キリンは1種でなく4種

 キリンは何種類あるだろうか。「キリンに種類なんかあるの?どれも同じと思っていた」という人がほとんどだろう。実はよくみると表面の模様に違いがある。

 その他に違いは少ない。従来、キリンは1種のみで、9亜種が存在すると考えられてきた。今回、遺伝子を解析したところ、キタキリン、ミナミキリン、アミメキリン、マサイキリンの4つの集団には明らかな遺伝的差異があることが判明、2016年9月8日に「カレント・バイオロジー」誌に論文が発表された。

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「キリンの亜種が遺伝的にこれほど明確に分かれていて、交雑していないとは思っていませんでした」と、論文の共著者でドイツ、ゼンケンベルク生物多様性・気候研究センターの進化生物学者であるアクセル・ヤンケ氏は語る。

「まったく見落とされていた」キリンのように目立つ動物について、こんな基本的なことさえ分かっていなかったのはなぜなのだろう?

「理由の1つは、キリンが科学的にあまり興味を持たれない生物だったことにあります。シロサイについての科学論文が2万本もあるのに対して、キリンに関する論文は400本しかないのです」とヤンケ氏は言う。

 世界の人々の注目は、絶滅の危機に瀕した動物や、ゾウのように激しい密猟にあっている動物、ライオンなどの肉食動物に集まりやすく、その中ではキリンは目立ちにくい。「キリンは地球上で最も背の高い動物ですが、完全に見落とされていたのです」

 キリンは絶滅危惧種

 この15年間、世界がよそ見をしている間に、キリンの推定個体数は14万頭から9万頭前後まで激減した。一部の科学者はこれを「静かなる絶滅」と呼んでいる。

 キリンの専門家のジョン・ドハーティ氏は、今回の研究には関与していないが、電子メールで、「キリンに複数の種があると主張したのは彼らが最初ではありませんが、キリンの分類をめぐる論争はまだ決着していません。この議論に貢献する貴重な提案として、彼らの研究を歓迎します」と見解を述べた。

 ケニアのアミメキリンプロジェクトと英クイーンズ大学ベルファストに所属しているドハーティ氏は、研究チームが提案する分類は、遺伝学的データのみにもとづくもので、重要な身体的特徴やその他の要素を考慮していないと指摘する。その点を考慮すると、「今回の知見を決定的な成果として発表するのは時期尚早だったかもしれません」と言う。

 ただ、著者らが「アフリカ大陸全土でキリンの保護にのりだす緊急の必要性がある」と訴えている点にはドハーティ氏も強く同意する。

 遺伝子を解読

 ヤンケ氏がナミビアのキリン保全財団から最初に連絡を受けたのは数年前のことだった。サハラ以南のアフリカ全域に分布するキリンの亜種はどれも同じように見えるため、亜種を区別するための遺伝子マーカーを開発してほしいという依頼だった。

 情報収集のためキリンに小型の矢を打って試料を採取する許可を受けていた同財団は、ヤンケ氏らに、アフリカ各地のキリンから採取した約200点の試料を提供した。

 ヤンケ氏はまず、試料のミトコンドリアDNA(細胞のミトコンドリアの中にある、母から子へと受け継がれるDNA)を調べて、キリンの亜種の間に「ホッキョクグマとヒグマほどの大きな差異」があることを明らかにした(この点についてドハーティ氏は、「遺伝子にどの程度の差異があれば種とされ、どの程度の差異なら亜種とされるという明確な決まりはないため、あまり良い比喩ではない」と指摘する)。

 次に核遺伝子(細胞の核にある遺伝子)を分析すると、「調べるほどに同じストーリーが見えてきました。私たちが別々のグループを見ているということです」とヤンケ氏。

 たとえば、一つのキリンのグループ内に共通して見られる変異は、別のグループに共通の変異とまったく違っていたのである。ヤンケ氏は当初、キリンを別々の種に分けることに抵抗を感じていたが、データは「絶対にそれでよい」ことを示していたという。

 5000頭未満のキリンも

 今回特定された4種のうち最も危機的な状況にあるのはキタキリンとアミメキリンの2種である。

 コルドファンキリン、ヌビアキリン、ニシアフリカキリン(ナイジェリアキリン)の3亜種からなるキタキリンは、全部合わせても5000頭未満である。その多くがアフリカ中央部の政情不安定な地域にすんでいるうえ、コンゴ民主共和国ではキリンの尾がステータスシンボルとなっており、それを求める人々によりコルドファンキリンが殺されている。

 コンゴ民主共和国のガランバ国立公園で3頭の希少なコルドファンキリンが、尻尾目当ての密猟によって殺害された。触発された映画製作者が現場を訪れた。

 オコナー氏によると、アミメキリンも急激に減少していて、生息地の消失や密猟によりこの数十年で80%も減ったという。

 論文共著者のヤンケ氏は、国際自然保護連合(IUCN)はキリンの絶滅のおそれを「低危険種(Least Concern)」としているが、これまで1つの種とされていた約9万頭が4つの種に分割され、そのうちの2種が1万頭未満ということになれば、新しい保全状況を考えることになるだろうと指摘する。

「この研究がきっかけになって、キリンというユニークで重要な動物にスポットライトが当たってほしいと思います」とオコナー氏。「キリンは、アフリカ以外に生息地がない、アフリカを象徴する動物なのです」

 キリンは鳴くのか

 キリン(麒麟)は、哺乳綱偶蹄目リン科キリン属(キリンぞく、学名: Giraffa)に分類される偶蹄類の総称。長い首が特徴で、アフリカ大陸に自然分布するほか、世界各地の動物園で飼育されている。野生のキリンはアフリカ大陸全体で約11万7,000頭が生息していると推定されている。過去30年間で生息域の減少などにより頭数が減少していたが、近年の保護活動により回復傾向にある。

 分類学的に一つの種とみなしてよいかという議論が18世紀以来あり、国際自然保護連合(IUCN)は2025年8月21日に4つの種(キタキリン、マサイキリン、ミナミキリン、アミメキリン)に分類する見解を発表した。それまでは1種9亜種として扱われてきた。

 首の長い動物キリンが日本にはじめてやってきたのは明治40年(1907)のこと。明治10年(1877)には剥製がもたらされ、当時の東京国立博物館で展示された。その姿が描かれたのはさらに18世紀の終わり頃にさかのぼる。

 キリンはほとんど鳴くことはないが、唸り声や鼻を鳴らす声など様々な声を出すことはできる。キリンは、鼻息、くしゃみ、咳、いびき、「シュー」という音、うなり声、警戒音、bursts音を使い分け、互いに呼び寄せ、警戒などのコミュニケーションを行っている。また、警戒音はシマウマなどの他の動物も参考にして逃走に利用している。

 主に薄明・薄暮時に採食を行い、昼間は反芻を行う。食物の葉から摂る水分のみで、水を飲まなくても生きていくことができるため、アフリカに住む他の草食動物と異なり、乾季になっても移住をしない。時速50〜60キロメートルで走ることができる。生息数は、過去 35年間で30%近く減少した。最も絶滅の危機に瀕している大型哺乳類のひとつとされている。