寄生バチの生き方

 寄生バチはハチ目昆虫のうち、幼虫が寄生生活を行う種類を指す総称である。植物に寄生するものと、動物に寄生するものがある。分類群としては、コバチ科、コマユバチ科、ヒメバチ科などが知られる。

 植物に寄生するものでは、卵は植物の組織内部に産まれることが多く、幼虫は植物組織中で成長する。植物の寄生部位は植物ホルモンの影響により膨れて虫こぶを形成する。

 動物に寄生するものは、多くの場合親バチが寄主となる動物に直接卵を産みつける。卵から孵った幼虫は、寄主の体を食べて成長する。寄生バチ幼虫は直ちに寄主を殺すことはしないが、成長が完了する前後で寄主を殺す。このことから、捕食寄生者と呼ばれる。

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 寄主の体外に寄生するものと体内に寄生するものが知られる。外部寄生のものは寄主の体表に卵が産み付けられ、幼虫はその体表で生活する。内部寄生のものは、幼虫が成熟すると宿主の体表に出て蛹になるものと、内部で蛹になるものがある。

 寄主として利用されるのは主に昆虫類で、その他クモ類やダニ類を寄主とする種類も知られている。昆虫では卵、幼虫、蛹、成虫のいずれのステージも寄主として利用されている。寄生の対象となる種は極めて多く、昆虫類ではほぼ全ての分類群が寄生バチによる寄生をうける。また、寄生バチ自身も多種の寄生バチによって寄生されることがよく知られている。

 ハエトリグサのような寄生バチ

 驚くべきことに、食虫植物のハエトリグサのような装置を腹部に持つ寄生バチの化石が見つかった。研究チームが9900万年前の琥珀(こはく)に閉じ込められていた十数匹のハチを調べたところ、おそらくこの装置で捕らえた獲物に卵を産み付け、卵を育てさせていたという。

 新種のこのハチは、大量の海水を吸い込んで吐き出し、船を引きずり込むほどの渦を巻き起こしたギリシャ神話の怪物カリブディスにちなみ、シレノベチルス・カリブディス(Sirenobethylus charybdis)と名付けられた。論文は3月27日付けで学術誌「BMC Biology」に発表された。

「この発見によって、古代の昆虫がすでに高度な獲物の捕獲戦略をつくり上げていたことが明らかになりました」と論文の筆頭著者で、中国、首都師範大学生命科学学院の博士課程に在籍するウー・チョン氏は述べている。「寄生バチの進化に関する私たちの常識を根底から覆す発見です」 「前例はありません」

 Sirenobethylus charybdisの標本が閉じ込められている琥珀は、米国の硬貨で最も小さい10セント硬貨(約1.8センチ)より小さい。2015年、中国の化石コレクターがミャンマーのカチン州で購入し、首都師範大学に寄贈した。

 ハエの腹部にハエトリグサのような構造

「最初は変形だと思いました。化石化の過程で変形やゆがみが生じることは珍しくないためです」とウー氏は振り返る。

 しかし、顕微鏡で観察し、CTスキャンを行った結果、驚くべき構造が明らかになった。

 ハチの腹部の先端に、ハエトリグサの葉とよく似た板状のフラップが3枚あったのだ。下部のフラップは化石によって違う角度で開いていて、ものをつかめることを示唆していた。また、下部のフラップの外側は、ハエトリグサのように、長く柔軟な毛で覆われており、動きを感知できたと推測される。

 別の無防備な昆虫がこれらの毛を刺激すると、フラップが素早く閉じて捕獲していた可能性がある。

 ハチは捕らえた獲物をすぐに殺すのではなく、自分の卵を育てさせていたのではないかと研究チームは考えている。

 下部のフラップの上側には、硬い毛のようなものが無数に生えており、比較的柔軟な真ん中のフラップとともに、宿主に卵を産み付けるまで、優しくも確実に固定していたと思われる。卵を産み付けると、ようやく獲物を解放する。

「Sirenobethylus charybdisの腹部にある『ハエトリグサ』のような構造は、中生代の昆虫の研究史において前例のないものです」とウー氏は話す。「現代の昆虫でも前例はありません」

 中国科学院南京地質古生物研究所の化石昆虫学者チェンヤン・ツァイ氏は第三者の立場で「ユニーク」な発見と評価している。Sirenobethylus charybdisは「現代のハチやほかの昆虫と全く違い、白亜紀中期の昆虫の多様性を浮き彫りにしただけでなく、想像すらしていなかった形態を明らかにした」

 現代の昆虫より専門化していた可能性も

 Sirenobethylus charybdisが卵を産み付けたであろう宿主となる昆虫は明らかになっていない。わなの小ささを考えると、トビムシやハエのような小型で機敏な虫だったと推測される。

 研究チームはよく似た現生種を調べることで、この古代のハチに関するそのほかの仮説を組み立てた。

 Sirenobethylus charybdisの遠縁にあたる現代のカマバチも、卵の宿主を捕獲する能力を進化させた。具体的には、宿主を一時的に拘束し、卵を産み付けて解放する。

 カマバチのメスは、前脚がはさみのような構造になっており、卵を産み付ける際、宿主をしっかりつかめる。カマバチは翅がなく、大きな目と細い脚を持ち、素早く移動し、ほかの昆虫を捕まえるのに最適化されている。

 一方、Sirenobethylus charybdisは目が小さく、脚も短いため、カマバチより動きが鈍かったと推測される。

 体の後部にあるハエトリグサのような構造も、動いている宿主の捕獲を困難にしている。研究チームはこれらの特徴から、Sirenobethylus charybdisは近くに来た宿主を待ち伏せて襲っていたのではないかと考えている。

 ツァイ氏によれば、このような白亜紀中期の琥珀は、当時の昆虫が「驚くほど多様で、現代の昆虫より専門化していた可能性さえある」ことを浮き彫りにしているという。そして、「現生種だけを研究しても進化の全体像をつかむことは決してできないという重要な教訓」だとツァイ氏は強調する。

蜂の奇妙な生物学 (生物ミステリー)
光畑 雅宏
技術評論社
2023-07-22


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