アンモナイトは重要な化石

 アンモナイトというと、誰もが知る有名な化石。時代は、古生代シルル紀末期から中生代白亜紀末までのおよそ3億5000万年前後の間を、海洋に広く分布し繁栄した、頭足類(軟体動物)の一つである。

 多くの種が平らな巻き貝のような形をした殻を持っているのが特徴。 アンモナイトは、オルドビス紀から生息するオウムガイ亜綱(英語版)の中から分化したものと考えられている。

 以来、彼らは実に長くの時代を繁栄していたが、中生代の幕引きとなる白亜紀末のK-Pg境界を最後に地球上から姿を消した。古生代と中生代の下位に当たる各年代を生きた種はそれぞれに示準化石とされており、地質学研究にとって極めて重要な生物群である。

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 アンモナイトの殻は多様性が高く、パラプゾシアのように直径2メートルに達するような巨大な属種や、異常巻きアンモナイトと呼ばれる特殊な殻を持つものも登場している。

 いまだ謎多きアンモナイトの「異常巻き」

 アンモナイトの「異常巻き」は、一般的な平巻き(平らな渦巻き)と異なり、ヘビ状、棒状、コッペパンのような複雑な形など、多種多様だ。  なぜ「異常巻き」になったのだろうか?

 主に白亜紀後期(約1億年前~6600万年前)の環境変化に適応するため、進化の過程で殻の形を複雑化させた結果と考えられている。捕食者から身を守るための隠蔽効果や、特殊な海流環境での生活に特化した、生き残りをかけた特殊な適応形態と推測されている。

 白亜紀後期は激しい地殻変動や環境変化が起きており、モササウルスなどの強力な捕食者が出現していた。敵に襲われにくい、あるいは潮流に流されにくい複雑な形状に進化することで生き残りを図った(適応進化)という説が有力だ。

 巻きの形状を変えることで、素早い遊泳よりも、特定の場所に留まったり、上下運動に特化したりする生活様式に変化したと考えられている。

 日本はアンモナイト化石の世界的産地

 そもそもアンモナイトはアサリやサザエなどと同じ軟体動物の仲間。ただし、殻の形は一見、巻貝のカタツムリのようにも見えるが、タコやイカと同じ頭足類の仲間だ。アンモナイトの仲間は恐竜誕生の時代よりもずっと前の時代、約4億年前に誕生し、その後、実に3億年以上にもわたって海で大繁栄を続けた軟体動物の一大勢力だ。

 そして実は、ここ日本はアンモナイトを研究する上でとても重要な場所なのだ。なぜなら日本は、恐竜時代(中生代)の内の白亜紀(約1億4400万~6600万年前)の海の地層が豊富で、北海道、兵庫、和歌山、鹿児島など全国各地から、様々な姿形をしたアンモナイトの殻が見つかる「アンモナイトの世界的な産地」だからだ。その為、多くのアンモナイト研究者、化石愛好家が各地の山に入り、新たな化石を次々と発見、アンモナイトの新種や新属も続々と報告され、その生態に迫る研究も進んでいる。

 アンモナイトは、そもそも“生きた姿”が謎

 皆さんも「アンモナイトの復元図」を色々な所で目にしたことがあるに違いない。しかし実は殻の外にあったはずの柔らかい部分の“真の姿”はよく分かっていない。なぜなら見つかる化石は殆どがその殻だけだからだ。軟体動物だけに、柔らかい体の部分は殆ど化石に残らず、その外見は未知なのだ。

 ドイツのシュトゥットガルトの博物館にはアンモナイトの軟体部の化石が保管されている。始祖鳥の発見で有名なゾルンフォーフェンとよばれる化石産地で見つかった大変貴重な化石だ。現地まで行き、その化石を撮影させていただいたが、残っていたのは内臓の部分だけだった。体の外にあったはずの腕などの軟体部は残念ながら残っていなかった。

 一部のアンモナイトは泳いでいたのかすら謎

 さらにもう一つ、“驚きの謎”を紹介したい。

 実はアンモナイトの一部は泳いでいたかさえ謎なのだ! 「え、海の生き物なんだから当然泳いだでしょ!」と思うかもしれないが、そこに謎があるのだ。勿論、「正常巻きアンモナイト」と呼ばれるカタツムリのようなタイプの殻を持った“普通のアンモナイト”は泳いでいたと考えられている。これについては、“そっくりさん”のオウムガイが普通に泳いでいる事実からも疑義は少ないだろう。

 問題なのは「異常巻きアンモナイト」と呼ばれるグループだ。彼らは正常巻きアンモナイトとは全く異なる形の殻を持つアンモナイトのグループだ。楽器のトロンボーンを思わせる形、「?」マークを逆さにしたかに見える形、ソフトクリーム型など、個性的な殻を持った異常巻きアンモナイトが全国各地から多数見つかっているのだ。

 これらの異常巻きは海の生き物でありながら、殻の形があまりに個性的過ぎるが故に「泳げたのかさえ謎」だった。

 ところが。北九州市立いのちのたび博物館の御前博士が“意外な所”に目を付け、根気強く研究した結果「少なくともこの種の異常巻きアンモナイトは泳いでいた」ということを明らかにした。

 プラビトセラスというアンモナイト

 それはプラビトセラスという種類の異常巻きアンモナイト。「?」マークを逆さにしたように見える異常巻きアンモナイトだ。あまりにヘンテコな姿から「泳ぐことができず、海底で横になっていた」ようにも思える異常巻きの中でもとりわけ変わり種の種だ。

 発見のきっかけは、その殻の表面に「あるもの」がついていることに気づいたことだった。御前先生が淡路島産のプラビトセラスをよく見ると殻に別の生き物の化石もこびりついていたのだ。しかもそれは複数くっ付いていた。生き物の正体を明らかにしたことがプラビトセラスの生態に迫る突破口となった。

「その生き物の仲間が今も生きている」と御前先生が言うので、案内していただいた。現場は福岡県北九州市のとある海辺。それは普段は海中にいるが、潮が引いた時に見つけることができると言う。潮が引いてから磯をしばらく歩くと、御前先生は石に“張り付いている物”に注目した。最初は泥をかぶっていて何かよく分からなかったが、海水で洗うとキラキラと光る貝殻が顔を出した。

 ナミマガシワという二枚貝

「間違いない。ナミマガシワです」と御前先生。ナミマガシワは二枚貝の仲間で、二枚の殻の一方にある穴を通して体を岩などにくっ付けて流れてくる有機物を食べている生き物だ。

 御前先生は「研究の結果、プラビトセラスの化石の殻に付いていた生き物の正体はナミマガシワの仲間の殻だと分かった」という。つまりナミマガシワの仲間は恐竜時代の海でプラビトセラスの殻にくっ付いて流れてくる有機物を食べて生きていたのだ。そして、この発見こそが「プラビトセラスが泳いでいた証拠」に繋がると言う。なぜか?

 ポイントは「ナミマガシワの仲間がプラビトセラスの殻の裏表両面にくっ付いていたこと」だった。

 なぜならもしもプラビトセラスが泳げずに海底に横たわって暮らしていたなら、海底面側の殻に付着したナミマガシワは流れてくる有機物を食べることができずに死んでしまったはずだからだ。

 そしてもし死んでしまえばこの貝はカキの殻と違ってはがれてしまう。であれば御前先生が現実に見つけた「殻の両面にナミマガシワが付着した状態のプラビトセラスの化石」は存在し得ない。プラビトセラスの殻の両面に付いたナミマガシワが生き続けるためには「宿主のプラビトセラスが泳いでいた必要がある。つまり泳いでいたに違いない」という結論に至った。

 それにしてもプラビトセラスはどうして「?」マークを反対にしたかのような個性的な殻を進化させたのだろうか? あの奇妙な形に生きるためのどんな利点があったのだろうか? 御前先生に聞くと「残念ながら奇妙な形の理由はよく分からない」と言う。誰もが名前だけは知っているアンモナイト。しかし、その実像はまだまだ謎だらけなのが実際だ。アンモナイトの化石の発掘、そして研究はこの先も続いてくのだ。



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