口内フローラはさまざまな病気に影響

 今から1000年以上も前、ペルシャの医師イブン・スィーナー(アウィケンナ)は、口腔内(口内)の病気が全身に影響を与える可能性を示唆していた。そして今、最新の研究により、その影響がどこまで及ぶのかが明らかになりつつある。われわれの歯、舌、歯肉に生息する細菌は、全身の病気を早期に発見・予防する手がかりを与えてくれる可能性がある。

 2025年9月に医学誌「JAMA Oncology」に掲載された研究によると、口内に生息する27種の細菌や真菌(に基づくリスクスコア)が、膵臓(すいぞう)がんを発症するリスクの上昇と関連していることがわかった。口内にある細菌を調べることで病気のリスクを知ることも可能だ。

 口腔の健康に対する科学者たちの認識が大きく変化している。それはもはや口の中だけの問題ではなく、「全身の健康状態を映し出す窓」として捉えられている。口内から始まった問題が発展し、やがて全身の健康への影響を及ぼす。

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 理想的な口内フローラは?

 口内細菌は、善玉菌・日和見菌・悪玉菌のバランス(理想は2:7:1)が重要で、健康の要となる。悪玉菌(歯周病菌など)が増殖すると、虫歯や歯周病だけでなく、糖尿病、心疾患、認知症などの全身疾患リスクが高まる。日々の歯磨きとケアが不可欠だ。

 口腔内の健康は、善玉菌(乳酸菌など)が悪玉菌を抑え、歯と歯茎の健康を守る。歯周病菌は毒素(内毒素)を出し、炎症を起こす。これが血流に乗ると、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、早産のリスクを高める。口内環境の健康維持が大切だ。

 人体の表面や消化管(口腔・食道・胃腸)には、合計1000兆個を超える細菌などの微生物が生息していると推計されており、うち口腔内には700種類・ 1000億個以上の細菌が生息するとされています。この細菌たちが織り成す世界が「口腔内フローラ」。

 口腔内に常に住んでいる700種類以上の細菌(常在菌)について、まだわかっていないことも多いのだが、口腔の健康に良い働きをすることが多いか、悪さをすることが多いかによって、便宜的に「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(悪玉菌が優勢のときは悪い働きをし善玉菌が優勢のときは良い働きをする)」に分けられることがある。

 ただし、「悪玉菌」といっても、悪さばかりするのではないこと、明確に区別できな場合も多いことが近年判明している。また、悪玉菌がゼロになってしまうと、善玉菌がうまく働かずに口内環境が乱れる可能性があるようだ。

 つまり、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」のバランスが大切。口腔内フローラのバランスを整えることで、外来病原体の侵入などのや健康上のトラブルを防ぐ効果が期待されている。

 理想的な口腔内フローラの状態は、「善玉菌」「日和見菌」「悪玉菌」の比率が「2:7:1」とされている。

 口腔内フローラが乱れるとどうなる?

 「善玉菌」「日和見菌」「悪玉菌」は、互いに密接な関係をもち、一つの世界(=フローラ)を作っている。フローラのバランスが乱れると、外部病原体からの防御力の低下、感染や炎症、アレルギー反応の亢進(アレルギー反応が強く出やすい状態になること)など、さまざまな影響が生じる。

 「悪玉菌」が増えすぎたとき、むし歯や歯周病などが発生する。悪玉菌はプラークの中で増えやすいため、プラークコントロールが重要になる。

 「日和見菌」が増えすぎたとき。感染症を引き起こす可能性がある。日和見感染症と呼ばれるもので、口腔カンジダ症、が代表的だ。

 「善玉菌」が増えすぎたとき「善玉菌」とされる細菌にも人体に有益でない働きがあることがわかっている。このように、どの菌が増えても悪影響が生じます。重要なのはバランス。

 特にわかりやすい悪影響が出現するのは、歯周病菌の増加。歯周病菌が増えると、口臭や口の中のねばつきなどの不快な症状が現れる。また、口腔内だけにとどまらず、肺や胃腸、心臓や血管などにも影響を及ぼすとされている。

 口腔内フローラのバランスが崩れる主な原因

 口腔内フローラのバランスは、口腔内のセルフケア不足や乾燥、栄養の偏り、糖質の過剰摂取、生活習慣の乱れ、ストレスなどによって乱れやすくなる。

 要因として特に大きいのは、口腔内のセルフケア不足。適切なブラッシング習慣や歯間部の手入れにより食べカスやプラークを除去しなければ悪玉菌が増殖し、口腔内フローラのバランスが崩れ、歯周病やむし歯が生じることになる。

 腸内フローラは、小腸や大腸の粘膜のフローラで、専門的には「腸内細菌叢」と呼ばれる。口腔内フローラよりもずっと細菌数は多く100兆以上。食物の分解、栄養の吸収、体内の免疫の維持などに重要な役割を果たす。

 口腔内フローラと同じく「善玉菌」「日和見菌」「悪玉菌」に分かれ、「2:7:1」のバランスが大切とされている。

 口腔と腸は消化管でつながっているため、口腔内フローラのバランスが乱れると、腸内フローラのバランスに影響するとされている。人間は1日1~1.5リットルもの唾液を飲み込み、食べ物も口から胃、小腸、大腸と通過するため、胃酸で死ななかった一部の口腔内細菌が小腸・大腸を通過、定着する。

 例えば、口腔内で歯周病菌が増えすぎると、一部が大腸まで達する。歯周病菌のほとんどは大腸に定着せず通過するが、それだけで腸内フローラのバランスを大きく乱すとされている。

 つまり、口腔内フローラを整えると、腸内フローラのバランスが保たれやすく、全身の健康状態をさらに維持しやすくなる。

 口腔内フローラを改善するためには?

 すでにご説明した「口腔内フローラのバランスが乱れる主な原因」を取り除くことが重要。

①定期的で適切なブラッシング 1日2回以上を目安に、歯と歯茎の境目をよく磨く。口腔内フローラを整える歯磨き粉やオーラルケアアイテムを使用するとよい。

②定期的な歯間部のケア デンタルフロスや歯間ブラシで1日1回就寝前にプラークを除去する。

③定期的なうがい しっかりブクブクうがいを行った後でガラガラうがいをする。

④唾液分泌量が低下しないような水分摂取 1.5リットル前後の水かお茶が目安

⑤唾液がよく分泌されるようによく噛んで食べる

⑥栄養バランスを保つ

⑦糖質を控える

⑧生活習慣を整える

⑨ストレスを溜めない

⑩適度に休養して体調を整える

上記以外に、数ヶ月に一度歯科医院で定期的に健診を受け、歯石除去、むし歯治療をすることも大切。