日本科学未来館で「大南極展」開催中

 今年も夏が暑い。そんな中、涼しい場所で体験できる特別展に行ってみてはいかがだろうか。未知なる極限の大地・南極における観測活動と、その最前線の挑戦に迫る展覧会「大南極展」が、日本科学未来館 1階 企画展示ゾーンで行われている。期間は2026年7月1日(水)〜 9月27日(日)。

 南極観測は70周年を迎える。1956年11月8日、第1次南極地域観測隊を乗せた南極観測船「宗谷」が東京を出港した。翌1957年1月29日には昭和基地が開設され、日本の南極観測の挑戦が幕を開けた。

 南極観測の原点には、時代を超えて、未知の世界に挑み、科学の力で人類の未来に貢献しようとする、探究と挑戦の精神が息づいている。

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 大南極展では、来場者の皆さんに特別南極観測隊の一員となってもらい、観測隊の活動や南極の自然を体験する。是非、家族で出かけて、観測隊の探求と挑戦の精神に触れ、共に未知の世界に挑む気持ちを分かち合おう。

 本物の南極の氷にさわれる体験エリア

 最初の展示は、氷の洞窟を思わせる白いトンネルを進む。東京から「南極」へ行くような気持ちになったところで、ひんやりした空気を頬に感じ、「南極上陸エリア」にたどりつく。

 出迎えてくれるのは約1万4000キロメートルも離れた南極から旅してきた氷だ。来場者は氷に触れ、耳を澄ましながら観察する。近くで見ると、冷凍庫にある氷とは違って小さな気泡がたくさん閉じ込められていることがわかる。

 大陸に積もった雪が数万年もの時間をかけて押し固められることでできる南極の氷には、大昔の空気がそのまま氷の中に気泡として閉じ込められているそうだ。耳を澄ますと微かにプツプツと氷が溶けて中の空気が飛び出す音がした。

 氷の冷たさと太古の空気に触れてから先に進むと、南極観測隊の歩みの紹介や、隊員の装備品、現地に持ち込む私物なども並ぶ。観測隊がどのような準備を整え、活動に臨んでいるのかを知ることができる。

 20年ぶり深層アイスコア展示

 先に進むと、アイスコア(柱状の氷サンプル)の展示や隕石探査、生き物の観察など7つのエリアがある。来場者は、ミッションシートに書かれたクイズの答えを探しながら展示を巡り、南極での観測や研究について学んでいく。

 数ある活動の中でも、アイスコアの採取は重要なミッションの一つという。第54次隊で越冬隊長、第62次隊、第65次隊で隊長を務めた極地研の橋田元・南極観測センター教授は、会見で「標高3800メートル、酸素はここ(東京)の半分くらいしかない過酷な環境でアイスコアの掘削が行われています」と紹介した。

 今回展示されているのは約2500メートルの深さから採取され、約34万年前の情報を含むサンプルだ。2900メートルの深さまで掘削が可能になった現在、3回目の掘削計画が進められており、100万年前までの古い氷の採取を目指しているという。

 アイスコアが一般公開されるのは約20年ぶり。「寒い環境を作るのは簡単ではない。いかに溶かさず、きれいに見ていただくようにするか(が大変だった)」と熊谷さんは今回の展示を実現するにあたっての苦労を語っていた。「南極上陸エリア」の氷のように触れることはできないが、未来の地球を探る手がかりとなる“タイムカプセル”を間近で見る貴重な機会だ。

 隕石の重さ体感、ペンギンを見上げて観察

 アイスコアの展示の奥には隕石探査エリアがある。ここでは大阪・関西万博でも注目を集めた隕石スライスに触れられるほか、鉄隕石を持ち上げてその重さを体感できる。鉄隕石をつるした棒を片手で軽く持ち上げようとすると、びくとも動かない。筋力のない筆者は腰を痛めないように気を付けつつ両手で数ミリ浮かせるのがやっとだった。

 南極は“隕石採集の聖地” と呼ばれる。本物の南極隕石を展示。南極では白い氷上に黒い隕石が露出するため発見しやすく、氷河の移動によって長年をかけて一か所に集まる。このため国際隕石学会に登録されている隕石の約60%が南極で採取されているという、驚くべき数字につながっている。

 日本の観測隊も1969年以降に約17,400個もの隕石を採取してきた。本展ではその中から厳選した30点以上の実物サンプルを公開。手でさわれる・持てる鉄隕石や、月・火星から飛来したと考えられる希少隕石も登場する。知的好奇心を刺激するエリア。

 また「生き物エリア」では、ペンギンやアザラシなど南極の生き物の剥製や模型が並ぶ。氷の地面を模した展示台の側面には大人が四つん這いになってやっと入れるほどのトンネルがある。中に入って氷の地面から顔を出すと、動物たちを見上げる形で観察できる。外から見ていると、生き物たちの足下からひょっこり来場者の顔がのぞくのが面白く、実際に中に入ってみると生き物に見下ろされる不思議な感覚を味わえる。

 平衡感覚が奪われるブリザード

 南極での観測は危険も伴う。南極で発生する吹雪は「ブリザード」と呼ばれ、隊員の平衡感覚や視界を奪うため、発生時には外出が制限され活動の大きな妨げとなる。ブリザードの体験展示では、まずは平衡感覚が奪われる状況を、次に視界不良を、そして強い向かい風を順に体感する。

 最初の平衡感覚が奪われるトンネルでは、目が回り車酔いのような気持ち悪さを感じた。これと同時に視界が遮られ、強風と極寒の空気に襲われると想像すると、たしかに恐ろしく、とても観測どころではない。こうした自然の脅威を体で感じることで、南極での観測が決して容易ではないことを実感する。

 ほかにも地質調査や海洋観測、大気観測、オーロラ観測と、南極での多岐にわたる観測・調査活動に関する展示・体験があった。ミッションに取り組みながら巡るうちに、南極観測の奥深さが見えてくる。

 昭和基地での食事、人気はキャベツの千切り

 「観測」を終えたら基地へ帰ろう。来場者が最後に訪れる「昭和基地エリア」では、観測隊の生活に触れられる。極地研の橋田教授は、南極滞在中の楽しみとして「食事」を挙げた。本エリアには現地の食事を再現したサンプルが展示されている。

 麻婆豆腐やサンマの塩焼き、スパゲティなど、日本でもおなじみのメニューが並ぶ中で「最も人気を集める」のはキャベツの千切りというのが意外だった。昭和基地での食糧補給は年1回のため新鮮な食材は貴重で、届いた日にはメインディッシュになるそうだ。普段は基地内で水耕栽培が行われており、弱い光でも育てることができるかいわれ大根やルッコラなどが食卓に彩りを与える。

 観測隊には研究者だけでなく、こうした食事や健康管理などの面で生活を支える役割を担うたくさんの人々が参加している。会見での「すべての人に南極に行くチャンスがある」という熊谷広報室長の言葉が印象的だった。

 食事の展示が目を引く一方で、個人的には除夜の鐘をドラム缶で再現しているという展示が印象に残った。季節の行事を大切にする観測隊の暮らしぶりが伝わる。そのほか超高精細の8Kによる南極ライブ中継映像も上映されており、運が良ければ現地のオーロラをリアルタイムで見ることができるという。

 オーロラのトンネルをくぐり「帰国」

 展示を巡りながらミッションシートを完成させた来場者は最後に「特別南極観測隊」の認定を受け、オーロラのトンネルをくぐって「帰国」した。

 本物の氷に触れ、観測活動の最前線をのぞき、観測隊の暮らしを知る。こうした体験を通して見えてきたのは、南極が特別な環境でありながらも、私たちと無縁の世界ではないということだ。遠い世界だと思っていた南極との距離が縮まったように感じられた。



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