クルーズ船内でハンタウイルス感染症
世界保健機関(WHO)は5月4日、大西洋を航行中のクルーズ船で、ネズミなどのげっ歯類が媒介する「ハンタウイルス」への感染が疑われる事例が相次ぎ、これまでに3人が死亡したと発表した。船内で集団感染が起きた可能性もあり、医療支援などを進めている。
ロイター通信によると、死亡したのはオランダ人夫婦とドイツ人男性の3人。感染が確認された乗客1人が南アフリカで治療を受けているほか、乗組員2人にも感染が疑われる症状が出ているという。
クルーズ船は3月にアルゼンチンを出港し、現在はアフリカの島国カボベルデの沖合に停泊している。オランダに拠点を置く運航会社によると、船内には乗客ら約150人が残り、日本人も1人含まれるという。クルーズ船といって思い出すのは、新型コロナウイルスの温床となったことだ。
「ハンタウイルス」はネズミなどが保有しているもの。ネズミにかまれたり、ネズミの排せつ物に触れたりすると感染する場合がある。初期症状としては発熱、頭痛、せきなどといったインフルエンザに似た症状が1日から4日間ほど続き、これが重症化していくと腎臓や肺の機能が低下する。
厚労省によると肺の症状については国内でこれまでに患者の発生は報告されていない。潜伏期間は1週間から最大で6週間と非常に長い。致死率については、症状がどこに出るかによって変わるが、約30%から50%に達して、効果的なワクチンなどはいまだ作られていない。
スペイン政府がカナリア諸島での受け入れを発表しており、船内の健康な乗客は今後、それぞれの国に移送・帰国する見通しだが、具体的な「すべての人が解放される日時」は明示されていない。感染性の高いウイルスに変異してないことを祈るばかりである。
ハンタウイルス感染症とは何か
ハンタウイルス感染症は、ネズミなどのげっ歯類を媒介として人に感染するウイルス性疾患。主な病型として、腎機能障害を引き起こす「腎症候性出血熱(HFRS)」と、重篤な呼吸不全を招く「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」の2つがある。
感染経路主な感染源は、ウイルスを保有するネズミの尿、便、唾液。乾燥した排泄物がほこりと共に舞い上がり、それを吸い込むことで感染する(最も多い経路)。
汚染されたものに触れた手で傷口や粘膜に触れる、あるいはネズミに直接噛まれることで感染する。ヒトからヒトへの感染は基本的にはない。主な症状と種類潜伏期間は通常1〜5週間程度。
ハンタウイルス肺症候群 (HPS)特徴: 南北アメリカ大陸で主に発生。初期症状に、発熱、筋肉痛、頭痛、消化器症状(嘔吐・下痢)などがある。
数日後に急激な呼吸困難や肺水腫が起こる。致死率: 約40〜50%と非常に高く、発症から24時間以内に死亡するケースもある。
腎症候性出血熱 (HFRS)特徴: アジアやヨーロッパで主に発生する。初期症状: 突然の発熱、頭痛、背部痛、腹痛など。進行: 顔面の赤みや目の充血、出血斑が現れ、その後に腎不全(尿が出なくなるなど)を引き起こす。ウイルスの型によるが、致死率は1〜15%程度。
日本での状況国内発生は、1960年代から80年代にかけて、大阪梅田の都市部や全国の動物実験施設(ラット経由)で発生が報告されたが、1984年以降は国内での発生報告はない。日本国内のネズミにはハンタウイルスは検出されていない。
現在、日本で見られる可能性があるのは、流行地(アメリカ大陸や中国、韓国、ヨーロッパなど)からの「輸入症例」。
クルーズ船内で発症した新型コロナウイルス感染症
今回のニュースを知り、2020年1月クルーズ船内で発症した、新型コロナウイルス感染症を思い出した人も多いだろう。
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスは、2020年1月20日に横浜港を出発後、1月22日に鹿児島港に寄港、1月25日に香港に到着。その後、ベトナムや台湾を巡り、2月1日に那覇港を経て、2月4日に横浜港へ帰港する行程だった。
横浜から乗船した香港国籍の男性乗客は、1月25日に香港で下船したが、乗船中の1月23日から咳の症状があり、下船後の1月30日に発熱、2月1日に新型コロナウイルス陽性が確認された。
クルーズ船は香港出発後、那覇への寄港を2月1日に終え、次の寄港地の東京エリアに向かっていたため、関東域で検疫の体制に入ることになった。行程を早めて2月3日に横浜に戻り、2月4日に横浜港沖にて273名に再検疫を行った。
2月5日には、検査結果が判明した31名のうち、10名に陽性反応が確認され、神奈川県の医療機関へ救急搬送された。2月5日早朝まで船内での行動は制限されておらず、ショーなどのイベントは通常通り開催されていた。2月5日早朝以降、症状が発生していない乗員・乗客合わせて約3,700人は14日間、船内で待機することとなった。
当初乗船していた約3700人は、船長を含めて全員が3月1日までに下船した。この時点での乗客・乗員の感染者数はのべ706人、うち7人が死亡している。
当時は新型コロナウイルスパンデミックの初期段階であり、日本政府は水際対策に追われていた。クルーズ船だけが原因ではないが国内に広がり、その後のパンデミックにつながっていく。

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