「このまま全滅するのでは」9割のカキが大量死滅も
2025年秋以降、日本の主要産地である瀬戸内海(特に広島、岡山、兵庫)で養殖カキの歴史的な不漁が発生しており、原因は夏の異常な高水温と高塩分、そして酸素不足が複合的に作用し、カキが大量死した。これにより、飲食店や小売店で品薄や価格高騰が起きており、産地では生産者支援と対策が進められている。
瀬戸内海で広範囲に発生: 生産量8割を占める広島、岡山、兵庫で被害が確認され、一部海域では水揚げしたカキの8〜9割が死んでいた場所も。中身がなかったり死んでいたり、殻を開けても身が入っていない、口が開いたまま死んでいるカキが目立つ。
広島県知事も危機感を示し、農林水産大臣も現地視察を行った。 主な原因は高水温、高塩分、酸素不足などだ。
夏の異常な高温で海水温が上昇し、カキが産卵・放精を繰り返し疲弊しやすくなった。また、夏の少雨により海水の塩分濃度が高止まりし、カキが弱る要因になった。9月下旬からの北風で、酸素濃度の低い海水が海底から上昇したことも影響している。
飲食店・小売店では、広島産が手に入りにくく、北海道産など他産地(味や食感が異なる)への切り替えや、冷凍カキの利用で対応している。価格も上昇傾向。この深刻な状況は、冬の味覚であるカキの供給に大きな影響を与えており、今後の動向が注目されている。
瀬戸内海で養殖カキ大量死
早朝の呉市音戸町。かき筏から揚げられたワイヤには、殻の口を開けたカキがびっしりと並んでいた。海から引き上げられた瞬間、ぱっくりと開いた殻は、身が入っていないことを静かに告げる。
生産者の1人は、殻を指先で軽く弾きながら言った。「これは…生きた心地がしませんよ。この何十年で、こんなのは初めてです」
例年であれば、寒さが深まるほど身が太る「冬の味覚」。しかし今季、呉市東部では 8〜9割が死滅。ふるさと納税の返礼品も提供停止となり、漁協は電話対応に追われているという。
広島県が生産者に聞き取りを行ったところ、被害は県内ほぼ全域へ広がっていた。坂町では「全滅に近い」、広島市では「9月に1割 → 10月に5割へ増加」、福山市では「10月中旬から急増」。来年出荷予定のカキまで死んでいる地区もある。
広島・岡山・兵庫の3県は、日本の養殖カキ生産量の 81%。このエリアが揃って打撃を受けるのは、極めて異例だ。
高水温と高塩分、赤潮も発生
海の変調は、夏の終わりに始まっていた。広島県立水産海洋技術センターの調査では、県中部~東部の海域で 9月の海水温が平年より2.4℃高い状態が続いた。さらに降雨が少なく、塩分濃度も高止まりした。
「カキは元々、川に近い塩分の薄い場所で育ってきた生き物です。高温と高塩分という二つの負荷が重なったことで、生理的な不調を起こしたとみられます」
カキは産卵後に体力を大きく消耗する。例年なら水温低下とともに回復するが、今年はその“回復のタイミング”が訪れないまま、弱った個体が一気に死滅した可能性が高い。
呉市の海では、赤潮の発生も確認された。生産者の1人は、海水をすくったペットボトルを見せながら言う。「11月、海の色が真っ赤になっていたんです。原因はまだ分からないけれど、何かおかしい」
生産者は“資金繰りの崖”の前に立たされている。瀬戸内のカキ養殖は、冬の数カ月で一年分の売り上げをつくる産業だ。
資材費や燃料代は秋に先払いするため、今季のような大量死は、ただの不漁では済まない。「今季は売上が例年の2~3割。小さな業者は支援がなければ半分に減る」 という声もある。呉市の生産者たちは、市に 資金繰りの補助 を要望した。
四国各地でも同様の被害
広島県などで養殖カキが大量死している問題で、四国各地でも同様の被害が確認されている。現場を訪ねると「8割のカキが死んでいる」と嘆く養殖業者もいるなど、被害は香川、愛媛、徳島に及んでいる。
「ここまで死んどる年は初めてやな」瀬戸内海に面する香川県の志度湾で約40年にわたり、カキを養殖している男性(63)はそう話す。男性によると、9月ごろから殻が開いた状態で死んでいるカキが増え始めた。その割合は、平年では3割ほどの印象だが、今シーズンは8、9割に上るという。
売り上げが、平年の2割くらいに落ち込むとみる男性は、来シーズン以降の養殖にかかる費用をどう工面するか気がかりだという。「タネ(稚貝)や機材代の補助をしてくれたらなあ」。そう言って公的支援への望みをにじませた。
志度湾の16のカキ養殖業者が加入する鴨庄(かもしょう)漁業協同組合(香川県さぬき市鴨庄)によると、2023年秋~24年春のシーズンは、水揚げ量はむき身にして約5万キロ(水揚げ高約9千万円)の豊漁だった。一方、24年秋~25年春のシーズンは死んでいるカキが多く、約2万4千キロ(同約5300万円)に落ち込んだ。
「今年はさらに悪いだろう。(水揚げ高は)2、3千万円くらいになるかもしれない」。漁協の担当者はそう不安を漏らす。夏場の海水温の上昇や、雨の少なさなどがカキに影響を与えているのではないかとみているが、正確な原因はわかっていない。香川県水産課によると、同じ漁場でも場所によって死んでいるカキの割合が異なっており、県は漁協などから聞き取りを続けている。
ふるさと納税の返礼品にも影響が出ている。さぬき市では、同湾の養殖カキを返礼品にしているが、業者側から不漁でカキを納められないとの申し入れがあり、17日から寄付の受け付けを停止した。再開のめどは立っていないという。
対策は3倍体のカキ
カキの3倍体(さんばいたい)は、通常のカキが持つ2組の染色体に対し、人工的な処理によって3組の染色体を持つようにしたカキ。この遺伝的な特性により、通常のカキとは異なる特徴がある。
3倍体カキは、受精卵に熱や圧力を加えるなどの人工的な処理(バイオテクノロジー)によってつくる。また、4倍体の親貝と2倍体の親貝を交配させることで、100%3倍体の種苗を生産する方法も確立されている。
現在、日本の主要なカキ産地(広島県、宮城県など)や、アメリカ、フランス、オーストラリアなどで養殖が広がっており、新しい養殖技術として注目されている。 3倍体のカキは、生殖腺(卵巣や精巣)がほとんど発達せず、産卵(放卵・放精)能力が極めて低くなる。
通常のカキは、夏場の産卵期にエネルギーを大量に消費するため、身が痩せて味が落ちることがある。しかし、3倍体牡蠣は産卵しないため、エネルギーを成長や栄養の蓄積に回すことができ、一年を通して身入りが良く、美味しく食べられる。産卵にエネルギーを使わない分、通常の2倍体カキよりも早く成長し、短期間で市場サイズに達する。
海水温の上昇が原因とされるカキの大量死が近年問題となっているが、3倍体カキは夏場の産卵を抑えることで体力を温存できるため、通常のカキより生存率が高まることが期待されている。通年出荷が可能になるため、養殖業者にとって生産の安定化や収入の確保につながる。
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