太陽活動周期と宇宙線の量

 これまでの観測から、太陽は約11年周期で活発な時期と静かな時期を繰り返していることがわかっている。このことは、1600年代に望遠鏡が発明されて以来、人類が太陽表面の黒点を数え、記録し続けたことで明らかになった。太陽活動が活発な時期には黒点数が増え、静かな時期には減る。約400年前から現在まで、黒点数は毎年かならず記録されており、黒点数の増減の11年周期が見られている。

 太陽活動が活発になると、地上に到来する宇宙線の量はどうなるだろうか。「増える」と想像する人が多そうですが、じつは答えは「減る」。理由のひとつとして、地上に到来する宇宙線の大部分が、太陽以外の天の川銀河を構成する天体によって生み出されたもので、太陽由来のものは少ないということが挙げられる。

 太陽活動が活発な時期は太陽圏の磁場が強くなり、また太陽風が強く吹くことで地磁気が圧縮されます。地球をとりまく磁場が強くなると、入射する宇宙線が曲げられて地上に届きにくくなる「シールド」の役目を果たす。そのため、太陽活動が活発な時期には地上の宇宙線の量が減少するという、いわゆる「反相関」の関係になる。

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 黒点数と宇宙線の量の比較。図の上の+と-は太陽の磁極の反転を示しており、太陽は実際には「22年周期」となっている。(『宇宙線のひみつ』より)

 この図を見ると、到来する宇宙線量の変動が11年周期ではなく、その倍の22年周期となっていることがわかる。これは太陽活動の極大時に磁極のプラスとマイナスが反転するため。地上での宇宙線を検出することで、太陽磁場の反転についても確かめることができる。

 太陽活動と炭素14放射性同位体

 1600年代より前の太陽活動を調べるためには、樹木の年輪の中に刻まれた「宇宙線の化石」を利用する。地球大気に入射した宇宙線が大気と相互作用して、中性子が生成される。この発生した中性子が大気中の窒素14にぶつかると、炭素14という放射性同位体が生成される。

 この炭素14は植物や樹木に吸収され、その年につくられる年輪の中に蓄積される。つまり、ある年の年輪中の炭素14の量が多いと、太陽活動が静かだったために磁場シールドが弱く、宇宙線が多く到来していたことがわかる。炭素14の半減期は5730年であることを考えると、年輪ごとの炭素14の存在量を調べることで、数万年前までの宇宙線量を調べることができる。このようにして、太陽活動もたちどころにわかる。

「縄文杉」に代表される、樹齢が数千年にもおよぶ屋久杉を使って宇宙線の化石を調べたところ、775年に炭素14の急激な増加があったことがわかった。775年以外にも994年、1052年、1279年にも顕著な増加があったことが、その後の研究で明らかになっている。

 有力な仮説として、非常に巨大な太陽フレアによって加速された「太陽起源の宇宙線」が地球に到来したからだという解釈がある。平安時代後期から鎌倉時代に藤原定家が記した『明月記』には、1054年に超新星爆発があったことが記録されている。1052年の炭素14の増加とたった2年違いなので、もしかすると関係があったのかもしれない。

 17世紀の後半には、「マウンダー極小期」と呼ばれる黒点がほとんど見えない時期があった。この時期は太陽活動がとても穏やかだったため、シールドが弱くなり宇宙線量が増加したと考えられる。炭素14Cの記録でも宇宙線量が増えていたことが確認されており、通常は11年の太陽の活動周期が、16年にのびていたことも明らかになっている。

 南極の氷とベリリウム10放射性物質

 炭素14よりもさらに昔の太陽活動を調べるには、南極の氷の中にあるベリリウム10を調べます。宇宙線の量が増えると、ベリリウム10は増加する。その半減期は140万年なので、炭素14よりも古くから、10万年以上前の太陽活動を調べることができる。

 ベリリウム10を用いた研究によると、過去100万年の太陽活動は、2倍程度までしか変動していないことが明らかになっている。したがって、地球に到来する宇宙線量も同じくらいと考えることができる。

 さらに昔の太陽史については、月の鉱物から突き止めることができる。アポロ17号が採取した月の鉱物を奥深くまで調べると、1億年前に太陽風を受けた記録が刻まれていた。その記録は、1億年前の太陽風は現在と同程度であるが、太陽フレアが現在よりも高い頻度で発生していたことを示唆している。

 さらに昔を調べると、40億年前の太陽の活動が、現在よりも活発であったことを示す兆候も見つかっている。このように、炭素14やベリリウム10や月の鉱物という「宇宙線の化石」を使って、46億年におよぶ太陽活動の歴史を「はしご」のようにつなぐことができる。

 太陽活動と気候変動

 太陽活動が静かな時期であれば、磁場によるシールドが弱くなり、宇宙線が多く地球に到来する。そうして増加した宇宙線は、地球の気候にも大きな影響を与えてきたのではないかと言われている。なぜなら、宇宙線には「雲」の生成を促す作用がある。

「霧箱」をイメージしよう。霧箱の中では、アルコール蒸気が充満して飽和状態になっている。それを液体窒素やドライアイスで冷却することによって、内部のアルコール蒸気は霧の粒になりやすくなる。いわゆる「過飽和」の状態です。そのような条件下で、霧箱の中を放射線が通ると、陰陽のイオンが種になって、アルコールの霧の粒が放射線の飛跡を描きます。これが霧箱の原理だ。

 これと同じ理屈で、宇宙線が通過すると、その電離作用によって、雲生成のきっかけが生じる。雲が増えると太陽光が遮断され、気温は下がる。そこから類推して、地球史でこれまで5回あった「生命大絶滅」の要因が、宇宙線量が大幅に増えたことによる地球の寒冷化にあったのではないかという仮説が生み出された。

 他にも、落雷のきっかけに宇宙線から生成された空気シャワーが影響しているという指摘もある。宇宙線の観測が進み、これらの因果関係がはっきりと示されれば、宇宙気候学は大きく進展する。将来、太陽活動にともなう地球への宇宙線量を考慮して気候変動などを「予知」できる、より精度の高い天気予報が実現するかもしれない。

 宇宙線が惑星形成に必要

 さらに根本的な話をすると、地球のような惑星ができるためにも宇宙線は重要な役目を果たしている。宇宙線のもつ物質透過力と電離作用は、惑星が成長するうえで重要な「エネルギー源」だから。

 これまで、惑星のはじまりである原始惑星系円盤は、紫外線によって電離されたと考えられていた。しかし、近年の研究によって、紫外線は表面部分で吸収されてしまうため、他の電離源の必要性が指摘されている。

 宇宙線は、紫外線では届かない部分にも貫通できるため、原始惑星系円盤を駆動するために必要なエネルギーを供給できる。つまり、私たちの住む地球が形成されるためにも、宇宙線は必要不可欠な要素と言える。

 このように、惑星が形成されるためには、ある程度の宇宙線量が必要。ただし、あまりに強すぎると、私たちのような生命は進化できない。地球は、絶妙な厚さの大気が存在したことで、生命が進化できるゆるやかな宇宙線量となった。「ハビタブルゾーン」と呼ばれる、地球のように生命が存在しうる惑星系を論じる際、一般的には大気や水の存在を考慮した定義がなされるが、ぜひ宇宙線量も考慮してほしいと思う。そのほうが、より現実的で、魅力的なハビタブルゾーンの議論になるのではないか。