ケヤキの木の上にある緑の塊
ふだんは気づきにくいが、冬になると気づく植物がある。ケヤキなどの落葉樹の枝に丸い緑の塊が着いているの気がつく。ときには1本の落葉樹に数十個も着いていることもある。あれは何だろうか。
あの丸い塊がヤドリギだ。ヤドリギは冬になるとその神秘的な姿から注目を浴びるが、夏も存在している。夏は宿主の樹木が葉を茂らせているせいもあって、気づかれにくい。冬に周りの樹が落葉したときにその姿を現す寄生植物だ。
寄生植物(parasitic plant)というと、他の植物に寄生し栄養分を吸収して生育する植物の総称である。身近なものではヤドリギがある。他にはナンバンギセル、ラフレシア、ストライガなど多種多様。
ヤドリギは、ケヤキなどの木の上で青々と枝を伸ばしているのだが、高い所にあるのでどんな植物かよくわからない。不思議な力のある植物として感じる。
そのためか、ヨーロッパでは古くから神聖な木と考えられ、幸運を呼ぶ縁起物として、クリスマスや年末年始の飾りに用いられる風習がある。
日本でも地域によっては、ヤドリギの果実は人も食べることができるとされる。味はほんのり甘く、ネバネバした食感。高い場所に生えているため採取は容易ではない。
伝統医学では、茎葉が薬用として利用されてきた。鎮痛、強壮、神経痛、血圧降下などの効能があるとされ、ヨーロッパでは現在も研究・利用されている。
ところが、犬に対しては強い毒性があり、嘔吐、下痢、呼吸困難、心拍数の低下などを引き起こす可能性があるため、ペットがいる家庭では注意が必要だ。また、人においても葉のついた小枝を多量に摂取すると有毒となる場合がある。専門家の指示なく利用するのは避けるべきだ。
ヤドリギは半寄生植物
ヤドリギは常緑性の低木で、けっして地表に生えることはない。他の樹木の枝や幹に根を差し込んで水や栄養を横取りする寄生植物で、文字通り「木に宿る木」。ただし、ヤドリギ自身も葉緑素をもっていて光合成をしている。このように栄養の一部を自力でまかなっている寄生植物を「半寄生植物」とよぶ。
寄生植物が寄生する相手のことを「寄主(きしゅ)」といい、ヤドリギはさまざまな落葉広葉樹を寄主する。関東以西の平地ではケヤキ、エノキ、サクラなどに寄生することが多く、山地や北日本ではコナラ、ミズナラ、ブナ、シラカバといった樹木に寄生しているのがよく見られる。
ヤドリギは北海道から九州まで分布しているが日本固有の植物ではない。それどころか同じヤドリギ(Viscum album)という種がヨーロッパから日本にかけてユーラシア温帯の端から端まで分布している。木本でこれほど広い範囲に自然分布する植物は稀だ。
ヤドリギはいくつかの亜種に分けられており、ヨーロッパの平地に分布するのは果実が純白のヨーロッパヤドリギ(V. album subsp. album)という亜種で、日本や中国に分布するのは薄黄色の実がなる東アジア亜種(V. album subsp. coloratum)である。
通常はこの東アジア亜種のことを「ヤドリギ」とよぶ。なお、日本産のヤドリギのうち、実が赤色に熟すものをアカミヤドリギ(V. album subsp. coloratum f. rubroaurantiacum)という品種として区別するが、実の赤味の濃さは連続的で、ただのヤドリギとの境界は明確ではない。
ヤドリギと人間生活
面白いことに、ヨーロッパでも日本でも人々はヤドリギに特別な力を感じるようで、文化的にも共通点がある。
古代ローマの信仰や北欧神話には特別な力を持つ植物としてヤドリギが登場する。ヨーロッパではクリスマスに家の戸口などにヤドリギの枝を吊す風習がある。
その起源には諸説あるが、キリスト教よりも古い古代ケルトの儀式に由来するとも言われている。またイギリスやアメリカには、”kiss under the mistletoe”と言って、クリスマスにヤドリギの枝の下に立つ女性には誰もがキスをして良いという風習もある。このキスの風習についてはキリスト教の影響があるようだが、いずれにしてもヨーロッパのとくに寒い地方では冬でも緑を保つ数少ない常緑植物であるヤドリギは生命力の象徴として特別な力があると信じられている。
日本でも、万葉集に大伴家持がヤドリギを詠んだ次の歌が収められている。
「あしひきの 山の木末(こぬれ)の ほよ取りて かざしつらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ」
この「ほよ」というのがヤドリギの古名で、「山の木の梢からヤドリギの枝を採って髪に飾るのは長寿のおまじないなのだそうだ」というような意味。
この歌は家持が越中国(今の富山県)に国司として赴任したときに正月の宴席で詠んだものといわれています。8世紀のこと。少なくとも当時の越中国ではヤドリギは生命力の象徴と捉えられていたのだろう。
以前、富山県に隣接する長野県北部の山村で、ある年配のご婦人から当地ではヤドリギのことを「ほよ」とか「ほや」と呼んでいると教わった。今もヤドリギがその古名で認識されている地域があることに感激したことを覚えている。
ヤドリギの奇妙なふえ方
他の樹木の枝に寄生するというヤドリギ的生き方の利点の1つは、おそらく、労せずして樹上の高い位置に枝葉を広げて光を得ることができるという点だ。他方、その生き方の困難な点は、どうやって樹上に到達するかである。
多くの植物と同じくヤドリギは種子で増える。しかしヤドリギの種子は地面に落ちたら生きられない。生き残るためには寄主の枝や幹に種子をくっつけなければならない。ヤドリギにはそのための巧妙なしかけがある。
ヤドリギには雌株と雄株がある。雌株には直径7ミリくらいの丸い実がなって、冬に薄黄色または赤色に熟す。実の中には種子が1個入っていて、粘りけのある透明な果肉に包まれている。
この実を鳥が食べると、種子は消化されずに糞といっしょに鳥のお尻から出てくる。このとき種子の周囲のネバネバが糸のように伸びてぶら下がり、風に揺られて近くの枝にくっつく。
日本では冬鳥のヒレンジャクやキレンジャクがヤドリギの実を好んで食べることが知られている。また、ヨーロッパにはやはりヤドリギの実を好むヤドリギツグミという鳥がいる。このように、それぞれの地域にヤドリギの種子散布に貢献する特定の鳥が生息しているのも興味深い事実。鳥まかせ、風まかせですが、運良く寄主にくっついた種子はやがて「発芽」する。
「発芽」といっても、ヤドリギの種子から伸びるのは茎でも根でもなく「胚軸(はいじく)」と呼ばれる器官。ヤドリギの胚軸は緑色で光合成ができるようだ。そしてその先端は吸盤のような形をしていて寄主の枝の表面に付着し、寄生根と呼ばれる特殊化した根で相手植物(寄主または宿主)の組織と結合して栄養分を吸収する。
ヤドリギの花言葉
「ヤドリギ」にも花言葉がある。「困難に打ち勝つ」「忍耐」である。
ヤドリギのちょっと残念な特徴は水落ちしやすいという点。元々自力で水を吸い上げる力が弱いので、切り花で出回っているものはすぐに乾燥してパラパラと落ちてきてしまう。乾燥しやすい特徴を生かしてドライフラワーにしたいが、乾燥すると葉も枝もバラバラに落ちてしまうので歯がゆいところ。
ケヤキやブナ、ミズナラなどの落葉樹や風通しの良い常緑樹に寄生し、2月ごろに開花して、11月~2月ごろに実をつける。実は白、淡い黄色、オレンジなど、ヤドリギの種類によって様々。また、赤い実をつけるアカミヤドリギという種類もある。
常緑性なので、冬の間もグリーンの葉を絶やすことがない。周囲の木々が落葉した後にグリーンの葉を丸く繁らせるヤドリギは、永遠の命の象徴といわれ、縁起の良い木とされてきた。
花言葉の「困難に打ち勝つ」は、寒さが厳しい冬でも青々と茂り、美しい実をつける姿からつけられたようだ。

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