絶滅に瀕するサイのなかま
2018年3月19日にケニア、オルペジャタ保護区のキタシロサイのオス1頭が死亡(スーダン)し、これによりオスが絶滅した。現存するキタシロサイはメス2頭で自然繁殖では絶滅することが決定した。
サイのなかまはキタシロサイに限らず絶滅危惧種である。世界には5種のサイが現生しており、アフリカ大陸の東部と南部(シロサイ、クロサイ)、インド北部からネパール南部(インドサイ)、マレーシアとインドネシアの限られた地域(ジャワサイ、スマトラサイ)に分布している。現生のサイは体毛がなく(或いは薄く)、寒冷地域には分布していない。
しかし、かつてサイの祖先たちは、ほぼ全ての地域(可住域)に分布した。特に漸新世には陸上哺乳類史上最大の種(パラケラテリウム)が現れるなど、繁栄を極めた。

ケブカサイは、更新世にヨーロッパと北アジアの全域に広く生息していた絶滅種のサイだ。科学者たちはこのほど、1万4400年前のオオカミの凍結ミイラの胃の中で見つかった組織から抽出したケブカサイのゲノムの高精度な解読に成功した。
ケブカサイのゲノムを高精度に解読
このゲノムは、最終氷期が終わる直前のシベリアのケブカサイの様子を教えてくれる。分析の結果は、この集団の個体数が、絶滅の数百年前まで安定していたことを示唆している。これにより、シベリアのケブカサイは気候の変化によって約1万4000年前に短期間で絶滅したとする説がさらに裏付けられた。
2011年、シベリア北東部でマンモスの象牙を探していた人々が、永久凍土の中で保存されていた1万4400年前の子オオカミの凍結ミイラを発見した。このオオカミを解剖したところ、さらなる驚きがあった。胃の中に肉の塊が残っていたのだ。肉は灰色がかった色をしていて、金色の毛に覆われていた。
「組織の保存状態は非常に良好で、オオカミは死ぬ直前にこれを飲み込んだようでした」と、スウェーデン、ウプサラ大学の進化遺伝学者で、以前はストックホルムの古遺伝学センターに所属していたカミロ・チャコン・ドゥケ氏は語る。
今回調べられた子オオカミのミイラはメスで、シベリアのトゥマット村の近くで発見されたため、2015年に発掘された姉妹と共に「トゥマットの子オオカミ」と呼ばれている。
幼い姉妹は、おそらく巣穴の崩落か地滑りに巻き込まれて氷に埋もれた。細部まで驚くほどよく保存されていて、どちらも羊皮紙のような皮膚に覆われ、暗褐色の毛皮がまだら状に残っている。1頭は歯をむき出しにした状態で永遠に凍りついている。
突然の埋葬は子オオカミたちの最後の食事も凍結させた。彼らの胃には、鳥の羽根、植物片、糞虫の一部まで、さまざまなものが入っていた。けれども主要な栄養源は、ケブカサイの肉片だったようだ。
ケブカサイは巨大な草食動物で、これまで知られているサイの中で最も大きい角をもつ。シベリアは彼らの最後の砦だった。子オオカミの餌となったこの個体は、最も新しいケブカサイの化石の1つだ。
一部の推定では、ケブカサイの化石記録は1万4000年前頃に終わるとされている。つまりこの個体は、地球にいた最後の世代のケブカサイだったことになる。
DNAの保存状態は悪かったが……
子オオカミの胃から見つかったサイの組織には消化の痕跡がほとんど見られなかったため、チャコン・ドゥケ氏らは、ケブカサイの絶滅に関する遺伝学的情報が残っているかもしれないと考えた。しかし、DNAの保存状態は悪かった。
「完全なゲノムを組み立てるのは困難だろうとは分かっていましたが、この標本があまりにも魅力的で、挑戦せずにはいられませんでした」と、論文の筆頭著者でスウェーデン、ストックホルム大学大学院生のソルベイグ・グジョンスドッティル氏は振り返る。
研究者たちは組織の遺伝子を、現生のサイの中ではケブカサイと最も近縁のスマトラサイのゲノムと比較した。グジョンスドッティル氏はオオカミのDNAも分析して、組織の遺伝子の痕跡が主にサイのものであり、サイを食べた子オオカミのものではないことを確認した。
ドイツ、コンスタンツ大学の環境遺伝学者のローラ・エップ氏は、今回の研究には関わっていないが、動物の消化管が古遺伝学のための「良い保存庫」になったのは意外ではないと言う。
それでも氏は、今回の論文は、古代の遺伝情報を保存している可能性のある興味深いサンプルの例を増やしてくれたと評価する。ちなみに、エップ氏のチームは2023年にホラアナハイエナの糞の化石からケブカサイの遺伝子を回収している。
「このようなタイプの古代DNA源の可能性の大きさを、私たちはようやく理解しはじめたところです」と氏は言う。
突然の絶滅には人類も関係していた?
ケブカサイのDNAから明らかになった遺伝学的情報を進化史の中で評価するため、研究チームは4万9000年前から1万8000年前にシベリアに生息していた、より古い2点のサイの標本のゲノムと比較した。
その結果、シベリアのケブカサイの集団は、絶滅までの数千年間は個体数が安定していて、近親交配の痕跡はほとんど見られないことが明らかになった。チャコン・ドゥケ氏は、多くの種では絶滅前に数が減り、遺伝的多様性が下がるため、この結果は予想外だったと言う。
ケブカサイが絶滅した時期は、最終氷期の途中の劇的な温暖化の時期と一致する。しかし他の科学者たちは、一時的に気候が温暖になった時期にケブカサイが絶滅したことには、人類による狩猟も関係していたはずだと主張する。
「最終氷期終盤のこうした温暖な時期には、おそらく人類も勢力を拡大していました」と、米フロリダ自然史博物館の脊椎動物古生物学者のアドバイト・ジュカール氏は言う。
氏は2024年の研究を引き合いに出し、古代の人類が「これらのサイを生息域の中でも最適とは言えない環境へと追い込んだ結果、気候の変化や人類による狩猟に対する脆弱性が高まった」可能性が高いと指摘する。なお、ジュカール氏は、今回の研究には関わっていない。
マンモスの絶滅時期と一致
ケブカサイの絶滅の正確な原因については科学者たちの間でまだ議論がある。だが、チャコン・ドゥケ氏は、ケブカサイの大きさが種のもろさにつながったのではないかと考えている。
氏はまた、ケブカサイの集団はまだ遺伝的多様性を保っていたものの、更新世(約260万~約1万年前)の初期にユーラシア大陸の極寒のマンモスステップ(草原)を歩き回っていた数十万年間に比べれば、はるかに少なくなっていたと説明する。このこともまた、サイを災害に対して弱くした可能性が高い。
チャコン・ドゥケ氏らは2024年には、氷河期のもう1つの巨大生物、すなわち、ロシア北東部のウランゲリ島に生息していた最後のケナガマンモスの遺伝子を調べている。研究チームは、孤立した集団は近親交配が進んでいたものの、この地で約6000年間生き延びた後、ツンドラ火災か疫病の発生により突然絶滅したことを明らかにした。
「ケブカサイも似たような経緯で絶滅したのかもしれません」とチャコン・ドゥケ氏は言う。「ケブカサイの集団は安定していたように見えますが、突然何かが起こり、ぱっと消えてしまいました」
シベリアの永久凍土の中から新たな遺伝学的証拠が顔を出せば、ケブカサイを絶滅に追いやった原因について、さらなる手がかりがもたらされるかもしれない。そして最新の発見が示唆するように、絶滅に関する知見は、子オオカミの凍結ミイラの胃の中を含め、あらゆる場所から見つかる可能性がある。

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