人体は何でできているか「分子レベル」

 私たちの体は何でできているのか?この問いに対する答えは、元素レベル、分子レベル、細胞レベル、組織レベルなど様々な視点から考えることができる。まずは分子レベルで見ていこう。

 人体は主に水(約60%)、タンパク質(約15-18%)、脂質(約12-20%)、無機質(ミネラル、約3-4%)、炭水化物は(約0.5%)から構成されており、これらを構成する元素の約96%は酸素・炭素・水素・窒素の4つが占めている。骨は主にリン酸カルシウムや炭酸カルシウムでできている。

 それぞれの物質がどんな役割をしているか。まず水分は、血液、リンパ液などの体液で存在している。タンパク質は筋肉、内臓、皮膚などの組織・器官を構成する。脂質は皮下脂肪、細胞膜などに存在する。カルシウムやリンなどの無機質(ミネラル)は骨や歯の成分として存在する。炭水化物は、肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯蔵されている。

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 人体は何でできているか「元素レベル」

 最も根本的な視点で見れば、人体はさまざまな「元素」から構成されている。

 元素とは、これ以上分解できない物質の基本単位であり、周期表に並ぶ118種類の物質。驚くべきことに、宇宙に存在するこれらの元素のうち、人体には少なくとも60種類以上が含まれていることが確認されている。本記事では、人体を構成する元素の種類や比率、そして各元素が果たす重要な役割について解説する。

1. 人体の主要構成元素 — 常量元素の世界

 人体に含まれる元素の中でも、特に多く含まれている元素を「常量元素」と呼ぶ。これらの元素は体重の0.01%以上を占める元素で、以下の11種類が該当する。

 人体の元素構成で最も興味深い点は、わずか4種類の元素(酸素、炭素、水素、窒素)だけで全体の約95%を占めている。

 1.酸素 O 65.0% 水の構成元素、呼吸に必須 2.炭素 C 18.0% タンパク質や炭水化物の材料 3.水素 H 10.0% 水の構成元素 4.窒素 N 3.0% タンパク質の材料

 酸素(O)— 人体の最大構成元素

 人体で最も多い元素は酸素で、全体の約65%を占めている。重量で見れば、体重60kgの人の場合、約39kgが酸素ということになる。なぜこれほど多いのか?

 その最大の理由は、人体の約60%が水(H₂O)で構成されているから。水の中で酸素は重量比で約89%を占める。さらに、酸素は水以外にもタンパク質、核酸、糖、細胞膜などの生体分子の構成元素として生命に欠かせない役割を担っている。

 炭素(C)— 生命の骨格

 炭素は人体の約18%を占め、生体分子の骨格を形成している。炭素原子は4つの結合手を持ち、他の原子と柔軟に結合する能力があるため、無限に近い多様な分子を形成できる。この特性が、複雑な生命体を可能にしている。

 タンパク質、脂質、糖質、核酸など、私たちの体を構成するほぼ全ての有機物質は炭素を基本骨格としている。

 水素(H)— 最軽量の構成要素

 水素は単体として宇宙で最も豊富な元素であり、人体でも約10%を占めている。主に水の構成要素として存在するほか、ほぼすべての有機化合物の中に含まれている。水素イオン(H⁺)の濃度バランスは体内のpH調整にも重要な役割を果たしている。

 窒素(N)— タンパク質の要

 窒素は人体の約3%を占め、主にタンパク質やDNA、RNAなどの核酸の構成に不可欠。タンパク質を構成するアミノ酸には必ず窒素が含まれている。

 興味深いことに、「私たちの身体の窒素2キログラムのうち半分は化学肥料に由来している」とも言われている。これは現代の農業生産が肥料に依存しており、私たちの食物連鎖に深く関わっていることを示している。

2. 骨や筋肉を作る元素たち

 人体の構造を支える元素として、カルシウム、リン、マグネシウムなどが重要な役割を果たしている。

 カルシウム(Ca)— 強い骨の源

 カルシウムは人体の約1.5%を占め、その99%は骨や歯に存在している。骨の強度を維持するだけでなく、血液凝固、筋肉収縮、神経伝達など様々な生理機能にも関与している。

 リン(P)— エネルギー代謝の要

 リンは人体の約1.0%を占め、その約85%は骨や歯に存在している。しかし、最も重要な役割の一つがエネルギー代謝への関与。体内のエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)の構成要素として、全ての細胞活動のエネルギー源となっている。また、DNAやRNAの構成要素としても不可欠である。

 興味深いことに、「私たちの身体のリンの4割はクジラなどの骨の化石に由来している」との報告もある。これは、リン酸カルシウム肥料がモロッコや中国で見つかるクジラなどの脊椎動物の骨の化石(リン鉱石)から製造されているため。

 マグネシウム(Mg)— 柔軟な骨の秘密

 マグネシウムは人体の約0.05%を占め、その約60%は骨に、残りは筋肉や神経などに存在している。骨の柔軟性や弾力性に関与するほか、約300種類の酵素反応に関わる補因子としても重要である。

3. 生命活動を支える微量元素

 人体に含まれる量は少ないものの、生命活動に必須の元素を「微量元素」と呼ぶ。体重の0.01%未満しか含まれていないが、その働きは極めて重要だ。

 鉄(Fe)— 酸素運搬の要

 鉄は人体に約4-5gしか含まれていないが、ヘモグロビンの構成要素として酸素の運搬に不可欠である。また、多くの酵素の補因子としてエネルギー代謝にも関与している。鉄が不足すると、貧血や倦怠感などの症状が現れる。

 亜鉛(Zn)— 多様な酵素活性の中心

 亜鉛は成人の体内に約2gほど含まれていて、鉄に次いで多い微量金属元素。体内の300種類以上の酵素の働きに関与し、細胞の増殖やタンパク質の合成、免疫機能の維持などに重要な役割を果たしている。

 特に注目すべきは、亜鉛が「遺伝情報の発現」に関わっていること。DNAやRNAポリメラーゼの構成因子として、また「Zn-fingers」と呼ばれるDNA結合タンパク質の構造維持にも亜鉛は必須である。 亜鉛が不足すると、成長の停止、皮膚や毛髪の損傷、味覚障害、生殖機能の低下などが起こる。

 銅(Cu)— 酵素の活性化と鉄の代謝

 銅は成人体内に約80mgほど存在し、主に肝臓、腎臓、脳などに分布している。赤血球に含まれるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)という酵素の構成要素として、有害な活性酸素から体を守る役割を担っている。また、鉄の代謝にも関与している。

 セレン(Se)— 抗酸化作用の要

 セレンは微量ながら強力な抗酸化作用を持つ酵素の成分として、細胞を酸化ストレスから守る役割を果たしている。日本人の食事では主に魚介類からセレンを摂取している。

 ヨウ素(I)— 甲状腺ホルモンの必須要素

 ヨウ素は成人体内に約20mgほど存在し、その80%が甲状腺に集中している。甲状腺ホルモンの構成要素として、代謝調節や成長に関与している。ヨウ素不足は甲状腺腫や発育障害の原因となる。

4. 人体の元素組成を視覚化する

 人体の元素組成は、その含有量の差が非常に大きいため、通常のグラフでは表現しづらい特徴がある。最上位の酸素(65%)と微量元素の差は数万倍にも及ぶ。

 この図表からも明らかなように、人体の主要部分をなす水分や栄養分、タンパク質、骨、遺伝物質を作る元素として、酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンが上位6位を占めています。

 その後に、ある程度以上の量があり微量元素とは呼ばれない元素として、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウムが続いている。

5. 元素からみる人体と環境の興味深い関係

 人体の元素組成を海水と比較すると、驚くほど類似していることがわかる。これは「生命が海から誕生した」という「生命海洋起源説」を支持する証拠の一つとされている。

 太古の地球で最初の生命が海中で誕生し、その後陸上に進出していく過程で、体内環境として海水に近い成分バランスを維持したと考えられている。このことは、現代でも輸血の代替物として、適切に薄めた海水が使用できるという事実にも表れている。

 私たちの体に入ってくる元素の由来について考えよう。私たちの体の成分は、食物から摂取したもの。現代の食物の多くは農業生産によるものであり、農作物は肥料によって生育している。

 例えば、窒素肥料の起源は興味深い。かつては鳥の糞(グアノ)や硝石などの天然資源が使われていましたが、20世紀初頭にハーバー・ボッシュ法が開発され、空気中の窒素ガスから人工的にアンモニアを合成できるようになった。これにより大量の窒素肥料生産が可能となり、現代の農業生産を支えている。

 また、リン肥料は主に化石化したリン鉱石から生産されている。これらの事実は、私たちの体が地球の資源循環システムの一部であることを示している。