海の百獣の王
先日、「ジョーズ」よりも強い動物は何か紹介をした。サメを食糧にする動物だ。その動物はシャチ(Orcinus orca)だ。シャチはイルカの仲間だが、海の百獣の王だ。オオカミの群れのように集団で狩りをするため、「wolves of the sea (海のオオカミ)」と呼ばれる。
2023年2月、南アフリカでサメの胸を正確無比に切り裂き、肝臓だけを食べるシャチが観察された。そして彼らがほかのシャチにサメの肝臓の取り方を教えていることも観察された。知性も含め人類に匹敵するぐらい強い。
そして、今回、サメの中でも最大のサメ「ジンベエザメ」を狩る姿が観察された。2024年5月、サメの生態を研究するキャスリン・エアーズ氏がメキシコ、ラパス沖で観光客を案内していたとき、シャチの群れが旋回しているのを目撃した。

「哀れな動物がまた苦しめられていると思いました」とエアーズ氏は振り返り、「シャチは獲物をもてあそぶことがあります」と説明する。エアーズ氏は写真家のケルシー・ウィリアムソン氏と海に入り、シャチのおとな4頭と子ども1頭が体長約5メートルのジンベエザメを仕留める様子を撮影した。
日常茶飯事の出来事
シャチが地球最大の魚であるジンベエザメを狩る様子を科学者が初めて動画に収めた。この映像のおかげで、シャチがジンベエザメを日常的に食べており、地球最大の魚をどのように仕留めるのかがついに解き明かされ、2024年11月29日付けで学術誌「Frontiers in Marine Science」に論文が発表された。
これまで、シャチによるジンベエザメの狩りを報告した論文は1本のみだった。メキシコのさらに南側で、釣り人が撮影した映像を元にしていたが、狩りのすべては記録されていなかった。一方、新たな研究では、エアーズ氏が春に撮影した映像に加えて、市民が提供したほかの3本の映像や写真も含まれている。
2018年の最初の狩りは、ラパス北部でアシカとシュノーケリングする予定だったツアーグループが撮影した(狩りが始まったため、一行はボートで待機していた)。2回目と3回目の狩りも、ダイビングボートに乗っていた観光客がそれぞれ2021年と2023年に撮影した。
これらの決定的な証拠のおかげで、研究者らはシャチがどのように巨大な獲物をしとめるのかをすべて説明できた。
巨大な魚を狩る巧妙なチームプレー
まず、シャチたちはゆっくり泳ぐジンベエザメに何度も体当たりして気絶させた。ジンベエザメが平衡感覚を失うと、シャチたちは協力してジンベエザメをひっくり返し、無防備な腹を上に向ける。
「最後の一撃の音が聞こえました」とエアーズ氏は振り返る。これがとどめの一撃だった。
次に、ジンベエザメの腹びれをかみちぎり、失血死させた。その後、脂の乗った巨大な肝臓を含む内臓を食べる。
むごたらしい。かつ、巧妙だ。鳥たちもごちそうにありつこうと、肉の塊に群がった。「まるでジンベエザメに雨が降っているようでした」
1992年に初めて目撃された「モクテスマ」という名のオスが、4回のうち3回の補食に参加していた。モクテスマはおそらく群れを率いていたメスの息子で、サメを捕食する方法を母親から学んだのだろう。4、5頭のメスもしくは若者と一緒にいることが多く、モクテスマ抜きで狩りを始めた例もあった。
「モクテスマの群れ」と呼ばれるこのグループはサメとエイ(軟骨魚類)を専門としているようで、バハカリフォルニア半島南部の沖合でエイやオオメジロザメも狩っている。
モクテスマの名前の由来は有名なアステカの皇帝だ。この群れのメスたちにもケツァリ、ニーチ、ワーイ(マヤ語で「魔女」の意。魔女の帽子のような背びれを持つ)といった名前が付けられいる。
ジンベエザメを食べるこの群れの食性は特殊かもしれない。「ジンベエザメがシャチに狙われるという話は、世界のほかの場所では聞いたことがありません」と海洋大型動物保護財団の事務局長で、ジンベエザメの保護に取り組むサイモン・ピアス氏は話す。「しかし、シャチの群れがジンベエザメに狙いを定めたら、ジンベエザメに勝ち目があるとは思えません」。なお、ピアス氏は今回の研究に参加していない。
ジンベエザメに身を守る術はあるのか
カリフォルニア湾はジンベエザメのホットスポットだ。とりわけ、毎年秋から春にかけて、餌を求めて子ども(体長10メートル以下)がラパス湾に集まる。
これらの子どもは「この種の捕食者に対して無防備かもしれません」とピアス氏は話す。記録された4件の攻撃はすべて、ジンベエザメが安全なラパス湾を離れて南に移動する4月または5月に発生している。
ジンベエザメは体こそ大きいが、穏やかな性格で、横幅1メートルほどの口で主に小さなプランクトンを食べる。とはいえ、簡単に仕留められるわけではない。
おとなは最大20メートルまで成長する。ボウリングレーンと同じくらいの長さだ。たとえ子どもでも、ホホジロザメやイタチザメといった捕食者より大きい。
「ジンベエザメが4〜5メートルを超えると、補食できるのはシャチだけだと思います」と研究に参加したジンベエザメの専門家フランチェスカ・パンカルディ氏は話す。
ジンベエザメは最も厚い皮膚を持つ動物の一つで、特に背中の皮膚は、捕食者の歯で突き破ることができないほど頑丈だ。ジンベエザメは脅かされると、捕食者に背中を向けて丸くなる。しかし、この防御策は、捕食者が1頭の場合のみ有効で、捕食者の群れには通用しない。
ピアス氏によれば、ジンベエザメは「急降下」で危険を回避することもあり、水深2000メートル近くまで急速に潜ることができる。
この防御策に対抗するため、モクテスマの群れは攻撃中、ジンベエザメを何度も水面に連れ戻す。すると、シャチたちは攻撃中に呼吸できるうえ、ジンベエザメが深海に逃げ込むのを阻止できるというわけだ。
ジンベエザメ狩りのホットスポット
モクテスマの群れの見事な狩りが記録されている理由の一つは、サメやクジラなどのカリスマ的な海洋生物と泳ごうと、バハカリフォルニア半島に集まる観光客の存在だ。
地元の漁師やツアーオペレーターは海洋生物学者兼水中写真家のエリック・イゲラ氏に動画や写真を送っていた。イゲラ氏は2008年からバハカリフォルニア半島で、サメやエイを捕食するシャチを研究している。
イゲラ氏は最初に撮影された狩りの写真を見て、シャチがサメの弱点であるお腹のあたりを狙っていると推測した。しかし、狩りの全容が記録されていたわけではなかった。そのため、エアーズ氏とウィリアムソン氏が幸運にも攻撃を撮影し、「ついにパズルを完成させる」まで、シャチが弱点を狙っていたと確認できなかったとイゲラ氏は述べている。
どこを見るべきかがわかった今、シャチとジンベエザメの攻防の目撃情報が増え始めている。ほんの数週間前にも、モクテスマの群れがジンベエザメの子どもを仕留める様子が観光客とガイドによって2日連続で目撃された。
ラパス沖のジンベエザメはほぼすべて子どもだが、「シャチはとても賢いため、大きなジンベエザメを仕留めることもできる」とパンカルディ氏は考えている。カリフォルニア湾の北部にいるジンベエザメのおとなは体長10メートルほどある。
シャチがおとなのジンベエザメを倒すところはまだ誰も見ていない。完全に成長したジンベエザメを倒すのは「壮絶な戦い」で、複数のシャチが協力しなければならないとイゲラ氏は話す。しかし、カリフォルニア湾では、シャチがシロナガスクジラを倒すこともあるため、海の頂点捕食者が世界最大の魚を捕食できるのも当然だろう。
適切な時間と場所で撮影された映像で、「私たちはそれを証明しなければなりません」とイゲラ氏は言う。

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