アフリカの飢餓の原因「ストライガ」

 写真を見ると一見「きれいなお花畑、何という花かな」と見入ってしまう。ところが、紫のきれいな花は全て「魔女の雑草」ストライガ。広大な土地が被害にあっている。この雑草が農作物を枯らしてしまうのだ。

 飢餓は昔の話ではなく、今も将来も重要な問題だ。ユニセフ(国連児童基金)など5つの国連機関が発表した最新の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI 2025)」によると、2024年には世界人口の約8.2%(約6億7,300万人)が飢餓を経験しており、昨年の8.5%よりわずかに減少しただけだ。アフリカの大部分と西アジアの地域では飢餓が引き続き増加した、と報告書は明らかにしている。

 アフリカの飢餓の主な原因は、気候変動による異常気象(干ばつ・洪水)、紛争・政治的混乱、貧困と経済格差(インフラ不足・植民地時代の負の遺産)、急速な人口増加が複雑に絡み合っており、これらが農業生産の低下と食料供給の不安定化を招いている。

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 2030年までに5億1,200万人が慢性的な栄養不足に陥る可能性があると推計されており、その 60% 近くはアフリカで発生すると予測されている。ユニセフをはじめとする機関は、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」の達成が極めて困難な課題であることに警鐘を鳴らしている。

 特に農作物が育たなくなる原因には気候変動と寄生植物「ストライガ」の繁殖が深刻な問題になっている。 なかでもスーダンは農業が主な産業であるにも関わらず、ストライガの被害により、本来の豊かな大地を活用しきれていない。この問題を解決することは、同様にストライガに悩むアフリカ諸国を助けるだけでなく、将来、起こりうる日本への被害を未然に防ぐことにもつながる。

 アフリカの大地に咲く「魔女の雑草」

 北アフリカに位置するスーダンでは「ストライガ」が大きな問題となっている。ナイル川の恩恵もあり肥沃な大地での農業が盛んに行われているが、近年「魔女の雑草」の異名を持つストライガという植物による農業被害が深刻化してきた。

 紫色のきれいな花を咲かせるストライガは、スーダンの主食であるソルガムやミレットに寄生して栄養を奪い、枯らせてしまう。被害は日本の本州の約2倍の面積に及び、損失額は数千億円から1兆円にも達する。経済的に余裕のないスーダンでは大規模な対策を施すことが難しく、ストライガに侵された土地を捨ててしまう農家も少なくない。

 「寄生植物」という言葉はあまり耳にしないが、日本への影響もあるのだろうか。現在のところ、ストライガは日本へ侵入していないし、日本への持ち込みは禁止されている。また、宿主となる作物に十分な水と肥料を与えていれば被害が深刻になることはない。

 ストライガによる農業被害額は、数千億円から1兆円にも及ぶと言われている。この被害が一部でもなくなれば、近年のアフリカの飢餓問題の解決に大いに貢献できると考えている。アフリカが元々持っている豊かな大地で作られたおいしい作物で人々がお腹いっぱいになることがみんなの夢だ。

 ストライガ種子は直径0.3mmほどで非常に小さく、埃のように風に舞う。耐久性が高く、土壌中で30-40年経過した種でも発芽能力を失わない。すぐ隣に植物がこなければ全く発芽せず、宿主となる植物が来るのを土の中でじっと待ち続けることができる。

 いったん発芽すれば、数日のうちに宿主の根に侵入を開始し、通道組織を連結し、茎の伸長を始める。4週間ほどで地上部に出て、10週間もすれば開花し種をつける。一個体から約10万粒の種が作られ、またばらまかれるのである。

 つまり一度ある地域が種で汚染されてしまうと、その完全な駆除は困難であるといえる。アフリカではすでに広大な領域に汚染が広がっているため、その駆逐は不可能である。

 「自殺発芽」でストライガを退治する

 寄生植物の性質をうまく利用した自殺発芽という方法がある。ストライガは、宿主植物がいなくては生きられない絶対寄生植物なので、発芽した後には蓄えた栄養が尽きてしまう前に速やかに宿主植物に寄生しなくてはならない。

 ストライガが、土中では分解しやすい発芽物質「ストリゴラクトン」に応答して発芽する。これは宿主の根が出す「ストリゴラクトン」の近くで発芽するために獲得した能力だ。裏を返すと、宿主植物がいないところで、ストリゴラクトンのような分子を使って無理やりストライガを発芽させてやれば、そのままエネルギーを使い果たして死んでしまう。

 1950年代にストライガの被害がアメリカに飛び火したことがあり、そこからストライガの研究が本格的に始まった。この自殺発芽という方法はその時に考案された。

 ストリゴラクトンをたくさん作って畑にまけば良いのではないかと思うが、ストリゴラクトンのような複雑な分子を合成するにはたくさんの工程が必要で、どうしても合成費用が高くなってしまう。

 ストライガは貧しい小作農の方々の問題なので、とにかく安く作れるものでなくてはならない。また、ストリゴラクトンは、菌根菌という植物と共生して栄養吸収を助ける有益な菌を根に呼び寄せる大切な機能もあり、さらに植物ホルモンとして茎の枝分かれなどを制御していることも分かってきた。

 このように色々な機能を持つストリゴラクトンを畑にまいてしまうと、作物そのものや土の中の菌類など色々なところに影響を及ぼしてしまう。つまり、実際にストライガを自殺発芽で退治するには、簡単に作れ、しかもストライガにしか効かない人工ストリゴラクトンを開発する必要がある。

 名古屋大学の土屋雄一朗教授らは研究の結果、フェムトモル(fmol/L)という非常に低い濃度でストライガの発芽を刺激する自殺発芽剤SPL7を作成した。期待通り、SPL7はシロイヌナズナや菌根菌にはほとんど作用せず、ストライガにしか効かないことも確認できた。

 実際に農薬として認可を得るにはまだ長い年月がかかるが、現在、SPL7がアフリカの環境で実際に自殺発芽を引き起こすかを確認している段階にある。大地に実りをもたらす日も近い。



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