244エクサ電子ボルト
2021年、観測史上最高クラスのエネルギーをもつ宇宙線が検出された。アメリカ・ユタ州の砂漠地帯で定常観測を続ける、北半球最大の宇宙線観測所「テレスコープアレイ実験」での発見した。なんと、そのエネルギー量は「244エクサ電子ボルト」にまでおよぶ(「エクサ」は100京)。
電荷1の粒子が、1ボルトの電位差で加速されることで得るエネルギーが「1電子ボルト(eV)」になる。皆さんの身近にある乾電池の電圧は1.5ボルトであるため、この電位差で加速されたときに得るエネルギーは「1.5eV」になる。
244エクサ電子ボルト(2.44×10の20乗電子eV)は、1電子ボルトの24400京倍のエネルギーということになる。たったひとつの原子核では驚くほど巨大なエネルギーだ。
蛍光灯のエネルギーは約2電子ボルト、胸部X線検査で使われるものが10の3乗電子ボルトほどだから、その「桁違い」の大きさがおわかりいただけるかと思う。もしこのようなエネルギーをもつ粒子を1グラム集めることができれば、そのたった1グラムで「地球が壊れる」ほどのエネルギーになる。
この正体不明の宇宙線について、観測チームは「アマテラス粒子」と名づけた。アマテラス粒子のように、異様なほど巨大なエネルギーをもつ粒子を「極高エネルギー宇宙線(Extremely-High-Energy Cosmic Rays:EHECR)」という。これまで人類が編み出した、もっとも高いエネルギーを生み出す装置は「粒子加速器」だが、極高エネルギー宇宙線は、地球上での加速限界をはるかに凌駕するエネルギーをもっている。
テレスコープアレイ
テレスコープアレイ(Telescope Array, TA)実験は、アメリカのユタ州にて日米韓などの国際共同チームによって実施されている、世界最大級の最高エネルギー宇宙線観測プロジェクト。
2008年から本格的な観測が続いており、地上最大の加速器の1,000万倍以上という凄まじいエネルギーを持つ宇宙線の正体や、その発生源(加速機構)を突き止めることを目的としている。
その方法は、砂漠地帯の約700km²(東京23区より広い面積)に、507台の地表粒子検出器を1.2km間隔で配置し、さらに3カ所に大気蛍光望遠鏡を設置するハイブリッド方式を採用している。
検出の仕組みは、宇宙線が地球の大気に衝突して発生する「空気シャワー」(大量の二次粒子群)を、地上と空(大気の微かな発光)の両面から捉え、宇宙線の到来方向やエネルギーを精密に測定する。
近年の重大な成果として、2021年5月27日にアマテラス粒子という実験史上最大(観測史上でも「オーマイゴッド粒子」に次ぐ第2位)のエネルギーを持つ宇宙線が検出された。
300億年にたったひとつ
このようなエネルギーを持つ宇宙線は、読みかけの本を開いてベンチに置いたとして、どのくらいの頻度で飛来するのだろうか?
正解は、「300億年にたったひとつ」である。それはまるで、砂漠の中でダイヤを探すようなものといえる。のちに紹介するテレスコープアレイ実験は、700平方キロメートルの範囲に到来する宇宙線をとらえることができる最新設備だが、100エクサ電子ボルトの宇宙線は、1年にわずか2粒子しか検出できない。いわゆる「SSR(超激レア)」
「244エクサ電子ボルト」ものエネルギーをもつアマテラス粒子は、40ワットの電球をどれくらいの時間、光らせることができるのだろうか?
正解は「1秒」。「ワット」という単位は、1秒あたりに必要なエネルギー量を「ジュール」で表したもの。244エクサ電子ボルトは40ジュールほどなので、40ワットの電球を1秒間光らせるエネルギーということになる。
「1秒」と聞いて、もしかしたら、「思ったよりしょぼい……」と思われたかもしれない。だが、目に見えないほどの原子核のたった一粒が、このような量のエネルギーをもっているということは、非常に異例なこと。
もしも、アマテラス粒子のようなエネルギーをもつ粒子を1グラム分集めたら、どうなるだろうか。その場合のエネルギーを計算してみると…。この粒子をひとつの陽子(水素原子核)と仮定すると、物質量の定数であるアボガドロ数(6×10の23乗)の分だけ集めると1グラムになります。そのため1グラムのエネルギーは、40ジュールに6×10の23乗をかけた、「2.4×10の25乗」ジュールになる。
このエネルギー量は、40ワットの電球であれば約2京年も光らせることができます。この宇宙がはじまって138億年しか経っていないので、100万回以上この宇宙を繰り返したとしても光り続けることができる。日本全体の年間電気使用量(約1000テラワット時)であっても、約1000万年分もまかなうことができる、とてつもないエネルギーだ。
アマテラス粒子の誕生場所
アマテラス粒子は一体、どこからやってきたのだろうか。研究者は、おとめ座銀河団の中心にある活動銀河核M87などの候補天体の方向から到来したのではないかと期待していた。しかし、驚くべきことに、宇宙の大規模構造では「局所的空洞(ローカルボイド)」と呼ばれる、候補天体がほとんどない方向から到来していた。
アマテラス粒子を発見した後、その到来方向にある電波、可視光、X線、ガンマ線を発する候補天体の有無を調べた。宇宙にはまさに星の数ほどの天体がある。アマテラス粒子の到来方向に銀河はたくさんあったが、エネルギーの高いガンマ線を発するような非常に活動的な銀河は、それほど多くない。
だが、宇宙で全天観測を続けている人工衛星であるフェルミガンマ線望遠鏡による高エネルギーガンマ線の観測結果を調べているうちに、たったひとつだけ「PKS 1717+177」という活動銀河核がアマテラス粒子の到来方向近くにあることがわかった。
しかも、これまでの観測で2009年と2015年の2回、高エネルギーガンマ線の放射量が急に増加する「フレア」を起こしている非常に活動的な銀河核だった。「PKS 1717+177の活動銀河核がアマテラス粒子の発生源では? もしそうなら大発見だ!」と期待はふくらんだ。
宇宙背景放射との相互関係
しかし、大きな問題に突き当たる。この活動銀河核までの距離は、約18億光年です。宇宙線がその巨大なエネルギーを失うとされる「GZK限界(1.5億光年)」よりもはるかに遠くの宇宙にある。
たとえ244エクサ電子ボルトのエネルギーをもつ、観測史上最高峰の極高エネルギー宇宙線だと言っても、宇宙最古の光である宇宙背景放射との相互作用は免れえず、地球に到達するまでにエネルギーを大きく失ってしまうのではないか……?
発生源を見つけたいという一心で、前のめりに研究を進めてきましたが、冷静に検証した結果、判断をいったん保留せざるをえなかった。
アマテラス粒子が検出されたのは早朝で、大気蛍光望遠鏡で観測できない時間帯だったため、残念ながらアマテラス粒子の粒子種についてはわかっていない。そのため、さまざまな粒子種を想定した「銀河磁場モデル」にもとづいた計算がおこなわれた。
アマテラス粒子の解釈
「アマテラス粒子の正体」に関する解釈としては…
・宇宙線が、過去に起きた何らかの突発現象によって加速された
・近傍の候補天体で加速された鉄よりも重たいプラチナなどの粒子種が、磁場によって大きく曲げられた
・宇宙に存在する磁場の大きさが私たちの予想をはるかに超えており、近傍の候補天体から大きく曲げられた
などが考えられるが、現時点ではまだ明らかになっていないことが多い。図に載せている天体は光による観測のみなので、もしかすると光では見ることができない「暗黒加速器(ダークアクセラレーター)」がアマテラス粒子の到来方向には存在しており、私たちがまだ気づいていないだけかもしれない。
また、より野心的で興味をそそる候補としては、存在していることはわかっているが正体が明らかになっていない「暗黒物質(ダークマター)」が起源となることが提案されている。ほかにも、電荷と対をなす「モノポール」が初期宇宙に存在し、磁力線に沿って加速されて地球に到来していることや、わたしたちには想像できないような未知の素粒子が発生源となるような、標準理論を超えた新物理起源の可能性も検討されている。
これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。

��潟�<�潟��