世界中で“サンゴが「白化」
サンゴの白化現象とは、海水温上昇などのストレスにより、共生する褐虫藻が離脱し、サンゴの骨格が白く透けて見える現象。栄養源を失ったサンゴは餓死し、サンゴ礁生態系の崩壊を招く。地球温暖化が主因であり、沖縄などの日本沿岸を含め世界的に深刻化している。
2016年3月には、地球上でもっとも大きなサンゴ礁の一つ、オーストラリアのグレート・バリア・リーフで、大規模なサンゴの白化現象が生じている、というニュースが世界を驚かせた。
南北2,000キロにわたって広がるこのサンゴ礁で起きたこの白化現象は、過去に例のない規模で拡大し、一時は北部の9割を超える地域のサンゴが白化したともいわれた。
鹿児島県の与論島でいま、大阪とサウジアラビアの大学がサンゴ礁を再生させる共同研究を進めている。その方法がユニークだ。 サンゴと酷似した成分を使って3Dプリンターで作った「3Dサンゴ」に、実際のサンゴの断片を取り付けて海に沈め、どの程度早く再生するかを確認する。
今年4月、半年前に初めて植え付けた3Dサンゴの表面がサンゴの組織に覆われ始めていた。アメーバーのように組織が広がっていた。

研究を担当している関西大学 上田正人教授 「3Dサンゴを導入することで成長のスピードが速くなった。サンゴの移植の取り組みをやめたら、本当に終わっちゃうので、根気強くやっていきたいなと思います」
サンゴ礁に囲まれた鹿児島県の与論島
直径およそ6キロ、人口5000人ほどの小さな島「与論島」で現在、ユニークな実証実験が行われている。岸からおよそ500メートルの浅瀬に、白い3Dのサンゴの模型を沈める。これを使って、サンゴの再生を進める。
サンゴを増やす研究をしているのは、大阪の関西大学の上田正人教授。
もともとは再生医療の専門家で、その技術を応用して本体を傷つけずサンゴを増やしていく手法を研究してきた。与論島では7年前からサンゴを再生させるための試行錯誤を繰り返している。
今回の実験ではサンゴと酷似した成分を使って3Dプリンターで作った「3Dサンゴ」に、実際のサンゴの断片を取り付けて海に沈め、どの程度早く再生するかを確認する。
関西大学 上田正人教授 「サンゴ礁には非常に多くの生物が生息していて、海の生態系の土台になります。サンゴ礁を守るということは、本当に海を守ることにつながると思っています。海を守るベースになるのは、やはりサンゴ礁を回復させることです」
サンゴの現状と保全の取り組み
サンゴ礁が隆起してできたとされる与論島の海には、昔から美しいサンゴが広がり、透明の海中を黄や赤の小魚が泳ぐ様子は、何物にもかえがたい美しさ。
サンゴ礁は、津波や海岸の浸食から島を守り、漁業関係者にとっては、魚を育む「海のゆりかご」でもあった。
暖かい海の象徴とも言えるサンゴだが、海水温が30度を超えると生存が難しくなるとされている。地球温暖化による海水温の上昇でサンゴが死滅するケースは世界各地で報告されていて、与論島も例外ではない。
しかし、たび重なる海水温の異常な上昇でサンゴは減少。特に2年前の2024年、海水温が一時的に大きく上昇したことで水深3メートルほどの浅瀬に生息していたサンゴの多くが死滅した。
海中撮影すると白化現象を起こして死んだサンゴの周りには生き物の姿は少なく、静まり返っている。サンゴの保全活動をしている漁師の大田充孝さんは、海中のこうした変化はサンゴとともに生きてきた島民、そして漁業者にとって大きな落胆だという。
漁師 大田充孝さん 「もともとこの辺の浅瀬が全部、一面サンゴでした。今はほとんど海底の白いところは砂地で、がれきでサンゴがないような状態。そのせいで魚も少なくなっているし、本当に残念です。漁師をやっていると、それが一番悲しいですね。海の透明度はそんなに変わってないと思うけど、やっぱり海の中に入って見てみると、もう全然違う。変わりましたよね」
7年前、実証実験を開始
上田教授は7年前からサンゴを育てる実証実験を開始。地元の人たちと協力してサンゴの断片を海に沈め、試行錯誤を繰り返してきた。
島の子どもたちにも参加してもらい、これまでに数百個のサンゴの断片を海で育ててきた。海で順調に育ったサンゴ100個ほどは岩盤に移植した。
指1本ほどの小さなサンゴの断片は岩盤に根付いて数十センチの大きさに育ち、一時期は岩盤を覆うまでに広がっていたという。
しかし、2024年の海水温の上昇で、何年もかけて移植してきたサンゴはほぼ全滅。サンゴを増やす取り組みの難しさに直面する形となった。
関西大学 上田正人教授 「3年ぐらい時間をかけて岩盤を本当にきれいに再生したんですけど、全部死んじゃいました。もう、これの繰り返しですね。ただ、サンゴの移植の取り組みをやめたら、本当に終わっちゃうので、根気強くやっていきたいなと思います」
きっかけは万博のサンゴ研究
今回、上田教授らが設置している3Dサンゴ。実は遠く離れたサウジアラビアの大学との共同研究。 きっかけは、去年4月に開幕し半年間開かれた大阪・関西万博。
紅海に面するサウジアラビアはサンゴの保全など海洋環境を守る取り組みに力をいれている。
パビリオンではキング・アブドラ科学技術大学の研究成果として、3Dサンゴを使うことでサンゴの組織の成長が早まることなどを紹介していた。
3Dの白い模型はサンゴの骨によく似た成分でできていて、サンゴが増殖して広がるときに根付きやすくなっている。
一方、上田教授たちは、大阪ヘルスケアパビリオンで、関西大学発のベンチャー企業が進めるサンゴの産卵に関する展示を行っていた。
その展示を見たサウジアラビアパビリオンのスタッフの仲介で共同研究の話が持ち上がり、関西大学に3Dサンゴの実物100個と3Dプリンターが寄贈された。
キング・アブドラ科学技術大学 タッド・トラスコット准教授 「単に万博に3Dの模型を持って行って、そのまま持ち帰るということはしたくなかった。できれば、日本の大学などと何か共同で研究したいと考えていた。そして、日本の海に模型を移植できればと思っていた。世界中で減少が続く中、サンゴの保全は一刻を争う。万博が盛り上がるに従って、より多くの大学教授たちと知り合う機会が増え、ついに関西大学の教授と出会うことができた」
3Dサンゴを設置する取り組みは、地元の人たちも協力して行われている。
4月上旬、港には漁協の関係者らが集まり、許可を得て採取した与論のサンゴの断片を、針金で3Dサンゴに取り付けた。
サンゴの成長スピードを加速させることができれば、海水温が上がってサンゴが死んでも再生を早め、サンゴ礁を保つことができるのではないか。
地元の漁業者も期待している。 鹿児島県漁協与論支所 箕作広光さん 「今回、サウジアラビアも一緒にやろうかという話を聞いた時に、とてもいい話だと思いました。国内だけだと限られているのもあるし、地球規模でサンゴはだいぶ減っているという話ですから。この新しい方法で、より効果的で、より早くサンゴが復活できればいいです」
関西大学 上田正人教授 「サンゴは成長が1年間に1、2センチぐらいで、大きくなるのにすごく時間がかかるのが特徴です。しかし、サウジアラビアの技術を用いますと、サンゴ礁のような広大な面積を早期に回復できる。再生医療を利用した我々の技術を用いると、ドナーとなる親サンゴのダメージを最小限に抑えてサンゴを再生できる。ウィンウィンで非常に良い技術になると考えている。この2つが組み合わさることで、成長の遅いサンゴを非常に早く成長させることができると思います」
半年の成果は そして、ことし4月。海中での調査によって、うれしい変化が確認できた。
半年前に初めて植え付けた3Dサンゴの表面がサンゴの組織に覆われ始めていた。アメーバーのように組織が広がっていた。
その結果を共同研究のパートナーでもあるトラスコット准教授にも報告しました。写真や動画を見せながら、3D模型に組織が広がっている様子を説明した。うれしい報告にトラスコット准教授の顔からも笑みがこぼれた。

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