高市首相の健康問題

 高市早苗首相は2月20日、厚生労働省の専門部会が人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の再生医療製品の製造販売承認を了承したことについて、「大変喜ばしく思う。日本のみならず世界で必要とされている患者の皆さまに早く届くことを願う」と歓迎した。

 今回、厚生労働省の専門家部会で審議されたのは、いずれもiPS細胞から作られた、虚血性心筋症という重い心臓病の治療に使われる心筋細胞シート「リハート」と、手足の震えなどの症状が出るパーキンソン病の患者の脳に移植する細胞「アムシェプリ」。

 高市首相もパーキンソン病に患っている。首相は3月上旬にも正式承認されるとの見通しを示した上で「創薬・先端医療分野は、高市内閣の成長戦略の重点分野の一つ。官民で連携した投資促進に向け、さらに取り組みを進めたい」と記した。

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 パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質ドーパミンが減少することで、運動機能に障害が出る進行性の神経変性疾患。主な運動症状は、手足の震え(振戦)、動作緩慢、筋肉のこわばり(筋固縮)、バランス障害(姿勢反射障害)の4つです。50代以降に発症しやすく、国の指定難病ですが、薬物療法やリハビリにより症状をコントロールしながら生活する。

 ドーパミンは、脳内の「報酬系」を活性化し、意欲、快楽、記憶、運動調節を担う重要な神経伝達物質です。目標達成時などに分泌され、「やる気」を引き出すはたらきがある。

 パーキンソン病は高市首相も患っている、年齢とともに起こる細胞の老化が原因とされる病気で、最近の治療法としては、細胞を若返らせる目的で誰もが持っている「幹細胞」を培養し、移植する治療法で効果が得られている。

 そもそも「iPS細胞」とは

 iPS細胞は遺伝子操作により人工的につくった「幹細胞」であり「人工多能性幹細胞」とよばれる細胞を 英語では「induced pluripotent stem cell」と表記するので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれる。名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授。

 人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化する。この細胞が「iPS細胞」だ。

 世界で初めてiPS細胞の作製に成功したのが、京都大学の山中伸弥教授。再生医学を大きく飛躍させる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製技術を確立した。「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」により、2012年のノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードンと共同受賞した。日本人のノーベル賞受賞者としては、最も若い人物である。

 山中教授は、ES細胞の遺伝子に関心を持ち、奈良先端科学技術大学院大学の助教授(現在の准教授)だった2000年頃から、新しい多能性幹細胞の作製方法の研究に取り組んでいた。 数多くの遺伝子の中から、ES細胞で特徴的に働いている4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を見出し、レトロウイルス・ベクター注)を使って、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養した。

 すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができた。これが2006年に世界で初めて報告されたマウスiPS細胞の誕生である。

 「iPS細胞」実用化への歩み

 iPS細胞研究は、標準的なiPS細胞の基準作り、安全なiPS細胞の作製方法の確立、動物を用いた治療効果と安全性の確認など、iPS細胞が発表された 2006年と比較すると大きく研究が進展した。

 加齢黄斑変性をはじめ、いくつかの疾患に対して、iPS細胞を使った臨床研究や治験が本格的にヒトで実施されている。2014年には、加齢黄斑変性の患者さんに患者さんの体細胞から作ったiPS細胞由来の網膜の細胞を移植する臨床研究が始まり、 2018年には再生医療用iPS細胞ストックから作ったドパミン産生神経細胞をパーキンソン病の患者さんに移植する治験が始まった。

 また、患者さんの細胞から作ったiPS細胞由来の細胞を用いて、難病治療薬を探索する研究も進んでおり、2017年にはFOP(進行性骨化性線維異形成症)の候補薬の治験、2019年には筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした創薬治験、2020年には家族性アルツハイマー病患者を対象とした創薬治験が開始された。

 そして、今回2026年1月19日、iPS細胞を使った治療のための2つの再生医療製品について、厚生労働省の専門家部会は製造販売することを了承した。今後、正式に承認されれば世界で初めての実用化になるとみられる。

 製造販売を了承されたのは、いずれもiPS細胞から作られた ▽大阪大学発のベンチャー企業「クオリプス」が開発し、虚血性心筋症という重い心臓病の治療に使われる心筋細胞シートと▽手足の震えなどの症状が出るパーキンソン病の患者の脳に移植する「住友ファーマ」の製品。

 今後、7年以内に全ての患者を対象に調査を行って、さらなる有効性や安全性を検証することなどが条件とされた。

 iPS細胞の作製発表からようやく「実用化」という感じだが、「20年」での実用化は比較的早いペースで、研究資金や制度面での国をあげた支援も後押しとなった。今後、多くの患者の命を救い、新しい投資を呼び込むサイクルができて初めて成功といえる。今回をきっかけに再生医療の分野で国際的な競争力の維持につなげられるかが課題だという。