知っていますか?“骨卒中”
みなさん、「脳卒中」はご存じですね。では、「骨卒中」は、聞いたことはありますか?
「骨卒中(こつそっちゅう)」とは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)によって骨がもろくなり、高齢者に発生する大腿骨(太ももの付け根)や背骨の骨折を指し、脳卒中が脳に突然起こるように、骨に突然起こる重篤な障害として名付けられた。
一度骨折すると寝たきりや要介護状態につながり、肺炎などを引き起こし、死亡リスクが著しく高まることから、脳卒中と同等の危険性があるとして注意喚起されている。
お年寄りなどが、運動不足や栄養不足の時、起きやすいとされる。食事(カルシウム、ビタミンD/K)、適度な運動(ウォーキング、筋トレ)、日光浴、禁煙・節酒が予防・治療の鍵となる。
50歳以上の女性の3人に1人がなるといわれている「骨粗しょう症」だが、男性も70歳以降は2割程度の人が骨粗しょう症になっているという報告もある。また、女性でも男性でも糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病がある場合もリスクが大きい。
要介護の原因ともなる「骨卒中」、特に冬場は注意が必要?予防のポイントを紹介する。
ぎっくり腰だと思ったら骨折?
埼玉県に住む矢納隆幸さん(61)は、おととし12月、思わぬ骨折を経験しました。引っ越しをした直後、ずれていた冷蔵庫の位置を少し直そうとしたときに腰に軽い痛みを感じたと言う。
矢納隆幸さん「こういう中途半端なままで持ち上げようとしたんですよ。そしたら急に腰がガクッといって。ああ、ぎっくり腰やったなって。まさか骨折をしたとは思いませんでした。」
「当初の痛みは軽かったため、湿布を貼って安静にしていれば治るだろうと考えていましたが、3日後、起き上がれないほどの激痛に襲われました。」
「整形外科を受診したところ、医師からは思わぬ診断を告げられました。激痛の原因は、ぎっくり腰ではなく背骨の圧迫骨折。しかも折れていたのは4か所にもおよびました。」
さらに予想外なことに、矢納さんは骨粗しょう症と診断された。骨粗しょう症は、骨密度の減少などによって、骨がもろくなり折れやすくなる病気。矢納さんの骨密度は69%で、骨粗しょう症と診断される70%を下回っていた。
矢納隆幸さん「転んだり物にぶつかったりしたわけではありません。ただ(冷蔵庫を)持ち上げただけなのに、そこまで骨がもろくなっているのかと思って怖かったです。自分よりもう少し上の、70代くらいの高齢者がなる病気だと思っていたので、びっくりしました」
骨粗しょう症の患者は推定で1590万人。平均寿命が延びたことなどから、近年増加傾向にありますが、実際に治療を受けている人は約139万人にとどまっている。
多くの人が、自分の骨がもろくなっていることに気づかずに過ごしているとみられ、矢納さんも経験した圧迫骨折は痛みを感じないことも多く、骨折に気づかないまま長い間、治療をせずにいるケースも少なくないと考えられている。
一度改善しても油断は禁物
骨密度の改善を期待できる投薬治療など、骨粗しょう症は治療法が確立されている。しかし、一度、改善しても油断は禁物。
86歳の根本僚子さんは70代後半で骨粗しょう症の診断を受けた。10年前に背骨の圧迫骨折を経験したときに骨粗しょう症と診断された。
5年ほど注射による投薬治療を続けて、骨密度が上昇したことに安心した根本さんは、自分の判断で通院をやめていた。
しかし2年前。夜、トイレに向かおうとしたときに畳の縁につまずいて転倒し、左の大たい骨けい部を骨折した。すぐに病院で骨をつなぎ合わせる手術を受け、そのまま入院することになったと言う。
根本僚子さん「親指がつまづいた気もするんですけど、危ないと思って転んで、立とうと思ったら立てなくなっていました。このままもう歩けなくなると、運ばれていくときに思いました。絶対帰ってこれないと思いました」
堀中病院 堀中晋院長「骨折が治れば終わりではありません。その次に起こる骨折が怖いんです。 治療を途中でやめると(骨密度の数値が)ガクンと下がるので、続けないとだめです。大勢の方がその点を軽視していて、命も縮まり、生活の質も落ちるということを実感していないと思います」
骨粗しょう症 放置すると手遅れに
骨粗しょう症は、一度骨折すると、次の骨折のリスクが高まるとされている。 何も対策をしないままだと、骨折をきっかけに筋力や体のバランスが低下し、骨密度も減り続けてしまう。
骨粗しょう症によって、太ももの付け根である大たい骨近位部や背骨を骨折すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、命に危険が及ぶこともある。特に、大たい骨近位部を骨折した人は5人に1人が1年以内に亡くなるという報告もある。
日本骨粗鬆症学会は、こうした状態を新たに「骨卒中」と名付け、注意を呼びかけています。俳優のいとうまい子さんは、母親の骨折を通して、その深刻さを実感した。
いとうまい子さん「転倒して手首を骨折したのをきっかけに、自分でご飯を食べられなくなって、だんだん体も弱って、施設に入った。
自分でお手洗いにいきたいと動いて、また転倒して、今度は、大たい骨を骨折して…。それで結局あっという間に、旅立ってしまった。本当に気をつけなければいけないことだなと身にしみて感じています」
早期発見がカギ 低迷する受診率
治療法は確立されているため、骨密度を測るなどして骨粗しょう症を早期に発見できれば骨卒中の予防や対策にもつながる。
しかし、骨粗しょう症検診の受診率は5%と極めて低い状況。特定健診(メタボ健診)が53%、がん検診が40%台であるのに比べても、その低さは際立っている。国は2032年までに受診率を15%に引き上げようとする目標を掲げている。
また、骨卒中は、自治体の医療費も圧迫している。千葉県山武市が負担している、後期高齢者の医療費のうち、「骨折」はここ数年、常に上位に入っている。2024年度は3億8000万円を超え、全体の5%近くにのぼる。
2040年には人口の半分が高齢者になるとされている山武市にとって、骨折を予防することは医療費削減に直結する重要な課題。
高齢者を対象に「転倒骨折予防プロジェクト」を立ち上げ、2021年から2028年までの累計で、医療費を最大4億円削減することを目標としている。
歯医者で早期発見!新たな取り組みも
こうしたなか、骨卒中の原因となる骨粗しょう症を、早期に発見する取り組みも広がっている。名古屋市にある歯科医院では、歯の治療のために撮影したレントゲン写真を使って、骨粗しょう症のリスクを判定する取り組みを行っている。
レントゲン写真に写った下あごの骨の厚みと粗さを、専用のソフトウェアでAIが判定。この表面が薄かったりボロボロだったりすると、全身の骨粗しょう症のリスクが高いとされる。2024年にシステムを導入して以来、およそ100人の患者で骨粗しょう症のリスクが見つかった。
リスクが高いと判定された患者は地域の整形外科などにつなぎ、診断は専門の医師が行う。このソフトウェアは、都内にあるIT企業と大学が共同開発したもので、これまでに全国200以上の歯科医院で導入されている。
高リスクと判定された人の約7割が、精密検査でも骨粗しょう症と診断されていて、歯科での受診のついでに骨粗しょう症のリスクが分かることから、検診の受診率の向上に貢献すると期待されている。
朝日大学教授 勝又明敏さん「歯科医院では歯周病などの治療のために、ほぼ100%の患者さんに対してレントゲン画像が撮影されます。写真の二次利用でスクリーニングできるというのが大きなメリットだと思っています」
骨卒中予防のポイントは
「骨卒中」の対策で大切なのが運動。最新の研究では、骨密度の上昇に効果があるというウォーキングも発表されている。信州大学の増木静江教授が研究している「インターバル速歩」という運動方法。
「インターバル速歩」は、ふだんの歩き方とは異なる2パターンの速度で歩くのが特徴。まずはふだんよりやや遅いペースの「ゆっくり歩き」を3分。次に息が弾む程度の「早歩き」を3分続ける。これを5セット、1日30分を目安に行う。
胸を張った姿勢で、腕を前後に大きく振り、かかとから着地して大股で歩くことがポイント。もともとは、生活習慣病の改善を目的に約20年前に開発された「インターバル速歩」。
大学のある長野県松本市では、市内25カ所で定期的に運動教室が行われていて、これまでに2000人以上が参加した。
増木教授は閉経後の女性およそ230人に、週4日以上、5か月間にわたってこの運動に取り組んでもらい、骨密度の変化を測定しました。
その結果、腰椎の骨密度が低かった64人が平均で1.8%、大たい骨けい部の骨密度が低かった80人では平均で1%、それぞれの部位の骨密度の上昇がみられたという。
10年間、運動を継続し、腰の部分の骨にあたる腰椎の骨密度を今年10月に測定したところ、10年前と比べて9%上昇したという60代の女性もいた。
信州大学学術研究員医学系スポーツ医科学 増木静江教授「今回のわたしたちの結果は、骨密度の低い人の方がより効果があります。早歩きのきつさがとても大事で、それぞれ7割ほどの体力でトレーニングしてもらうことで骨密度が改善しました。体力がない人でも、その人にとっての7割の負荷なので、ケガのリスクも少ないです」
骨密度を上げる食生活・運動が大事
骨卒中の予防には、食生活を見直すことも大切。
浅野聡さん「1日3食しっかり食べてカルシウムを十分にとることが大事。また、カルシウムの吸収を高める作用のあるビタミンDは日本人の9割が不足しているといわれている。
さけやさばなどの魚介類やきのこに比較的多く含まれているのでお勧め。納豆などに多く含まれているビタミンKが不足すると大たい骨が折れやすくなるという報告もある」
自宅にこもりがちで歩く量も減る冬場は、筋肉量や大たい骨の骨密度などの量が減るリスクが高まる。
骨粗しょう症の予防のためには適度に体を動かすために外出をすることも心がけたい。そして、自宅にいるときに、特に注意したいのが“転倒”。転倒をきっかけに骨卒中にならないように、転倒しやすい場所を確認しよう。
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