57年ぶりの人類最遠到達記録を更新

 有人月ミッション「アルテミスII」のオリオン宇宙船は7日に月フライバイを実施して月の裏側を観測した。この際、地球から40万6771kmの距離に到達し、人類最遠到達記録を57年ぶりに約6600km更新した。

 日本時間(以下同)4月2日に打ち上げられたオリオン宇宙船は、ミッションの2日目にエンジン噴射を行って地球周回軌道を離れ、月へ向かう月遷移軌道へ入った。

 順調に月に向かって航行を続けたオリオン宇宙船は、ミッション6日目の7日午前2時45分に月フライバイ(接近通過)を開始した。午前2時56分には地球から40万171kmの距離に到達し、1970年にアポロ13号によって打ち立てられた人類最遠到達記録を上回った。

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「アルテミスIIミッションの宇宙飛行士たちが全人類のために新たなフロンティアを切り拓いているということは、記録の塗り替え以上の貢献として、未来への希望の糧となります」(NASA探査システム開発ミッション局 Lori Glazeさん)。

「何よりも重要なのは、これを現世代や次世代が挑戦のきっかけにして、そう遠くないうちに記録が塗り替えられることです」(カナダ宇宙庁宇宙飛行士、アルテミスIIミッション・スペシャリスト Jeremy Hansenさん)。

 オリエンタル盆地

 7日3時45分ごろからは科学観測が実施され、直径約930kmの巨大な衝突クレーター「オリエンタル盆地」など30か所の撮影や観察が行われた。

 月の表と裏の境界に位置するオリエンタル盆地の全体像が見えた。探査機ではなく人類が直接このクレーターを観察、撮影したのは初めてのことだ。

 さらに、地球が月に隠される「地球の入り」や、隠された地球が月の縁から現れる「地球の出」なども観測され、太陽が隠された際には太陽コロナの観測も行われた。オリオン宇宙船が地球から最も離れたときの距離は40万6771kmとなり、これまでの記録を約6600km更新した。

 月フライバイと一連の科学観測を終えたオリオン宇宙船は地球帰還の準備に入っている。8日には月の重力圏を離れて地球へ向かい、ミッション10日目となる11日に太平洋に着水して帰還となる。

 アポロ13号

 アポロ13号は1969年の11、12号に続いて月面を目指したものの、打ち上げの2日後に機械船の酸素タンクが爆発した。月面着陸を断念し、船長のジム・ラベルさんら3人の飛行士は月着陸船にいったん退避。飲み水や電力の消費を極力抑え、船内の低温に耐えるなど工夫を重ねて過ごした。その後、爆発から3日あまり後、無事に地球に生還した。

 重大な危機に瀕しながらも飛行士の命が守られたことで、この事故は「成功した失敗(successful failure)」と語り継がれている。

 地球への帰還はすぐに帰還する方法と月を周回してから帰還する方法があったが、すぐに帰還するにはエンジンが完全な状態で使用できることが前提で、13号の場合は爆発により機械船のエンジンが損傷を受けている可能性が大きく、この方法による帰還は避けるべきと判断された。

 一方の月周回については、13号は当初はこの軌道に乗って月を目指していた。そのまま放置すると月の裏側を回って地球の方向には戻った。しかし、事故の影響で地球を大きく外れてしまう楕円軌道に乗っていた。

 そのため、宇宙船を自由帰還軌道に戻すために月の裏側を通りながら、月着陸船の降下用エンジンを噴射して軌道修正することになった。

 アポロ13号船長の生前メッセージ

 有人月周回探査計画「アルテミス2」で飛行中の宇宙船「オリオン」に4月6日、昨年8月に亡くなったアポロ13号の船長ジム・ラベルさん(当時97歳)が生前に残していたメッセージが届いた。米航空宇宙局(NASA)が同日発表した。

「ともしびを皆さんに引き継ぐことを誇りに思う。君たちが月を周回し、火星探査ミッションの礎を築くその旅は、全ての人々のためにある」と伝えた。

 ラベルさんは1970年4月、アポロ13号に搭乗したが、宇宙船内の爆発事故のため、月面着陸を断念し、月の裏側を回って地球に戻った。

 オリオンが4月6日昼、約半世紀ぶりとなる月周回飛行を実現することについて、ラベルさんは「今日は歴史的な日であり、皆さんがどれほど多忙になるかは分かっている。だが、その景色を楽しむことを忘れないでほしい」と残していた。

 アポロ13号の生還劇は危機管理の手本とされ、「輝かしい失敗(Successful failure)」ともたたえられている。ラベルさんの共著を基に映画化された「アポロ13」(1995年公開)は、俳優トム・ハンクスさんがラベルさん役で主演している。



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