コウモリダコ
「吸血鬼イカ(Vampire squid)」という英名を持つコウモリダコ。“血に飢えた深海生物”と思われてきたが正反対の生態が明らかになっている。和名は、“マント”を広げるとコウモリ傘のように見えることに因む。
カリフォルニア州にあるモントレー湾水族館研究所(MBARI)の調査チームが発表した研究によると、コウモリダコのエサは、プランクトンの死骸、糞、藻、泥、小型の甲殻類が脱いだ殻など、海中を降下する「マリンスノー」であることがわかった。
コウモリダコは熱帯・温帯地域の約600mから900mにかけての深海に生息する。体長は約30cm。深海でマリンスノーを食べることで生き延びた生きている化石である。コウモリダコは実際にはイカでもタコでもなく、それらが種として分化する以前に存在した祖形を継承している現生種であると考えられている。

コウモリダコの全ゲノム解析完了
2025年12月、コウモリダコの全ゲノム配列を解読し、これまでに知られている動物で3番目に大きく、頭足類(イカとタコの仲間)では最大級の約12 Gbp (ギガ塩基対)の巨大ゲノムを持つことを明らかにされた。
コウモリダコのゲノムは長鎖散在反復配列(LINE)という自己増幅性の転移因子の増幅によって巨大化しており、この特徴はタコよりもむしろイカ類に類似していた。
コウモリダコのゲノム構造と核型構成は頭足類の祖先的特徴を保持しており、タコ類が大規模な染色体融合と再編成を経て進化したことを示している。これらのことから、タコはイカのような生物から進化したことが示唆される。
研究したのは、和歌山工業高等専門学校のスティアマルガ・デフィン准教授と、島根大学、オーストリア・ウィーン大学、国立遺伝学研究所、東京大学及び情報・システム研究機構との共同研究で、幻の生きた化石とされるタコの仲間「コウモリダコ」の全ゲノム配列の解読に世界で初めて成功した。
ゲノムとは何か?
ゲノム(Genome)は、生物が持つすべての遺伝情報(DNAの全塩基配列)の総体。「遺伝子(Gene)」と「染色体・全全体(-ome)」を組み合わせた言葉で、1セットの完全な「生命の設計図」を指す。ヒトの場合、父親と母親から受け継いだ23本ずつの染色体に約30億文字のDNA情報が記録されている。
「ゲノム」という語は1920年に提唱され、当初は生殖細胞に含まれる単相の染色体集合を指したが、その後、遺伝情報全体を指す用語として用いられるようになった。1956年にDNAが発見されて以降は、「全染色体を構成するDNAの全塩基配列」という意味も持つ。
ゲノムの単位は塩基対 (bp) で表す。遺伝子やDNA断片の大きさを表す単位にも使われ、「ヒトゲノムのサイズは 3 Gbp(ギガベースペア)30億塩基対」という。「大腸菌ゲノムのサイズは 4.8 Mbp(メガベースペア、480万塩基対)」という。
巨大ゲノムとは何か?
巨大ゲノムとは、ヒトゲノム(約30億塩基対)を大きく上回る数百億〜千億以上の塩基対を持つ生物の遺伝情報。ウーパールーパー(約320億)や一部の植物、深海生物(コウモリダコ約120億)に見られ、主に動く遺伝子(トランスポゾン)の蓄積により巨大化する。最新の長鎖シークエンサー技術で解読が進み、進化や再生能力の解明に繋がっている。
主な巨大ゲノム生物と特徴 ウーパールーパー(アホロートル): ヒトの10倍以上の約320億塩基対。驚異的な再生能力を持つ。 植物(キヌガサソウ): 約1,500億塩基対(147,000Mbp)に達し、世界最大規模。 イベリアトゲイモリ: 約200億塩基対。ヒトの約7倍の大きさ。 コウモリダコ: 約120億塩基対。他のタコ類と比較して極めて巨大。
巨大化の要因はトランスポゾン(動く遺伝子)が、ゲノム内でコピー&ペーストを繰り返す配列が蓄積し、ゲノムサイズを増大させる。
配列が複雑で繰り返し多いため、解析には高性能な長鎖シークエンサー技術が必要である。ゲノム巨大化と器官再生の仕組み、進化の歴史などが明らかになりつつある。これら巨大ゲノムを持つ生物の解析により、生物の生存戦略や複雑な体の仕組みの解明が期待されている。
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