謎の天体リトル・レッド・ドット
2022年7月に本格稼働したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、鮮明な宇宙の画像を送ってきた。しかし、すぐにおかしな事態が生じた。ほぼすべての画像に謎の小さな赤い点が映っていたのだ。点は極めてコンパクトで明るく、赤色をしていて、数が非常に多かった。現在「リトル・レッド・ドット(LRD)」と呼ばれるその点は、ウェッブ望遠鏡でどこを観測しても、少なくとも1個は見つかった。
LRDの年代は、ビッグバンの約6億年後と特定された。つまり、その光は宇宙の年齢とほぼ等しい時間を旅した後、ウェッブ望遠鏡の主鏡に届いたのだ。LRDは若い宇宙の至るところに存在したが、ビッグバンの約15億年後にほぼ姿を消してしまう。
LRDの年代と小ささ、膨大な数のすべてが新しい天体であることを暗示している。「LRDはウェッブ望遠鏡のどの画像にも映っている」とマサチューセッツ工科大学の天体物理学者ナイドゥ(Rohan Naidu)はいう。「初期宇宙の物語を完成させたければ、LRDを理解する必要がある」。(写真はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の撮影画像に現れた リトル・レッド・ドットLRD)

当初、LRDの正体は次のいずれかだと考えられた。まず、激しく活動するブラックホールが中心に存在するコンパクト銀河。次に、これまで観測されていない進化段階にあるブラックホール。そして、ダストに富んだスターバースト銀河で、新しい星が爆発的に誕生しているもの。
また、LRDは20年前に存在が予測されていた「準星」または「ブラックホール星」と呼ばれる天体である可能性もある。
初期宇宙だけの天体ではなかった
LRDの探索は続いた。2025年7月には、地球から約10億光年の距離に3個のLRDが見つかったことが発表された。このような近傍のLRDは年代がずっと新しいので、LRDが後期宇宙にも現れうることを示している。
様々な距離と時間でLRDを発見できれば、LRDがどのように進化したのか、そしてLRDが幼少期のブラックホールなのか、ブラックホール星なのか、それとも別の現象なのかを理解する手がかりになる。
最優先事項はLRDの質量を明らかにすることだ。これがわかれば、LRDの種類を特定でき、LRDが実際には同時期に存在した異なる天体なのかどうかもわかる。ブラックホールを観測する現在の方法はLRDに適用できないため、新しい戦略や理論が必要だ。
夜空に輝く謎の「赤い点」の正体
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた謎の赤い点の正体が、2026年1月の発表によって明らかになった。これらの天体は、どうやら高密度のプラズマに包まれた若い超大質量ブラックホールのようだ。
この赤い点は、当初は130億年の宇宙史を越えて検出できるほど明るい巨大銀河ではないかと考えられた。しかし、そのような大きな銀河はビッグバン直後にはまだ存在していないはずで、これほどの規模に発達するにははるかに長い時間を必要とする。
別の仮説では、超大質量ブラックホールの可能性も指摘された。しかし、推定質量が母銀河に対して異常に大きすぎることや、X線や電波の放射が極端に弱いことなど、説明困難な特徴が次々と明らかになっていった。
こうしたなか、デンマークや英国を中心とする国際研究チームが、2年間にわたるデータ分析を経てついに謎を解明した。これらの赤い点の正体は、まだ生まれて間もない若いブラックホールだというのだ。これまで考えられていたより100倍も質量が小さく、ガスの繭に包まれているという。
「これらのブラックホールは、このガスを消費してより大きく成長しようとしています」と、コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所コズミック・ドーン・センターのダラック・ワトソン教授は説明する。
「このプロセスで莫大な熱が生成され、ガスの繭を通して輝きます。この放射こそが、リトル・レッド・ドットと呼ばれる赤い光の正体だったのです」
最軽量級のブラックホール
ワトソンらの研究チームは今回、これらの天体から放射される水素原子の発光スペクトルに着目した。宇宙誕生から8億年から20億年ほどの段階にある12個のリトル・レッド・ドットを、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された分光装置で詳細に分析したのだ。
ブラックホールの質量は、周囲のガスの運動速度を調べることで推定できる。通常、ガスが高速で動いていれば、ドップラー効果によって光の波長は広がって観測される。この場合、光の波長の分布はなだらかな山型になる。
ところがリトル・レッド・ドットから届く光は、そうした通常の形とは明らかに異なっていたという。光の波長の広がり方は山型ではなく、指数関数的に裾野が長く伸びる独特のスペクトルを示していたのだ。これは高密度の電離ガス(プラズマ)の中で光が電子に散乱されることで生じる特徴的なパターンだという。
こうした光の広がり方を詳しく解析した結果、ブラックホール周辺のガスは想像を絶する密度であることがわかった。わずか数光日(1光日は約260億km)から数百光日程度の極めてコンパクトな領域に、膨大な量のガスが詰め込まれているのだ。
特筆すべきは、電子散乱による見かけ上の広がりを取り除くと、本来のガスの運動速度は従来の推定値の約10分の1しかなかった点だ。これはブラックホールの質量の推定値が約100分の1に下方修正されることを意味する。
リトル・レッド・ドットは、太陽の10万倍から1,000万倍の質量をもつ初期宇宙で最も軽い部類の超大質量ブラックホールだったのだ。
ガスの繭が解き明かす謎
この観測結果によって、リトル・レッド・ドットをめぐる数々の謎が解き明かされた。まず、ブラックホールの質量が大幅に下方修正されたことで、母銀河との質量比が現在の宇宙にある活動銀河核と同程度になった。これにより、初期宇宙にしては巨大すぎるブラックホールが存在するという矛盾が解消された。
次に、X線放射が極端に弱かった理由は、高密度のプラズマがX線を吸収してさえぎっていたからだという。これらのブラックホールが理論的な限界に近い勢いで周囲の物質を飲み込んでいることも、硬X線の放射を抑制する要因となっている。
また、電波もプラズマの中で減衰することから、通常のブラックホールで見られるジェット(高速で噴き出すガスの流れ)の形成が妨げられる。こうした特徴のすべてが、これまでの観測事実と一致するのだ。
ブラックホールから放射される紫外線は、ガスの繭によってほぼ完全に吸収され、別の波長の光として再放出される。その結果、水素やヘリウムに特徴的な光が放たれ、リトル・レッド・ドットの独特なV字型のスペクトルを生み出していたのだという。また、特定の波長で頻繁に観測されていた暗い部分も、繭の内部で何度も光の吸収と放出が繰り返されることで生じた吸収線であることが判明した。
研究者たちによると、分析対象の12個の天体すべてにおいて、放射される光のパターンが左右対称だった。これはガスの分布がほぼ球状であることを示唆している。初期宇宙では水素やヘリウムより重い元素が少ないことから、効率的な冷却や塊状構造の形成が抑制される。そのため、ブラックホール周辺のガスが滑らかな分布を保っているのだという。
宇宙史の空白を埋めるページ
すべての銀河の中心には、超大質量ブラックホールがあると考えられている。太陽系が位置する天の川銀河にあるブラックホールは、太陽の約400万倍の質量をもつ。これらの巨大な天体が宇宙史の初期に形成された過程は、長年にわたって謎に包まれていた。
今回の発見は、ビッグバンからわずか7億年後に太陽の数十億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールがすでに存在していた理由を説明する鍵となる。リトル・レッド・ドットは、超大質量ブラックホールが成長する過程の極めて初期の段階を捉えたものだからだ。
こうしたリトル・レッド・ドットは、現在までに数百個が特定されているという。観測史上で最も小さい部類のブラックホールだが、それでも最大で太陽の1,000万倍の質量があり、直径は約1,000万kmに及ぶ。激しい成長段階にあるこれらの若いブラックホールを観測することで、宇宙の歴史における空白のページが埋められつつある。遠方宇宙に光る小さな赤い点が、壮大な物語を語り始めている。
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