土とは何だろうか?
土、というのは、とても日常的ですぐそこにあるものだ。ひとたび外出すれば、土を見ないで一日を終えることは難しいし、そもそも、わたしたちが住んでいる家の下は、間違いなく土だ。しかし、「土とはなにか」と聞かれて説明できるだろうか?
かんたんにいうと、生き物と岩石、岩石と生き物がちょうど交わったところ。つまり、岩石が分解したものと、死んだ動植物がまざったものが、土だ。砂、粘土、腐植といった、3つの要素を微量なりとも備えていることが、土の特徴だ。
砂とは、もろくなった岩石が細かく砕かれた状態を指す。また、粘土はさらに微粒子で、岩石が一度、植物の根などから出る酸で溶かされてから再結晶することでできる。そして、土の中で起きる様々な化学反応において、粘土は鍵となるような役割を果たす。
最後の腐植というのは、きわめて複雑なもののようだ。字面の通り「腐った植物」に由来するのは間違いないのだが、例えば、落ち葉や枯れ草や根が、ヤスデやミミズの働きで細分化したような状態では、まだ腐植とは呼ばない。それは腐葉土だ。さらに分解と変質が進んだ後で、やっと腐植となる。

土は人工的に作れない。その機能を人工的に再現できない、それは腐植を作ることができないからだ。腐植のレシピは、土の中の微生物しか知らない。その構成物質の大部分は今もわかっておらず、化学式が特定できて名前がついているものは、ほんの数パーセントしかない。
つまり、腐植とは、複雑きわまりない濃密な生命活動の産物だ。生物の遺体を微生物が分解・変質させ、微生物自体の遺体(死菌体)もそれに加わった生と死の混合物ともいえる。それがさらに粘土や砂とまざって、土となる。
土は地球でしかできない
土がここまで生命活動に依存するなら、「地球のみ」の産物ということにならないだろうか。
月の砂は、レゴリスと呼ばれるが、粘土はない。さらさらに見えるけれど粒子は小麦粉くらいのサイズで、粘土よりも粒が大きい。それに腐植もない。火星の場合は、鉄酸化物の粘土はあるけど、やっぱり腐植がない…ということで、これもやはりレゴリスと呼んで、地球の土と区別しようというのが、土壌学の伝統的な定義である。
火星にかつて微生物が存在していて、それが今も地下に埋まっているとしたらどうだろう。そういったものがいずれ見つかる可能性がある。もしも、実在するとすれば、それは土だと言ってよいのだろうか。
いえ、そうとは言えない。例えば、地球で、アンモナイトの化石、恐竜の化石が閉じ込められた地層があったとしても、それは堆積物。土の材料にはなるけれど、それだけで土とはいえない。火星でも同じこと。生物と無生物が、その場の環境を反映して、今まさに相互作用して変化しているかどうか、ということが大切だ。
土というのが、ただ岩石が砕けてできた目の細かい粉末というわけではなく、地球の岩石圏と生物との相互作用の中で形作られ、今この瞬間もダイナミックに変化していく。地球岩石圏の進化と、地球生命の進化がともに、培ったのが土ということになるわけで、とんでもなくスケールが大きい。
地球における土壌の歴史
46億年という地球の長い歴史の中でも土ができたのは、植物が地上に進出した5億年前。それまで地表に土はなく、いわば岩石砂漠のような状態だったと考えられる。
その岩石砂漠に進出したのは、地衣類(菌類と藻類が共生したもの)やコケ植物だ。光合成をしつつ、有機酸を分泌することで岩石の表面を溶かし、リンやカルシウムなどを養分として吸収する。その過程で、岩は少しずつ風化して(溶かされて)、いったん溶けたものが再結晶することで、粘土を生じる。さらに地衣類・コケ植物の遺体由来の腐植がまざりあい、最初の土ができた。地衣類やコケ植物は、岩石砂漠を「耕した」開拓者だった。
その偉業の後、登場したのがシダ植物だ。薄くとも土ができたことで、水を保ちやすくなり、また、根を張ることもできるようになった。シダ植物は、根の周囲に根圏(こんけん)微生物と呼ばれる微生物を養い、協力関係を築いたり、さらには菌根(きんこん)菌とよばれる菌類と共生することで、効率よく岩石を溶かし、栄養を得る方法を確立していった。土はさらに分厚くなり、それによって保水力も増した。また、シダ植物の登場と前後して、ミミズなどの土壌動物も登場して(およそ4億年前)、さらに土をフカフカに変化させた。
やがて、現在のイチョウやマツの祖先にあたる裸子植物が登場する。細胞壁にリグニンという複雑で安定した化学物質を持ち、細胞壁を硬くしっかりしたものにできるようになった。そのために裸子植物は、木質化し大型化できた。
植物にとっては大いなる一歩だったが、リグニンのおかげで落ち葉も倒木も微生物による分解を受けにくくなる。となると植物自身も、植物遺体から養分を得にくくなって物質循環が停滞する。藤井さんの図表で「石炭の蓄積」と書かれているのは、その時期に、分解されないまま地中に埋没した植物遺体が泥炭として堆積し、のちのち石炭となったということを示している。
結局、リグニンを分解する方策を見出したのは、キノコの一種(白色腐朽(ふきゅう)菌)だった。3億年ほど前、まったく新しい酵素で、リグニンを効率よく分解できるようになり、また新たなサイクルがまわっていく。現在もキノコは、リグニンを分解する主役だ…。
植物の根から出る有機酸が鉱物を分解する
植物の根が「土を溶かす」というとはどういうことだろうか?科学的に見ると、根から分泌される物質や酸が、土壌中の鉱物や有機物を分解・溶解し、栄養分として吸収しやすくする現象を指す。
根は物理的に土の隙間に入るだけでなく、化学的な力で土壌環境を変えている。主な仕組みは以下の通りだ。
1. 根から出る「酸」による溶解(化学的な働き) 根は、周囲の土壌(根圏)に有機酸(シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸など)や二酸化炭素CO2を分泌する。これらの酸は、土壌中の一次鉱物(岩石が風化したもの)を分解し、カリウムやケイ酸などを溶解する。不溶性のリン酸などを可溶化(溶かして水に溶ける状態に)し、根が吸収できるようにする。
2. 微生物との共生による分解(生物的な働き)
根は微生物にとっての栄養源(有機物)を分泌する。根の周辺(根圏)には微生物が集まり、彼らが土壌有機物を分解するのを助ける。 菌根菌の活躍: 植物の約90%は根に菌類(菌根菌)を共生させており、これらが根の代わりに広い範囲の養分を吸収し、岩石を溶かす手助けをすることもある。
3. 酸性化による土壌の変化
根が分泌する酸によって、根の周りのpHが低下(酸性化)する。この変化が、土壌中の鉄やアルミニウム酸化物と結びついているリン酸などを切り離し、植物が吸収できるイオン態の栄養に変える。
根は物理的に土を崩すだけでなく、根から分泌する有機酸や微生物の力を利用して、土壌の無機成分を「溶かして」養分を吸収している。このプロセスによって、岩石の風化が促進され、土壌の形成や栄養の循環が維持されている。
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