海の王者シャチ、シロナガスクジラを襲う

 海の中では最強と思われるシャチ。アザラシだけでなく、ホオジロザメまで食べてしまう。しかも賢い。チームを組んで狩りをする。

 しかし、これまで地球で最大の動物「シロナガスクジラ」の捕食は観測されていなかった。シャチの体長は、約6〜8m、シロナガスクジラは22〜24mになる。

 2019年3月と4月、2021年3月にオーストラリア南西部に位置するブレマー湾の沖合でそれは観測された。中でも1件目の事例は研究チームを特に驚かせた。他の2件の事例が10〜12mほどの若いクジラや1歳未満の子クジラが標的だったのに対し、1件目はシャチの2倍以上にもあたる18~22mの健康な成体が標的にされた。

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 シャチは12〜14頭の群れで、長年の経験と知恵を兼ね備えた年長のメスを中心に、シロナガスクジラの口先や背びれ、尾びれに噛みつき攻撃。さらには家族のチームワークを活かし、シロナガスクジラを取り囲み、腹部を目掛けて命懸けの突進をする。

 シロナガスクジラの尾びれで叩かれたらシャチも命を落とす危険がある。シャチは、シロナガスクジラが深く潜ろうとしたときにその下に回り込み逃げ場を無くしたり、逆に呼吸をしようとしたらシロナガスクジラの上を泳ぎ、溺れさせようとしていた。最終的には、継続的なシャチによる攻撃により、シロナガスクジラは力尽き、その姿を再び観ることはなかった。

 シャチは危険な動物

 シャチ(Orcinus orca)は、海の頂点捕食者として知られている。 体長は最大で約9メートル、体重は11トンにも及び、自分よりも大きなクジラ類を捕食することが知られており、ホホジロザメを狩る唯一の捕食者としても有名。 また、シャチの餌にはアザラシ、魚、海鳥も含まれる。

 地球で最大の動物シロナガスクジラまで捕食することがわかり、最強説を裏付ける結果になった。そんなシャチが人間を獲物として狙うことはないという。もし、人を捕食するなら、人間などひとたまりもないだろう。

 水族館などの飼育環境では、人間(主にトレーナー)を襲い、死傷させた事例がいくつか報告されている。アメリカのシーワールドにいた「ティリクム」というシャチは、関わった人間3人を死亡させたことで知られている。狭いプールでの生活によるストレスや、遊びの延長で力が強すぎたことなどが原因とされている。これらはドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ』で詳しく取り上げられ、飼育の是非について世界的な議論を呼んだ。

 シャチは力が強く危険な動物であるのは間違いないが、食料として人間を襲わないというのは、人間にとってありがたい。だが、なぜだろうか?シャチが人間を襲わない理由について考えてみたい。

 野生のシャチと人間の関係

 世界中の海で人々と共存するシャチだが、野生のシャチが人間を喰い殺した記録はない。 実際に人間と接触する機会は多くあったにもかかわらず、攻撃をすることはほとんどない。これは非常に不可解な現象だ。

 生物学者のジャイルズ氏によると、シャチのさまざまな個体群は、遺伝的にも文化的にも異なるため、完全な種ではないとしても、少なくともいくつかの亜種に分類される必要があるだろう と述べている。これらの異なる個体群を区別する主な特徴のひとつは、彼らが何を食べるか。シャチの食生活には大きな個体群ごとの違いがある。 例えば…

 魚食性のシャチ:魚しか食べず、イルカと遊ぶことはあっても決して食べることはない。  哺乳類を食べるシャチ:アザラシなどを獲物とするが、人間は食べない。  雑食性の沖合シャチ:サメやエイを主食とする。

 つまり、シャチの各グループには「何を食べるか」という明確な文化が存在し、人間はその食事リストに含まれていない。

 過去に発生したシャチと人間の接触事例

 記録されている数少ないシャチによる人間への攻撃は、いずれも深刻な被害をもたらすものではなかった。

 2005年・アラスカ:12歳の少年が水深数フィートの場所で泳いでいたところ、シャチが肩にぶつかる。しかし、最後の瞬間にシャチは人間であることを認識し、攻撃を中止した。

 1972年・カリフォルニア沖:サーファーがシャチに噛まれ、縫合が必要な怪我を負う。これが唯一の明確な「噛みつき」の記録。

 このような事例は極めてまれであり、シャチが人間を積極的に襲う習性を持たないこと を示している。

 シャチの文化と脳の複雑さ

 シャチが人間を襲わない理由の一つとして「文化」 が挙げられる。シャチは高度な知能を持ち、親から食事の内容を学ぶ習性がある。 そのため、人間が「食べ物ではない」と認識され続けている可能性が高い。

 また、シャチの脳は大脳新皮質が発達しており、複雑な思考が可能です。 研究者のロリ・マリノ氏は「シャチは水中の人間を獲物と誤認することはほぼない。彼らの認知能力は非常に高い」 と述べている。

 一方で、シャチが人間を襲わない理由として「人間が知能を持つ存在であると認識し、報復を恐れているから」 という意見が挙げられることがある。ジャイルズ氏はこの点について「確かに地球上で人間以外の種で他の種の知能を判断できる動物がいるとしたら、それはシャチだろう」 と述べているが、実際のところはまだよくわかっていない。