発熱植物というなかま
発熱植物というなかまがいる。自らの細胞代謝(呼吸)を活性化させることで花(肉穂花序など)の温度を外気温より高く保つことができる植物の総称で、主にサトイモ科(ザゼンソウ、ショクダイオオコンニャクなど)やソテツ科に多い。植物で体温をもつというのは珍しい。
代表例は北海道にも自生するザゼンソウ。雪を溶かすほど発熱し、外気温が氷点下でも花温を20℃近くに保つ。生息地の環境にもよりますが1月から5月くらいが花期の。初夏の湿原を彩るミズバショウも同じサトイモ科で、色はともかく形状はよく似ている。
あるザゼンソウの群落において、開花してからあまり時間が経っていないと思われる株は26℃を越える。周辺の環境温度は10℃あまりで、谷地は既に陽が陰っていたことから太陽光に温められたのではないのは明らか。花言葉は「沈黙の愛」「ひっそりと待つ」だそうだ。でも何のために発熱するのだろうか。

今回、ソテツの雌花(花粉錐)や雌花は自ら発熱して赤外線を放ち、赤外線を感知できる花粉媒介者を誘引していることが分かった。
植物が発熱し赤外線を発する
アマゾンに夜のとばりが下りると、ソテツはとうもろこしの芯のように突き出た雄花から、近くにいるゾウムシたちに花粉を届けてくれと呼びかける。その“呼び声”は、植物たちが自らの温度を上げて放射する赤外線だ。
ソテツは自らの温度を周囲より最大15℃も高くできる「発熱植物」として知られている。この発熱によって放射される赤外線が花粉媒介者のゾウムシを引き付けることと、これが最古の花粉媒介シグナルの1つであることを科学者が初めて明らかにし、論文が12月11日付けで学術誌「サイエンス」に発表された。
「間違いなく驚くべき発見です」と、米カリフォルニア工科大学の進化生物学者であるジョー・パーカー氏は語る。「ひとたび明らかになれば、誰もが『自然がこの解決策を進化させるのは当然で、全てが見事に調和している』と感じるような、美しく完璧なシステムです」。なお、氏は今回の研究には関わっていない。
赤外線は私たち人間の目には見えないため、花粉媒介者を誘引するメカニズムとしては奇妙に思われるかもしれない。しかし研究者たちは、動物の色覚が発達する前から存在していたと言う。
「こうした動物たちは、植物を見つける秘密の世界を持っていて、陸上の生命の進化を促しているのです」と、論文の最終著者で米ハーバード大学の生物学者であるニコラス・ベローノ氏は語る。
魔法のようにソテツを見つけるゾウムシたち
論文の筆頭著者であるウェンディ・バレンシア・モントーヤ氏は、学部生時代の研究プロジェクトでペルーのアマゾンで半年間テント生活をしていたときに、森の中でしばしば道に迷った。だから、ソテツ(Zamia furfuracea)の花粉媒介者であるロパロトリア・フルフラケア(Rhopalotria furfuracea)というゾウムシが、やすやすとソテツにたどり着けることに感嘆していた。
ソテツは目立たない植物で、大きな葉と茶色の幹を持つため小さなヤシやシダのように見えるが、針葉樹などと同じ裸子植物だ。ソテツの雄花(花粉錐(すい))も雌花(種子錐)も、花粉媒介者のゾウムシも小さいので、意識して探さないとなかなか見つからない。
「私は当時から、あれほど小さいゾウムシたちがソテツを見つけられることに興味を持っていました」と氏は語る。「私がソテツの雄花や雌花を1つ見つけると、翌日にはゾウムシたちが群がっているのです。まさに魔法のようでした」
ハーバード大学の博士課程学生としてベローノ氏の研究室に入ったバレンシア・モントーヤ氏は、ゾウムシがソテツを探し出すしくみを探求したいと考えていた。なぜならソテツは、花粉を媒介する動物の力を借りて受粉する植物としては最も古い系統にある「生きた化石」だからだ。
科学者たちは化石記録から、ゾウムシが少なくとも2億年前からソテツの受粉を助けていたことを知っている。2億年前といえばジュラ紀の初期、恐竜が地球を闊歩していた時代だ。とすると、ソテツがゾウムシを引き寄せるしくみを理解すれば、花粉媒介者を誘引するしくみの起源まで遡れることになる。
驚くべき発見、完璧なシステム
研究者たちはゾウムシに紫外線染料を塗布して、ソテツの雄株と雌株の間を移動する軌跡を追跡した。写真は雌株の種子錐の裂け目に近づくゾウムシ。この裂け目はゾウムシが種子錐の中に入って授粉を行うための入口で、種子錐の他の部位よりも高温になっていることが多い。
これまでの研究から、ソテツの発熱能力には大きな幅があることが確認されている。上昇する温度は約3°Cから約14℃まで個体差があった。同じ種でこれだけ大きな差があるということは、温度変化が単なる代謝の副産物ではなく、意味のあるシグナルであることを示唆している。
このゾウムシをはじめとする一部の昆虫は、決まった範囲の温度でしか花粉の媒介を行わない。バレンシア・モントーヤ氏は、「私たちは、昆虫は植物の温度の違いを識別できると考えています。『この温度ならこの植物、あの温度ならあの植物』というように学習しているのかもしれません」と言う。
しかしバレンシア・モントーヤ氏が解明したかったのは、ゾウムシは雄花や雌花の温度の変化そのものに反応しているのか、それとも熱とともに変わる別のものに反応しているのかという点だった。
ゾウムシとソテツと模型で実験
科学者たちは米フロリダ州のモンゴメリー植物センターで、先のゾウムシを使って実験を行った。彼らは、花粉をいっぱいにつけた雄株の雄花の温度が最初に上昇し、その後に低下することを発見した。
花粉を受け取る側の雌株の雌花の温度変化はその約3時間後に始まる。おかげでゾウムシは、雄株から雌株へと正しい順序で向かうことができる。
その後の実験で、ゾウムシは雄花の最も高温な部位を好むことが示され、熱が昆虫を誘導している可能性が示唆された。しかし科学者たちは、発熱にともなう何らかの性質がゾウムシを引き寄せているのかもしれないと推測した。
物体の温度が上昇すると、より多くの赤外線を放射するようになる。そして、赤外線を感知することは、温度を感じることとは違う。
この違いを明らかにするため、科学者たちは実験室に3D印刷したソテツの模型を置き、これをポリエチレンフィルムで覆うなどして、一連の実験を行った(このフィルムは、表面から約1cmの距離で覆った場合、赤外線をほぼ透過する)。それでもゾウムシは、周囲と同じ温度の雄株や雌株よりも、熱を加えた雄株や雌株により強く引き寄せられることが確認された。
ベローノ氏によると、過去の研究でも自ら発熱する別の植物について報告されているが、当時は、この能力は寒冷環境で霜に耐えたり、花の匂いが広がるのを助けたり、花粉を媒介してくれる昆虫を温めたりするのに役立っていると考えられてきたと説明する。「発熱が花粉媒介シグナルとなるという確かな証拠はありませんでした」
ヘビや蚊との驚きの共通点
科学者たちはより深く、より微細なレベルへと研究を進め、植物が発する赤外線をゾウムシが感知できるようにしている分子レベルの仕組みも探った。
彼らはゾウムシの触角にあるニューロンで、TRPA1という遺伝子を見つけた。これまでの研究から、この遺伝子は、ヘビや蚊が赤外線により動物を探知するのに重要な役割を担っていることが分かっている。
この結びつきはバレンシア・モントーヤ氏を驚かせた。進化史の中で昆虫とヘビが分岐したのは4億年以上前のことだが、同じ遺伝子が依然としてよく似た働きをしているのだ。「自然は同じ古い分子を再利用しているようです」と氏は言う。
科学者たちは既に、タマムシの仲間であるメラノフィラ属(Melanophila)などが赤外線を感知できることは知っていた。彼らは火災にあった直後の木にしか卵を産みつけられないため、何十kmも離れた火災の赤外線を感知して飛んでくる。
しかし、甲虫による赤外線感知の分子的・細胞的基盤を明らかにしたのは、今回の研究が初めてだ。
とはいえ、ゾウムシがソテツの雄花や雌花の色の変化を見ている可能性はないのだろうか? 研究者たちがゾウムシの視覚の感度とソテツの雄花や雌花の色の幅を調べた結果、ゾウムシが熱帯雨林の背景の中で色だけを頼りにこれらを識別するのは困難であると結論付けた。
さらに、現生植物とその色のデータベースと化石記録を精査した結果、種子植物の科における色の多様性が高いほど植物が自ら発熱する能力を持っている可能性は低く、色の多様性が低いほど発熱能力を持つ可能性は高いと結論づけた。甲虫類は、多くの色を見分け、現代の顕花植物と一緒に進化したミツバチやチョウなどの花粉媒介者よりも早く多様化したようだ。
甲虫こそが赤外線感知の先駆けか
ロパロトリア・フルフラケアは夜行性なので、彼らがアマゾンのソテツを色に頼らずに見つける能力を備えているのは合理的だ。また、彼らがソテツに卵を産み付けるための成長サイクルはソテツと深く結びついている。「つまりゾウムシがいなければソテツはなく、ソテツがなければゾウムシはいないのです」とバレンシア・モントーヤ氏は言う。
今回の研究は、ソテツの受粉に赤外線が重要な役割を果たしていることを示したが、ソテツが作り出す湿度や匂いといったお馴染みのシグナルも、ゾウムシを誘引する上で依然として役に立っている。
すぐ近くにある雄花や雌花への入り口や花粉などを見つけさせるシグナルとして、匂いは赤外線ほど有用ではないが、それでも花粉媒介者を引き寄せることはできる。バレンシア・モントーヤ氏たちは、今後の研究で、ソテツにおける熱と湿度と匂いの相互の関連性について正式に検証したいと考えている。
パーカー氏は、今回の研究は、熱や赤外線の変化に依存する未知の生態系が自然界に存在している可能性を示唆していると言う。
現時点で記載・命名されている甲虫は約40万種で、既知の動物種の約4分の1を占めている。パーカー氏は、甲虫の進化史の長さを考えると、彼らが花粉媒介者として赤外線感知の先駆けとなったのは理にかなっていると指摘する。
「植物が発する赤外線を感知し、感覚的手がかりとして活用できる生物がいるなら、それは甲虫である可能性が高いです」

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