宇宙を調べ尽くす宇宙望遠鏡
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope、JWST)は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発した赤外線観測用宇宙望遠鏡である。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機である。2021年12月25日に打ち上げられた。
2022年7月12日にはJWSTが初めて撮影した画像が公開された。これまでのところ、ファーストスターは発見されてないが、初期宇宙の常識が覆る発見をしている。初期の宇宙を観測するたびに、大量の「小さな赤い点」が見つかっている。これらは初期の超巨大ブラックホールなのか、未知の天体現象なのか、天文学の常識を揺るがす謎である。
一方、ユークリッド宇宙望遠鏡は(Euclid)欧州宇宙機関(ESA)が2023年に打ち上げた宇宙望遠鏡で、宇宙の組成の約95%を占めるとされる「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー」の謎を解明し、過去100億年間の宇宙膨張の歴史と構造形成のプロセスを明らかにすることを目的に開発された。(写真はユークリッド宇宙望遠鏡のとらえた銀河 AIによって分類される)

JWSTと同じ場所である、地球から約150万キロメートル離れたラグランジュ点(L2)を周回しながら、6年間で全天の約3分の1(約1万5000平方度)を観測し、最大で10億個以上の銀河の立体地図(3Dマップ)を作成する巨大なプロジェクトをもっている。
ユークリッドは2023年7月2日に打ち上げに成功し、運用を開始してから、たった数日の観測で数千万個の銀河を捉えるという驚異的な成果をあげた。
ユークリッド宇宙望遠鏡
ユークリッドは2024年に観測を開始し、わずか7日間で2600万の銀河と多数の奇妙な天文現象を発見した。「本当に魅惑的です」とESAの科学長官を務める天体物理学者のキャロル・マンデル氏は話す。
宇宙望遠鏡の卓越した技術と人工知能(AI)の支援により、科学者たちは宇宙の暗闇に光を当てようとしている。それがどのようなものかを紹介しよう。
ユークリッドは、2007年3月に発出されたESAコズミックビジョン 2015-2025提案募集に対して提案された2つの計画(DUNE: Dark Universe ExplorerとSPACE: Spectroscopic All-Sky Cosmic Explorer)を融合することで生まれた。
この2つの計画は、宇宙の形状を測定するための補完的な観測を目指すものであったため、評価研究段階を経て1つの計画として統合されることになった。新しいミッションの名前はユークリッドとなった。
2011年10月、ユークリッドはESAの科学プログラム委員会によって選定され、2012年6月25日に正式に採択。2023年7月2日にファルコン9 Block5ロケットにて打ち上げられた。
ESAは、衛星の開発主契約をイタリアのタレス・アレーニア・スペースと締結した。衛星は長さ4.5メートル、直径3.1メートル、質量2160 kgとなる。ユークリッドのペイロードモジュールは、EADS アストリアム(現在はエアバス・ディフェンス・アンド・スペースの一部)が開発する。
ペイロードとなる望遠鏡は直径1.2メートルの主鏡を備えたコルシュ式望遠鏡であり、視野は0.9平方度である。
科学者の国際コンソーシアムであるユークリッド・コンソーシアムは、ヨーロッパ13か国と米国の科学者で構成され、ヨーロッパ13か国と米国から1000人以上の科学者が集まっている。コンソーシアムは、可視光カメラ(VIS)と近赤外線カメラ/分光計(NISP)を提供する。
これらの大型カメラは、銀河の形態計測、測光、および分光特性を特徴づけるための観測に使用される。ユークリッド・コンソーシアムはユークリッドのデータを解析し、全天の3分の1以上の範囲に広がる最大20億個の銀河の3次元分布を明らかにする。(写真はラグランジュ点(L2)で観測するユークリッド宇宙望遠鏡の想像図)

ダークマターとダークエネルギーへの挑戦
天体物理学最大の疑問の2つは、宇宙の95%を占める暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)に関するものだ。これらはいったい何なのか? そして、なぜこれらは宇宙に影響を与えるのか?
暗黒物質はまだ検出されていないが、銀河と星々を重力だけでは説明できないほど強く結び付けている物質とされている。対して暗黒エネルギーは、宇宙の膨張を加速させている目に見えない力だ。ただし、最近の測定結果は、暗黒エネルギーが時間とともに弱まっている可能性を示唆している。
現在のところ、暗黒物質や暗黒エネルギーは直接検出できないため、科学者たちは次善策をとっている。多くの銀河の形、動き、位置を調べて、暗黒物質や暗黒エネルギーの解明につながる宇宙の形を描き出そうとしている。
それこそが、「幾何学の父」と呼ばれるギリシャの数学者にちなんで名付けられたユークリッドの壮大な目的だ。ユークリッドは2023年に打ち上げられ、現在、地球から150万キロ離れた宇宙の重力的に安定した空間を飛行している。その間、「ユークリッド・ディープ・フィールズ」と名付けられた3つの領域に繰り返しズームインしながら、最終的に宇宙の3分の1を調査し、その結果、数十億の銀河を発見するだろう。
「どの銀河も美しいです」と英国宇宙局の主任研究員である天体物理学者のアダム・アマラ氏は言う。「しかし、私たちは(ユークリッドを)美しい写真を撮るために設計したわけではありません。自然科学のためです」
望遠鏡の理想は広角(空の広範囲を見ることができる)、高解像度(細部まで映し出す)、高感度(最深部のかすかな星明かりまで検出できる)をもつことだ。「通常、3つのうち2つを選択できるのですが、史上初めて、ユークリッドは私たちに3つすべてを与えてくれました」とマンデル氏は話す。「それがユークリッドの真の力だと思います」
可視光と赤外光の強力な組み合わせ
ユークリッドの銀河探しの能力は3つのツールに集約される。1つ目は全長約120センチの望遠鏡で、その鏡で遠くの星明かりを捉え、プリズムのようなフィルターで可視光と赤外光に分けられ、2つの特別な装置に送られる。
片方がVISという装置で、最新スマートフォンの50倍に相当する600メガピクセルの解像度を持つ超高感度カメラだ。非常に広い視野と深宇宙を超長時間露光で撮影する能力により、膨大な数の銀河を驚くほど遠い距離から発見し、その形や特徴を明らかにできる。これが2つめのツールだ。
「ユークリッドはすでに、ハッブルが25年かけて撮影した範囲の数倍を撮影しています」とカナダ、トロント大学のマイク・ウォルムズリー氏は言う。ウォルムズリー氏はユークリッド・コンソーシアムの一員で、天文学における機械学習を研究している。
もう一方の装置が3つめのツールの近赤外分光測光器(NISP)だ。赤外光を捉える超高感度カメラで、地球から銀河までの距離を測定するなど、さまざまな機能を備えている。
赤外光と可視光の画像を重ね、より多くのデータを得ることで、宇宙の3D地図製作が実現すると科学者たちは期待している。
「この2つの装置を組み合わせることで、暗黒エネルギーのテストが可能になります」とESAのユークリッドプロジェクトに参加する物理学者のバレリア・ペットリーノ氏は説明する。
宇宙は138億歳だ。ユークリッドの高度な技術により、105億年前に形成された銀河を見ることができる。つまり、「ユークリッドは宇宙の暗闇に光を当てるだけでなく、タイムマシンでもあります」とマンデル氏は話す。
ユークリッドはどのような銀河を発見したのか?
ユークリッドが記録した数千万の銀河には、遠く離れたクエーサーが含まれている。クエーサーは、超巨大ブラックホールが中心にある、非常に明るく輝く銀河の核だ。「ユークリッドの画像は、地上から見るよりも5倍くらい鮮明で、銀河の全く新しい見方ができるようになりました」とウォルムズリー氏は述べている。
ユークリッドのデータを見た科学者たちが魅了されているもう一つの現象が重力レンズだ。大量の暗黒物質を含む銀河など、巨大な銀河が別の銀河の手前に位置するとき、遠方の銀河の光が、レンズで集められたかのように、前方の銀河によってゆがめられることがある。
この現象のおかげで、ユークリッドのような望遠鏡でも見られない遠方の銀河を観測できる。まれに、前方の銀河の周りに、強い重力レンズと呼ばれる独特の光が形成されることがある。
ユークリッド以前、現代の天文学者による数十年の観測で、約1000の強い重力レンズが確認されていた。「そこにユークリッドが現れ、まさに数日で500の強い重力レンズを見つけるのですから」とアマラ氏は言う。「本当に驚異的です」
アマラ氏は今後6年間で何十万もの強い重力レンズを発見できると期待している。
AIを使って銀河の海原を進む
あまりに多くの天体が発見され、ユークリッドのチームは圧倒された。「驚嘆、魅了、畏怖の念。これらを乗り越えて初めて考えることができます。天体物理学者1人では、何百万もの銀河を調べることはできません」とマンデル氏は話す。「そこでAIの出番です」
「ユークリッドから送られてきた画像のある程度鮮明な銀河をすべて調べるだけで、おそらく150年くらいはかかるでしょう」とウォルムズリー氏は言う。しかし、AIは電光石火のスピードで、38万以上の銀河を形、大きさ、特徴に基づいて分類した。
今後さらに多くの画像が送られてくる予定で、ユークリッドはすでに送信を開始している。「1日当たり100ギガバイト超のデータを受信しています」とペットリーノ氏は話す。「2026年の終わりには、合わせて2ペタバイトを超える1年分の観測データを公開することになっています。これは最高のストリーミングサービスでテレビを31年間視聴したときのデータ量に相当します」
英国人作家ダグラス・アダムズの有名な言葉がある。「宇宙は大きい。その広大で、巨大で、度肝を抜かれるほどの大きさは信じられないほどだ」。それは今も真実だ。しかし、ユークリッドはその大きな空間を銀河に彩られたキャンバスに変えようとしている。
「空は無限ではありません」とアマラ氏は言う。「私たちは今、その空間をすべて埋めようとしています」

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