世界の混沌
第二次世界大戦が起きた原因は何だろうか?資本主義社会は産業革命などの技術発展をもとにして優れた製品を生み出し、豊かな世界を築きあげた。大量生産によってつくられた製品は安くなった。外国からはさらに安い製品が輸入されるようになる。
しかし、物が売れなくなると各国は外国の輸入製品に関税をかけ始め、自国の産業を守ろうとした。これが「ブロック経済」である。そして物が売れなくなると、失業率が上昇し恐慌が起きた。各国はますます自国産業を保護するようになる。
資源がなく、技術のみの産業で生活していた日本は、石油を輸入できなくなり困窮してしまう。当時は石油そのものだけでなく、石油を精製する技術も米国が独占していた。かつての日本は石油を確保するため太平洋戦争を起こした。

「レアアース」は中国の独占状態
これは過去の話ではなく、現代も起きている。トランプ大統領は各国の輸入品に対して「関税」を何度も何度もかけている。「米国はこれまで安い輸入製品により、世界に搾取されてきた」「それを取り戻す」というのだから「ブロック経済」そのものである。
米国だけではない。中国の最高指導者・トウ小平がかつて「中東に石油あり、中国にレアアースあり」と述べたように、その独占的支配を1980年代以降から狙っていた。現在、中国が市場を独占している状態が続いている。
レアアースは採掘後、不純物を取り除く精製という過程が必要になるが、中国がこの過程についても世界の90%以上のシェアを占め、まさに中国なしではレアアースの需要を賄えないのが現実になっている。
中国は今では「埋蔵量で全世界の5割弱、採掘で7割弱、精錬は9割強のシェアを握る」という圧倒的立場を築き、他国を脅すカードに利用している。
レアアースを巡る世界大戦
その問題への関心が高まった直近の出来事は、中国が25年10月に「レアアースの輸出規制を強化する措置」を発表したことだ。すかさずトランプ米政権は「対中関税を100%追加する」と反応し、米中が再び激突した。
中国の新しい措置は、「外国企業などが中国産レアアースを0.1%以上使用した製品を輸出する場合、中国の許可が要る」というもので、中国のルールを全世界に適用しようとした。
これがまともに運用されれば、世界は中国の言いなりになりかねない。アメリカは「中国対世界だ」と反発し、同盟国と連携してレアアースの脱中国を加速させている。
トランプ政権は、一部のレアアースについて、採掘から加工までの生産工程のいずれかの段階が、中国、ロシア、北朝鮮、イランなどで行われたものについて2027年から納入を禁止することにしている。これにより、アメリカは軍事用のレアアースを含む永久磁石については中国への依存がゼロになる。
スマートフォンや電気自動車、防衛産業まで、あらゆる先端産業に欠かせない重要鉱物「レアアース」。そのサプライチェーンで圧倒的なシェアを持つ中国が、外交の「切り札」として行う“輸出規制”に日本企業も翻弄されている。「レアアース」の脱中国依存は進められるのか。
そもそもレアアースとは何か
電気自動車やハイブリッド車のモーターの部品として使われる強力な磁石の材料の「ネオジム」「ジスプロシウム」、スマートフォンなどの液晶の色を鮮やかにする「イットリウム」「テルビウム」など、17の元素の総称をレアアースという。
少量を加えるだけで工業製品の性能が大幅に向上することから、「産業のビタミン」とも呼ばれる。家電製品だけでなく、戦闘機やミサイル、潜水艦などの軍需製品にも使われることから、近年、国の安全保障の面からも注目が集まる。
アメリカの地質調査所によると、世界の埋蔵量トップは中国でシェアは51%。次いでブラジルが24%、オーストラリアが7%などと特定の地域に大きく偏り、資源がない国にとっては、供給源の確保が大きな課題になっている。
さらに、レアアースは採掘後、不純物を取り除く精製という過程が必要になるが、中国がこの過程についても世界の90%以上のシェアを占め、まさに中国なしではレアアースの需要を賄えないのが現実になっている。
レアアースをめぐっては、2010年、沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船による衝突事件のあと、中国は日本へのレアアース輸出の手続きを厳格化。当時、世界のレアアースの供給量の97%を中国が占める中、日本の電機メーカーの生産に影響が出るなど、大きな打撃を受けた。
これをきっかけに、日本ではレアアースに代わる材料の技術開発が進んだものの、価格競争力に勝る中国産へのビジネス面での需要は根強く、今でも国内の供給量のおよそ7割を中国に依存。
去年4月、中国が世界に対してレアアースの輸出規制を強化した際には、自動車メーカーで一部の生産が停止するなど、中国のさじ加減一つで、日本の産業界が大きく揺さぶられる状況は今も大きく変わっていない。
アフリカに資源を求めて
こうした状況の中で迎えた南アフリカでの国際会議。私たちは、日本政府の交渉の実務を取りしきる、経済産業省鉱物課の小林直貴課長補佐に密着した。
今回、小林氏に密着することで、日本がレアアースをめぐって今何をしようとしているのか、じかに知ることができると考えたのだ。
小林氏は出発前、私たちの取材に対し、「レアアースの供給源の多角化は日本にとって最重要の課題だ。現地では自分たちの目で現場を確認し、現地政府や企業に対し、確保に向けた日本政府の思いを伝えたい」と話していた。
アフリカにはアンゴラやタンザニア、それにナミビアなど、複数の国にレアアースがあることが確認されていて、日本にとっては、中国以外の将来的な供給元としての期待は大きい。
中でもナミビアは、日本の独立行政法人のJOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構が6年かけて探査した結果、強力な磁石の材料になる「ジスプロシウム」などのレアアースがまとまった量見つかっており、日本からすると、他国に先駆けて開発契約を結ぶ必要があった。
国際会議の会場では、政府や企業のブースが所狭しと並び、入れ代わり立ち代わり、個別に議論を重ねていた。
世界中の鉱山でレアアースの探査を行うフランス企業の担当者は中国依存度が高いレアアースの現状に「フランスやドイツ、アメリカ、韓国などの工業国にとって輸出規制は脅威でリスクだ」と危機感を隠さなかった。
会場は冷房が効いていたものの、参加者の熱気で、ジャケットを羽織っていると暑く感じるほどだった。この会場で日本政府は松尾剛彦経済産業審議官がナミビアの鉱山エネルギー省の高官と会談。
およそ1時間行われた会談で、日本側からはナミビアのレアアース開発に参画する日本企業をできるだけ早く決めた上で、すみやかに採掘に移りたいという考えを伝えた。
これに対して、ナミビア側からは、日本の考えを歓迎する意向を示し、今後、スピード感をもって準備を進めていくことを確認した。
アフリカ産「レアアース」は高くなる
会談の翌日、経済産業省の小林氏の姿は南アフリカに隣接するナミビアにあった。場所は首都ウィントフークから一部舗装されていない道を使って車で5時間ほどの場所にあるレアアース鉱山だ。
日本のJOGMECが「レアアースを含む鉱石がある」とした場所である。レアアースの中でも、とりわけ世界でも限られた国でしかとれない希少な「重希土」(じゅうきど)がこの場所から出ると聞き、その目で一度確かめようと実際に現地に赴いたのだった。
「強力な磁石になる『ジスプロシウム』、それにコーティングなどにも使える『イットリウム』も見つかったぞ!」
現地企業の関係者がナミビアの鉱山で採れた鉱物に探知機をあて、その結果を自慢げに見せた。同席したナミビア日本大使館の麻妻信一大使は「ナミビアにとって、国内での産業育成が重要な課題。一方、日本にとって、重要鉱物のサプライチェーンの多角化が急務となっていて、お互いに協力し合える関係にある」と述べ、両国の協力の余地は大きいという見方を示した。
ただ小林氏によると、現実には課題が山積みだという。まずはインフラ。
ナミビアで採掘・精製したレアアースをどのように日本に運ぶのか、まだ何も決まっていない。現地から空港まで車で5時間、中には舗装されていない道路もある。
開発が始まれば、鉱山で働く人の住宅や生活インフラの整備も必要になる。
2番目の課題は価格だ。中国は「中東に石油あり。中国にレアアースあり」として、1980年代から国家戦略としてレアアースの開発を進めてきた。その結果、安価なレアアースで中国は世界市場を席けんしたが、ナミビアにはそのノウハウも資金もない。
「ナミビア産のレアアースはおそらく高価になる」と小林氏。ただそれでも、資源に乏しい日本にとってこのプロジェクトは成功させなければならないという。
「価格がどれだけ高くなっても、経済安全保障上、特定の国にレアアースを依存している状況はなんとしても脱却しなければならない。そうしないと国内産業を守れない」
レアアースを使わない独自技術で挑むが
レアアースの脱中国依存を目指す動きは、日本の企業の現場でも起きている。
特殊鋼メーカー、大同特殊鋼(本社・名古屋市)は、中国に100%近く依存している重希土を一切使わない「重希土フリー磁石」の開発に成功。
岐阜県中津川市にあるグループ会社の工場で磁石を製造し、自動車メーカーなどに納めている。1月、中津川市の製造現場を訪ねた。
工場の生産ラインでは、原料を固めたり、プレス機械で押し出したりする工程を経て、リング状の磁石や板状の磁石が次々と作られていた。
この会社が「重希土フリー磁石」の開発を始めたのは2009年。尖閣諸島沖の衝突事件が起きる1年前、重希土の中国依存を減らしたいと、ある日本の自動者メーカーから相談をもちかけられたことをきっかけに、以来7年がかりで試行錯誤を重ね、ついに実用化に成功した。
長年開発に携わる 塩井亮介さん「これがハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モーターに使われている」そう話すのは、長年「重希土フリー磁石」の開発に携わってきた塩井亮介さんだ。
塩井さんによると、この磁石は重希土を一切使っていないにもかかわらず、重希土を用いた磁石と遜色のない性能を備えているという。
いったいなぜ、そんなことが可能なのか。それは、磁石を製造する際に「温度」や「時間」などの条件を変え、磁石の粒子を最適化するアプローチだ。
この会社では、さまざまな条件の設定を何度も繰り返し、ついに重希土を使った場合とほぼ同等の耐熱性を引き出す条件を探り当てた。
中国がレアアースの輸出規制に踏み切った去年4月以降、このメーカーが開発した重希土フリー磁石に関する問い合わせは10倍以上に増えた。
私たちが取材に訪れたこの日も、ある日本のメーカーとの商談が行われていた。
脱中国依存 立ちはだかる壁
しかし、重希土フリー磁石を普及させていくには課題もある。重希土を使った中国製の磁石は、このメーカーが作る重希土フリー磁石よりも一般的に安い。
さらに、重希土フリー磁石は特殊な構造をしているため、企業が新たに導入しようとすると、磁石を組み込むモーターの設計まで変えなければならない。企業にとっては余分なスイッチングコスト(切り替え費用)がかかってしまうのだ。
宮脇さんは「単純に価格だけでいくと、中国のメーカーに対して不利かなというふうに思う。我々としては、やはり中国製の磁石と同等の高機能な磁石を“安定的に供給する”というところを目指していきたい」と意気込みを語った。
脱中国でなくレス中国を目指すべき
レアアースをめぐる世界の情勢に詳しい、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの清水孝太郎主席研究員は、日本がレアアースの中国依存度を「完全にゼロ」にするのは非現実的だと指摘する。
「“ゼロチャイナ”でやっていけるかというと、やはりお金もかかるし、競争力もなくなってくる。日本は“レスチャイナ”を目指すのがいいのではないか。短期的には、重希土フリー磁石の開発やリサイクル技術などを組み合わせて、中国依存度を下げていくというのが現実的な選択肢だ」
一方、レアアースは量子などの最先端技術に欠かせないもので、潜在的な可能性を失わないようにするためには、中国に振り回されないサプライチェーンの構築が欠かせないと指摘している。
「レアアースの供給途絶リスクと向き合うのは大変だが、レアアースを使わなくなると先端技術の開発に中長期的なダメージが出る。今後、さまざまな分野で使われることが見込まれるため、長期的な目線で日本独自の調達や国内での技術開発を進めていくことが必要だ」
日本のレアアース戦略はどうあるべきか
日本のレアアースをめぐっては、目下、南鳥島周辺の海底にあるレアアースを含んだ泥を採掘し、資源としての活用に向けた検討も進められている。
南鳥島海底から採掘されたレアアースを含んだ泥。ただ、これも採掘や運搬、精製などに多額の費用がかかる見込みで、実用化に向けてクリアしなければならない課題は少なくない。
今回の一連の密着を通して、私たちは、レアアースの「脱中国依存」は決して不可能ではないことが見えてきた。一方、経済性との両立を考えると、それは言うほど簡単ではないということも。
たとえコストが高くなっても「脱中国依存」を優先させるのか。その場合、増えるコストは誰がどのように負担するのか。日本の覚悟が問われることになる。

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