スノーボールアースの原因
地球全体がかつて、氷におおわれていたとする考えを「スノーボールアース(全球凍結)」仮説という。その主な原因は、岩石の化学風化によって、温室効果ガスである二酸化炭素CO2が大量に消費されたことにある。これにより地球が冷え、氷床が太陽光を反射してさらに寒冷化するフィードバックがはたらいた。
現在の地球に見られるような液体の海は大気中の二酸化炭素を吸収するため、大気中の温暖化ガスの濃度はある程度に抑えられ温室効果による温度上昇も抑制される。しかし、全球凍結状態では海が凍り付いてしまうことから、二酸化炭素をほとんど吸収せず、火山から放出された二酸化炭素は海に吸収されることなく大気中に蓄積していく。
このため、二酸化炭素の濃度は約2000年間かけて最終的に現在の400倍程度に達したとされる。その大きな温室効果が大気の温度を最大で 100 ℃ 近く上昇させ、結果として平均気温は 40 ℃ 程度となって氷床が溶けだし、全球凍結状態から脱却したと考えられている。

この仮説において注目するべき点は、それまで「ありえない」と考えられてきた「全球凍結」という壮絶な環境変動が実際に起こったらしいこと、それが原因となって原生生物の大量絶滅(大絶滅)とそれに続くカンブリア爆発と呼ばれる跳躍的な生物進化をもたらしたとされる。
新説「小惑星の衝突が引き金だった」
もし何億年も前の時代にタイムトラベルしたなら、地球はまるで映画『スター・ウォーズ』に出てくる惑星ホスのような姿をしていることだろう。凍りつくように寒く、陸地と海をほぼ隙間なく覆う果てしない氷の世界を、乾いた空気が吹き抜けていくのだ。
「スノーボールアース」として知られるこうした全地球規模の凍結状態は、少なくとも2回、どちらも6億年以上前に発生している。世界が巨大な氷の球に変わってしまうなど、何か重大な問題が起こっていたに違いない。しかしその問題とは、一体なんだろうか?
異常な火山活動から超大陸の破壊までさまざまな仮説が唱えられてきたが、2月9日付けの学術誌「Science Advances」に発表された研究は、これまでほぼ無視されてきた新たな可能性について検証している。小惑星の衝突だ。
大きな小惑星が高速で地球に衝突すると、大量の岩石が空に向かって噴き飛ばされる。この噴出物の多くは硫黄を含む鉱物であり、成層圏(大気の最下層より一つ上の層)において日光を反射するエアロゾルとなる。成層圏に十分な量のエアロゾルがあると、地球はまたたく間に寒冷化する。
今回の研究において科学者らは、成層圏に硫酸塩エアロゾルをさまざまな濃度で注入するシミュレーションを行った。巨大な小惑星の衝突によって発生すると考えられるエアロゾルの状態を、地球がうだるほど暑かった時期から、かなり寒冷になった時期まで、過去のさまざまな地球で検証したのだ。
その結果判明したのは、暖かい時期には凍りつくことなく小惑星の衝撃に耐えられる一方、すでに気候が寒冷になっている場合は、地球外からの一撃によってスノーボール状態に追い込まれる可能性がある、ということだった。
興味深い思考実験
現在のところ、これが実際に起こったことを示す地質学的証拠は存在しない。しかしこの研究は、小惑星の衝突がスノーボールアースの原因となった可能性を認識すべきであることを示している。「とても興味深い思考実験と言えます」。英サウサンプトン大学の地球科学者トーマス・ガーノン氏はそう述べている。
この研究はまた、現在開発が進められている、小惑星の衝突を防ぐ地球防衛システムの有用性も実感させてくれる。
「大きな衝撃に続いて地球全体が氷に覆われれば、複雑な生命に壊滅的な影響を及ぼし、人類の絶滅を引き起こす可能性があります」と、論文の筆頭著者である米エール大学の気候力学者ミンミン・フー氏は言う。
スノーボールが解け、複雑な生命が爆発的に増えた
太陽光が長期間遮られると、地球は冷え、氷に覆われた領域が広がる。氷は太陽光を宇宙空間へ反射するため、地球はますます冷え、より多くの氷がつくられる。そして、氷がある量に達すれば、もはや地球はどうしようもなくスノーボールになっていく。
数十億年の歴史の中で、地球が暑い時代や寒い時代を経験してきたことは疑いがないが、すべての科学者が、地球が完全に氷に覆われたことがあるという説に同意しているわけではない。それでも例えば、氷河によって形成され、運ばれたと考えられる圧縮された堆積物の層や岩石の破片が赤道付近で見つかるなど、奇妙な古代の地質学的特徴がたくさん存在する。
これらは地球が新原生代のクライオジェニアン紀(7億2000万年前から6億3500万年前)に、少なくとも2回、雪と氷に包まれた証拠だと多くの人が考えている。
こうしたことがなぜ起こったのか(そしてなぜ終わったのか)を明らかにするのは、非常に重要だ。2回目のスノーボールが解けてからまもなく、カンブリア爆発と呼ばれる、複雑な生命が爆発的に増える現象が起こっている。
かつての地球は火山の数がはるかに少なかった
火山は、スノーボールアースの有力な容疑者と考えられてきた。火山が二酸化硫黄(大気中でエアロゾルになる)を大量に噴出し、冷却効果を生じさせた、あるいは、かつての地球は二酸化炭素を吐き出す火山の数が今よりもはるかに少なく、温室効果も弱かった、という仮説だ。
「どちらの仮説も起こり得ます」と、今回の論文の最終著者で、エール大学の気候モデリングの専門家アレクセイ・フェドロフ氏は言う。ただし、火山がスノーボールアース現象を引き起こすほど大量の二酸化硫黄を素早く噴出できるのか、また、二酸化炭素の排出量が劇的に減ったりするのかどうかについては、はっきりしたことは明らかになっていない。
一方、小惑星の衝突は事情が異なる。「衝突は地質学的に瞬間的な出来事です」と、論文の共著者で、オーストリア、ウィーン大学の衝突の専門家クリスティアン・クーベル氏は言う。また、小惑星の衝突は、すぐに大量の硫酸塩を大気中に放出することがわかっている。
小惑星の衝突をシミュレーション
6600万年前に地球にぶつかった直径約10キロの小惑星は、数多くの環境および気候に関する問題を生じさせ、その結果大量絶滅が引き起こされた。衝突によって発生した硫酸塩エアロゾルはまた、長期にわたり地球全体の冷却と海氷の拡大を引き起こした。このときはスノーボール現象は起こらなかったが、もし歴史上の別の時点で、これと同様の壊滅的な衝突が起こったならどうなっていただろうかと、論文の著者らは考えた。
小惑星説を検証するために、研究チームは、地球の歴史上、大陸、海洋、大気の状態がそれぞれに異なるさまざまな時期についての詳細なシミュレーションを作成した。産業革命以前の温暖な時代(1850年以前)、極寒の最終氷期極大期(2万年前)、白亜紀のような高温の時代(1億4500万年前から6600万年前)、そして新原生代(7億5000万年前)だ。
これらの時代の成層圏に、6600万年前の衝突から妥当とされる66億トン、2000億トン、2兆トンの二酸化硫黄ガスを注入し、何が起こるかを観察した。
果たしてスノーボールアース(ここでは地球の97%が海氷に覆われると定義)は起こるのだろうか?
産業革命前や白亜紀のような温暖な時代には、どのような条件下でも完全に氷に覆われた世界は現れなかった。しかし、より寒冷な新原生代と最終氷期極大期に2000億トンの二酸化硫黄を加えたときには、10年足らずで世界中の海が氷で覆われるのを確認できた。
「地球が温暖なときにスノーボールを誘発するのは、はるかに困難です」とクーベル氏は言う。しかしこの研究は、地球がすでに寒冷である場合には、それが「あり得る」ことを示唆している。
この仮説の確証を得るには、スノーボールアースができた時期のチクシュルーブと同程度のクレーター(直径約180キロ)か、衝突によって噴出した硫黄を含む残骸を見つけるしかない。10億年近くにわたって、水、火山活動、生物、および地殻変動による侵食活動が続いた後でも、こうした大きなクレーターが地球上のどこかに隠れている可能性はあると、ガーノン氏は考えている。
「これは興味をそそる学説であり、彼らのモデルには説得力があります」。ただし、決定的な地質学的証拠が見つかるまでは、懐疑的な態度を崩すわけにはいかないと、氏は述べている。
今のところ、この仮説は理論的な演習に過ぎない。「衝突ですべてを説明できるわけではありません。しかし、可能性は常に考慮に入れておくべきです」とクーベル氏は言う。なぜなら、この研究や6600万年前のような出来事は、小惑星がどれほど強力に地球の運命を変えるかを示しているからだ。
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