけは染色されないことに気がついた。

 パウル・エールリッヒは自身の論文では脳組織が染色色素を吸着する成分をもたないため染色されなかったと解釈した。そのため、パウル・エールリッヒはむしろ血液脳関門の存在に否定的であったと解釈できる。

 パウル・エールリッヒの弟子であるエドウィン・ゴールドマンはトリパンブルーをクモ膜下に投与すると中枢神経である脊髄は染まるが他の末梢の臓器が染まらないことを見出した。このとき両者との境界には膜のようなものは発見されず、血管がその役割を担っているものと推測された。他にも複数の科学者らによる一連の実験から血液脳関門の概念が作られたと考えられる。

 最終的に、単糖類、アミノ酸などの生体分子、そして酵素などの生体高分子の脳内での透過性が明らかにされ、血液脳関門の概念が確立したのは1960年代以降、電子顕微鏡を用いて脳内の各分子の移行を形態的に観察した研究がもとになっている。

 その後、血液脳関門は単なる障壁ではなく、脳に必要な物質を血液中から選択して脳へ供給し、逆に脳内で産出された不要な物質を血中に排出する「動的インターフェース」であるという新しい概念に変わっている。



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