天体分光学で系外惑星を観測
天体を対象にした分光学を天体分光学という。分光学では物体が発する光(電磁波)を波長または周波数成分に分解して測定することにより、対象の成分や温度、密度などを調べる。最近はこの方法を使って系外惑星の大気を調べることができる。
夜空の星をよく見ると赤い星、青い星、白く見える星など色々な星があることがわかる。この色の違いは主に表面温度によるものであるが、分光して光の成分を調べると、天体の成分や天体の動きなど様々なことがわかる。
その分光の方法としてスペクトル線を調べる方法が使われる。星の光を分光器でスペクトル線にして分析。光の放射領域に存在する原子や分子がわかる。1814年にフラウンフォーファー(J. von Fraunhofer)が太陽光に暗線(吸収スペクトル)を見つけたことにより、恒星大気の構造・組成の研究や、大気吸収線の波長変動の精密測定による系外惑星の探査などが行われている。

ハビタブルゾーンの地球型系外惑星に大気
今回、米シカゴ大学の惑星科学者、コリン・チェラビム氏が、南米チリのラスカンパナス天文台にあるマゼラン・クレイ望遠鏡で、ある系外惑星から流出するヘリウムを検出した。
この系外惑星は、地球から約49光年の距離に位置にある恒星の惑星で、大気が存在する可能性が明らかになった。生命が存在できる惑星の候補にもなり得る。
「LHS 1140b」と呼ばれるこの惑星は、地球の約5倍の質量を持つスーパーアース(巨大地球型惑星)。周回する恒星からの距離が程よく、暑すぎず寒すぎず水が存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の範囲内にある。
米シカゴ大学の惑星科学者、コリン・チェラビム氏が米ハーバード大学の博士課程在籍中に研究を率い、結果を先月の米科学誌サイエンスに発表。「LHS 1140bの質量と半径の測定値から推定される密度をみると、主成分は岩石と考えられる」と述べた。
同氏はまた、LHS 1140bには地球と同じく鉄の核とケイ酸塩鉱物のマントルがあるようだと指摘した。さらに低密度の成分として、水に加えて大気を持つ可能性があることが新たに分かったと報告した。
太陽系外惑星は1990年代に初めて見つかってから、これまでに6200個以上確認されている。 今回の観測が確認されれば、ハビタブルゾーンにある岩石質の惑星で大気が見つかった初の例となる。
生命が存在できる惑星の可能性も
遠くにある岩石惑星の大気を観測するのは難しい。惑星は小さく、その大気は薄いためだ。惑星が主星の前を横切るタイミングを待つ必要がある。日食の場合と同じように、主星からの光が大気を通過すれば、その光の変化が手がかりになり得る。
今のところ、LHS 1140bに生命そのものや、生命を育む大気の存在を示す証拠は見つかっていない。だがチェラビム氏は、地球外生命体の痕跡が見つかるかもしれない有力候補との見方を示す。
「太陽系外で今、生命を探すには最適な場所だと思う」と、同氏は主張する。「岩石主体の組成と、表面に液体の水が存在できる適度な温度、そして大気の存在。これは、われわれが求める3つの主な要因だ」
大気を見つけるために、チェラビム氏はまず、一般的な仮説を基にモデルを作成した。多くの惑星は、宇宙で最も多い水素とヘリウムが集まって形成されるという仮説だ。その一部が岩石惑星になると、水素の大部分は失われるが、水素よりわずかに重いヘリウムは保持される。
チェラビム氏はモデルを基に、既知の太陽系外惑星のうち質量や半径、温度からみてこの過程を経た可能性が高い例を探し、証拠となるヘリウムがあるかどうかを調べた。そして2024年9月、南米チリのラスカンパナス天文台にあるマゼラン・クレイ望遠鏡で、LHS 1140bから流出するヘリウムを検出した。
同氏らは、LHS 1140bがまさにちょうど、水素を失ってヘリウムを保持し、そのヘリウムが少しずつ漏れ出している段階にあると考えた。
ヘリウムがあるだけで生命の存在に適した環境とは言い切れないが、酸素のようなほかのガスも共存する可能性があるという。
チェラビム氏は、大気からほかの分子はまだ検出されていないとしたうえで、「最終的にはきっと何かが見つかるはずだ」と述べた。
次は水が見つかるか
LHS 1140bの主星は、宇宙にある恒星の中で最も一般的な「赤色矮星(わいせい)」だ。ほかのタイプより小さくて温度が低く、明るさやまぶしさが弱いため、周回する惑星の大気を観測しやすい。一方で太陽のような恒星と比べ活動的で、周囲の大気を破壊し尽くすこともある。チェラビム氏によれば「実に攻撃的、凶暴な星で、大量のX線や紫外線を放射する。これが大気を加熱し、膨張させ、宇宙空間へ吹き飛ばしてしまう」という。
チェラビム氏によれば、赤色矮星を周回する岩石惑星で大気の存在が確認されることの意味は大きい。それが実際にあり得ることなのかどうか、天文学界ではまだ答えが出ていないからだ。「多くの仲間が、いわばほっと胸をなでおろしている。しかしまだ結論が出たわけではない。この惑星が変わっているだけかもしれない、例外なのかもしれない、あるいはたくさんあるなかの最初の例かもしれない」と、同氏は語る。
チェラビム氏らのチームが昨年実施した1年間のフォローアップ観測では、ヘリウムが検出されなかった。チームはこの結果について、ヘリウムが流出するペースにむらがあり、装置の感度を下回った可能性があるとの見方を示した。チェラビム氏は一方で「今のところ、これは大きななぞ。チームで解明に努めている」と述べた。
同氏らは今秋、LHS 1140bの新たな観測を開始する。チリにあるさらに感度の高い装置の使用も申請済みで、許可が下りる見通し。ほかにも米航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡が観測を予定しているという。
研究チームに参加した米フロリダ大学のジェーソン・ディットマン助教も、電子メールに「岩石惑星の周りに大気が存在することはそれほど一般的でないのかもしれない、あるいは赤色矮星は惑星にとってあまり良い主星でないのかもしれないと、心配になり始めていた」とつづり、「大気を持つ岩石惑星の例が見つかった意味は実に大きいと思う。私たちが長年、求めてきたものだ。ヘリウム以外に何があるのか。次は水が見つかったりするだろうか。それともほかの何かが見つかるか。今度はどんな問いを投げかけることができるかという興奮の高まりにこそ、この結果の意義がある」と述べた。
ディットマン氏は、17年にLHS 1140bを発見したチームのリーダーを務めていた。 「かわいいわが子のような惑星が大きく成長したような気持ちだ」と、同氏は言う。「今後数年のうちに、大気を持つ岩石惑星がさらに見つかり始めると予想している。結果的に発言を撤回することになるかもしれないが、この後に多数とは言わないまでも、いくつかの例が続く可能性に賭けずにはいられない。そうした惑星同士を比較し、違いを見つけるのは実に心躍る研究になるだろう」
フォローアップの問題
専門家らはチームの成果を評価する一方、昨年のフォローアップ観測でヘリウムが検出されなかったことから、LHS 1140bが大気を持つと結論づけるにはさらなる観測が必要だと指摘している。
ベルギーのリエージュ大学で宇宙生物学の研究責任者を務めるミシェル・ギロン氏はそのうえで、「 LHS 1140bが数十億年にわたり相当量の大気を保持してきたことが確認されれば、それは赤色矮星の周りのハビタブルゾーンにあるスーパーアースの少なくとも一部が、主星の初期段階の激しい活動を切り抜けられるという証拠になる」と語った。
ギロン氏は、そのような結果が出れば、生命が存在できる岩石惑星が近くに見つかる可能性が大幅に高まると指摘。ジェームズ・ウェッブ望遠鏡などによる今後の観測で、LHS 1140bは最優先の対象のひとつになるだろうと述べた。
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