島根原発2号機 「プルサーマル発電」

 中国電力は、松江市にある島根原子力発電所2号機で計画しているプルトニウムなどを加工した核燃料を使う「プルサーマル発電」について、2029年度中の開始を想定していることを発表した。

 中国電力は、おととし再稼働した島根原発2号機で、使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムなどを加工した「MOX燃料」を使う「プルサーマル発電」を行う計画で、島根県と松江市から同意を得ていいる。

 プルサーマル(Pluthermal)とは、原子力発電所で使い終わった燃料を再処理して回収したプルトニウムを、ウランと混ぜたMOX燃料に加工し、現在の軽水炉(サーマルリアクター)で再利用する発電方式をいう。プルトニウム(Plutonium)と熱中性子炉(Thermal Reactor)を組み合わせた和製英語である。

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 プルトニウムは長崎の原爆にも使われた核燃料で、ウラン燃料の核分裂により生成される人工の放射性元素、天然には存在しない。主に原発の燃料(MOX燃料)や原子爆弾の材料に利用される。長寿命のアルファ線源であり、体内吸入時の高い発がん性や放射線障害が懸念される。世界的に厳格な管理が求められる核物質だ。

 プルサーマルは、資源有効活用などのメリットがある一方で、安全性や経済性、核不拡散の観点から欠点や課題も指摘されている。

 プルサーマルの利点(メリット)

 プルサーマルの利点は、ウラン資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の削減、既存設備の活用などがある。

 使用済燃料からプルトニウムを回収・利用することで、ウラン資源の消費を約1〜2割削減でき、準国産エネルギーとして自給率向上に寄与する。

 プルトニウムを燃やすことで、高レベル放射性廃棄物の体積を減らすことができるとされている。核燃料サイクルにおいて、使用済燃料をゴミとして処分(直接処分)するのではなく、利用可能な「プルトニウム」を燃料として再利用する現実的な手段。

 高速増殖炉が実用化されるまでの過渡的な技術として、現在の軽水炉の炉構造をほとんど変えずにMOX燃料を装荷して実施できる。

 プルサーマルの欠点(デメリット・課題)

 放射性廃棄物の種類と管理、経済性の低さ、安全技術の確立などがあげられる。

 プルトニウムは燃やすと「高次化(高次化プルトニウム)」し、使用済みのMOX燃料は、ウラン燃料に比べて熱量が高く、発熱量が大きく管理が難しくなるという見方がある。

 再処理やMOX燃料加工の工程が必要となるため、使用済燃料をそのまま処分する「直接処分」に比べて、燃料関連のコストが高くなる。

 ウラン燃料と比較して、炉内の物理的性質が異なり、異常時のブレーキ(反応度制御)が効きにくくなる場合がある、放射性ガスが発生しやすいなどの技術的課題がある。

 プルトニウムは核兵器の材料にもなるため、再処理や燃料輸送過程において、国際的な核不拡散(核兵器転用防止)の観点から厳しい管理が求められている。

 安全性の懸念や、地元に残る使用済燃料の管理問題などから、地域住民や自治体の理解を得ることが不可欠であり、これまでに計画の遅延や反対運動も起きている。

 プルサーマルは「エネルギーの安定供給・資源利用」を重視する立場からは推進されていますが、「安全性・コスト・核不拡散」の観点からは慎重な議論が必要とされています。現在、日本国内では、高レベル廃棄物を増やしてしまう、あるいは資源利用のメリットが少ないという観点から、計画の抜本的見直しを求める声も存在します。

 プルサーマルの仕組み

 通常、軽水炉ではウラン235とウラン238を混合したウラン燃料(二酸化ウラン)を核分裂させることで熱エネルギーを生み出すが、ウラン238が中性子を吸収し2度のβ-崩壊を経てプルトニウム239が生成され、そのプルトニウム239自体も核分裂する。その結果、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均約30%となる(プルサーマル発電を行わない場合でも、運転中の軽水炉の中にはプルトニウムが存在している)。

 それに対し、プルサーマルではMOX燃料と呼ばれるウラン238とプルトニウムの混合酸化物(Mixed Oxide)を燃料として使用する。プルサーマルで使われるMOX燃料はプルトニウムの富化度(含有量)が4 - 9%であり、MOX燃料を1/3程度使用する場合、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均50%強となる。

 なお、高速増殖炉でもMOX燃料が使用されるが、プルトニウムの富化度は20%前後である。もしワンス・スルーにするならば使用済核燃料は数万年管理が必要だが、使用済核燃料から再処理・群分離によりプルトニウムを含む超長半減期核種を分別抽出し、プルトニウムをプルサーマルで焼却してしまえば半減期30年の核分裂生成物に変換でき、長期保管物質を大幅に削減できる。

 原則として、従来の軽水炉のままで運用が可能である。マイナーアクチノイドは高速炉、加速器駆動未臨界炉、核融合炉等でないと焚けないが、少なくともプルトニウムはこれらの新型炉が実用化する前にある程度焼却可能になる。これにより余剰のプルトニウムを持たないという国際公約を守ることができる。

 プルサーマルにより、資源の有効利用が図れる。軽水炉ではウランが潜在的に持つエネルギーの0.5%程度しか使えない。プルサーマル利用の場合0.75%程度となる。

 再処理は使用済み核燃料からウランを回収する事を意味し、ワンススルー方式に比べ高レベル放射性廃棄物の量が大幅に減る。リサイクルされる低濃縮ウランとプルトニウムと貴金属の分だけ高レベル廃棄物が減少する。ガラス固化体の取り扱いは大変(20年間常時監視、その後深地層処分が必要)だが、使用済み核燃料を丸ごと廃棄する場合に比べると、処分場の規模を1/2から1/3程に抑えることができる。

 プルサーマル方式は、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉でプルトニウムを(一部)燃やすこともあり、経済的な面の他、技術的な課題が多い。

 世界のプルサーマル

 冷戦の終結と、ソビエト連邦の崩壊によって核兵器の解体が進んでいるため、世界的なプルトニウムの余剰が核不拡散の観点から問題になっている。一方で、プルトニウム利用の主流である高速増殖炉については、各国で計画の中止や遅延が相次いでおり、プルサーマルをプルトニウム処理の有効な方法と捉える向きもある。

 ヨーロッパでのプルサーマルの実績は長く、1963年に開始したベルギーを始めとして、イタリアやドイツでは1960年代からの経験がある。また、オランダやスウェーデンでも行われたことがある。ただしドイツ・スイス・ベルギーでは抽出済みのプルトニウム在庫を燃やしたらプルサーマルは終了とされており、今後も再処理を行ってプルトニウムを抽出し、積極的にプルサーマルを続けようとしているのはフランスだけとなっている。

 アメリカ合衆国では1960年代にプルサーマルが始められたが、20年間ほど中断が続いた。その後、2005年6月からカトーバ1号機でMOX燃料の試験運転が開始され、同年10月にはエネルギー省所有のサバンナ・リバー・サイトで解体核用のMOX燃料加工工場の建設が開始された。しかし、2015年度の予算教書において、建設費と運営費の高騰を理由に建設が中止された。

 また2005年11月には、これとは別に使用済燃料再処理・MOX加工・廃液ガラス固化・中間貯蔵を目的とした複合リサイクル施設建設の予算が議会を通過、承認された。こちらは2007年までに建設場所を選定し、2010年までに着工する予定となっていた。後に原子燃料リサイクルセンター(NFRC:Nuclear Fuel Recycling Center)として後述のGNEPに含まれた。2006年には、アメリカが国際原子力パートナーシップ(GNEP)を発表し、日本を含む国際協力による高速炉を用いた核燃料サイクルの実施計画が開始されたが、2009年にはアメリカでの計画の実施は中止されている。

原発 最後の選択(週刊東洋経済eビジネス新書No.219)
週刊東洋経済編集部
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2018-07-18