日本の“発酵食品”が世界でブーム その陰で危機が
“腸活”など健康や美容、そして“美食”の鍵として世界的なブームとなっている「発酵食品」。発酵食品は、免疫力向上、腸内環境改善、コレステロール値の改善など、健康効果がある。
日本の伝統的な発酵食品にも熱い視線が注がれ、みそ、しょうゆの日本からの輸出は去年、過去最高を記録した。一方、海外での大きなブームの陰で人知れず、失われようとしている郷土の発酵食品が全国に数多くあることがわかってきた。
2013年にユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録され、2024年には「伝統的酒造り」が登録された。いま日本食の価値が再評価され国内外で注目を集めている。

とくに海外で注目が集まっているのは「麹(こうじ)」。ことしアメリカの世界的な経済誌で世界のトップシェフたちから「2025年のトレンド食材」の1つにも選ばれた。
“麹”とは米や麦、大豆などの食材に“麹菌”を加えて繁殖させたもの。米と麹を発酵させて酒やみそを作ったり大豆と麹菌を発酵させてしょうゆを作ったりするなど、日本の発酵食品にかかせない食材だ。
麹菌はカビの一種で本来は人間にとって有毒なもの。しかし日本では長い年月をかけて、この菌が飼いならされて無害化し独自のニホンコウジカビとなった。
この麹菌がタンパク質やでんぷんをうまみの元に変えていく。いま海外では「UMAMI」(うまみ)として日本語のままで通用する言葉にもなっている。
国内では 存続の危機にある発酵食品も…
しかしブームの陰で国内では発酵食品が岐路に立っている。この夏、大阪のデパートで開かれた発酵食品の販売会。通常、特定の地域でしか流通していない珍しい発酵食品が集められ、例年、多くの人で賑わう。ところがことしは例年参加していた店舗の2割近くがこれまでどおりに出品できなかったと言う。
伝統文化ってなくなる、なくなると言われてきたが、ここまで発酵食はそれでもずっと生き延びてきたものがすごく多かった。今は本当に存続の危機になっている。
全国各地で存続の危機にある郷土の発酵食品について国や自治体もほとんど把握していないことがわかった。各地の代表的なものについて、さらに都道府県や市町村などの各自治体そしてその地域で製造している業者や生産者などに生産量は“存続の危機“といえるほどに減っているか。生産者や作り手はどのくらいいるのか。どんな要因で危機となっているのか。確認した。
存続の危機にある発酵食品
▼さけの塩漬け(北海道) さけの保存性を高めるために塩で漬け込み、乾燥・熟成させた保存食。減塩の風潮で食べる人が減っていることやさけの不漁などが原因で危機と考えられる。
▼ごど(青森) 十和田地方に伝わる郷土食で納豆に麹と塩を混ぜて発酵させた食品。地域の人たちの間で作り方が伝えられてきたため、ほとんど商品化されておらず、作り手も高齢となり継承の危機にある。
▼ハタハタずし(秋田) ハタハタを塩漬け・塩抜きした後、麹、米、にんじん、ふのりなどを混ぜて漬け込む発酵ずし。海の環境の変化で原料となるハタハタの不漁が続いていて原材料不足が深刻。去年、明治時代から続く地元のハタハタずしを作っていた老舗が閉業した。
▼雪納豆(岩手) 雪の中に納豆を埋めて発酵させる豪雪地帯ならではの伝統的な製法の発酵食品。担い手が減り一度途絶えてしまったものを地元の人が復活させたが、危機から脱してはいない。
▼くろこ(群馬) じゃがいもの絞りかすを凍結と発酵を繰り返して加工した保存食。嬬恋村でのみ作られており手間がかかるので継承が難しく、作れる人がどれくらいいるかも自治体では把握していない。
▼ごさい漬け(茨城) 大根とさんまやいわし、さけなどを塩ととうがらしで漬け込み、自然発酵させる郷土料理。においが強いため食べる人が減少している。家族で作るところが多く作り手も減少している。
▼ふぐの子のかす漬け(新潟) 本来食べることのできない毒のあるふぐの卵巣を長期間塩につけて解毒し、酒かすにさらに漬け込み熟成させた発酵食品。石川県にも「ふぐの子のぬか漬け」があるが、それとは別の新潟の佐渡に伝わる食品。専門的な知識と手間が必要なため継承が難しく、現在製造している鮮魚店は自治体が把握しているものとしては1軒のみとなっている。
▼白うり漬け(三重) 「伊賀白うり」の芯にしそやしょうが、大根などを詰めて、たまりじょうゆやみそで熟成させた漬物。一部の地域で家庭で作られていたものだが、徐々に作られなくなり、現在では製造している企業が2社のみとなっている。
▼しばずし(広島) 瀬戸内海の因島に伝わる米麹を使う発酵ずし。小鯛など数種類の魚とたでの葉を使うのが特徴。秋祭りのごちそうなどで食べられてきたが、自治体の職員もほとんど知らない“幻のすし”となっている。
▼せんだんご(長崎) 対馬列島に伝わるサツマイモの発酵食品。「ろくべえ」という郷土料理の麺やだんご、ちまきなどにして食べられる。「千の手間がかかる」とされており時間もかかるため、現在では徐々に作られなくなっており、作り手も高齢者ばかりとなっている。
▼あゆうるか(大分) あゆの身、内臓や卵巣、白子などをすりつぶし塩漬けにして熟成させた塩辛。あゆの不漁や減塩の風潮から食べられなくなっており、生産量が減っている。
▼天日干したくあん (宮崎) 天日干しした大根を使用して製造されるたくあん。天日干し大根を作る農家や大根を干すやぐらに必要な竹を刈る人が高齢化し生産量が激減している。
▼みそ(沖縄) 琉球王朝の時代から約170年続く唯一の蔵で、伝統の製法を守り続けてきたみそ蔵のみそ。物価高の影響で大豆や米などの原材料費や輸送費などが値上がりし、さらに “令和の米騒動“で去年から原料である加工米を入手できなくなり一時製造中止に追い込まれた。
失われると復活が難しい発酵食品 微生物の未知なる可能性
発酵食品にかかわる微生物の研究を行う専門家によると、各地で食べられてきた発酵食品が失われていくことは、食文化が失われるだけでない影響があるという。
東京農業大学 教授 内野昌孝さん 「郷土の発酵食品は工業製品とは違って、一度失われると復活することが難しくなります。みそやしょうゆの蔵には『蔵つき菌』とも呼ばれる、その蔵独自の菌が住みつき、その蔵の温度、湿度などの総合的な影響によって、独特の風味形成に影響を与えています。蔵が失われると、その環境をすべて再現することは難しく、同じ味を復活させることは難しくなってしまうのです」
東京農業大学 教授 内野昌孝さん 「郷土の食品における微生物の働きについては未解明のところが多くあり、そのなかには健康機能の高いものなどがあるかもしれませんが、すべて解明されているわけではありません。食品のなかで働いている微生物は安全性が担保されていることでも貴重ですが、食品とともに失われてしまうと、将来人間に有用な働きをしている微生物について明らかにする機会を失ってしまう結果につながりかねません」
ひとつひとつの発酵食品にはその土地土地の気候や環境にうまく人が適応し、そして飢きんなどを乗り越える知識や歴史がつまっている。そうした発酵食品がなくなるということは、先人が残した知恵に触れ、日本の歴史を知る機会がなくなることにつながりかねないのではないか。古い建物や習俗が守られるようにひとびとの暮らしに根付いてきた有形・無形の文化財として、発酵食品を守る新たな知恵を生み出す必要がわれわれ現代人にある。

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