あらゆる病原菌に対抗するため、体内でさまざまな抗体をどのようにして作り出しているのかは、長い間不明であった。
考えてみよう、ただ一つの病気に対する抗体ができなかっただけで、人類は簡単に滅亡するのだ。
現実に生物細菌兵器というのは、これを目的に作られているが、現在のところそんな細菌は作られていない。(ひょっとしてできるか?)
この疑問を解決したのが、ノーベル賞を受賞した利根川進博士だ。
利根川博士ら先人の研究者の努力で、人間は、実に1000兆種類以上の抗体をつくりだせる事がわかっており、この多様さゆえに無数に存在する外部抗原に対応できる。
今日は1978年、利根川博士の ノーベル生理・医学賞を受賞した「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」について調べたい。(参考HP Wikipedia)
利根川 進 博士
現在はマサチューセッツ工科大学教授(生物学科、脳・認知科学科、元・学習と記憶ピカウアセンタ所長)を勤める他、ハワードヒューズ医学研究所研究員、RIKEN-MIT神経科学研究センタ所長兼研究員。
抗体・抗原について 前回までのおさらい
抗体を作る細胞は何か?抗体は、リンパ球のB細胞が作ります。一つのB細胞が産出できる抗体は一種類であり、侵入した抗源に応じたB細胞が活性化されて増殖し、抗体がたくさん作られます。
抗体が抗原である病原菌に結びつくところはどこか?
抗体の形はYの字を立体的にしたような感じですが、Y字の先端部分に、病原体などの侵入者をそれぞれ別個に見分けるところが存在しています。さまざまな抗原に対して、さまざまに変わる部分なので、可変領域という。
「多様な抗体を生成する遺伝的原理」とは何か?
利根川博士が発見した遺伝原理で、V(D)J遺伝子再構成 (gene rearrangement)ともいう。
B細胞に分化する前の生殖細胞の遺伝子では、抗体の重鎖可変領域 (VH) をコードする遺伝子は、VH遺伝子部分、DH遺伝子部分、JH遺伝子部分の3つに分かれており、この3つの遺伝子部分にそれぞれ、可変領域の遺伝子断片が複数個コードされている。
抗体を産生するB細胞の重鎖可変領域の遺伝子は、VH遺伝子部分にコードされているいくつかの遺伝子断片の中から1種類、DH遺伝子部分から1種類、JH遺伝子部分から1種類が選ばれて、それが組み立てられてつくられる。
VH遺伝子部分に50の遺伝子断片、DH遺伝子部分に30の遺伝子断片、JH遺伝子部分に6種類の遺伝子断片があるとすると、その組み合わせは50×30×6 = 9000種類となる。
抗体の軽鎖可変領域 (VL) をコードする遺伝子は、重鎖よりも少なく、VL遺伝子部分、JL遺伝子部分の2つの部分からなります。同じようにVL遺伝子部分に35の遺伝子断片、DL遺伝子部分に5つの遺伝子断片があるとすると、その組み合わせは35×5 = 175種類となる。
そして、9000種類の重鎖と175種類の軽鎖の組み合わせは9000×175 = 150万種類以上になる。このように、重鎖のV、D、J、軽鎖のVとJの遺伝子断片の組み合わせで多様な遺伝子をもつB細胞ができ、それぞれ異なった種類のB細胞がそれぞれ異なった抗体を作ることで多様な抗体がつくられている。これをV(D)J遺伝子再構成といい、主にヒトやマウスでみられる。
その他の抗体を多様にする遺伝原理
体細胞超変異 (somatic hypermutation; SHM)
幹細胞が分化して体のさまざまな細胞に分化していくが、この分化した細胞を体細胞という。幹細胞が体細胞に分化していくときにごく稀に遺伝子に変異が起こることがある(体細胞変異)。
B細胞は変異の頻度が極めて高く、1万倍にも及ぶ。これは末梢の成熟したB細胞の中で、T細胞依存性抗原で活性されたB細胞は胚中心を形成し、この微小環境内で免疫グロブリン遺伝子のV領域が、AID(activation-induced cytidine deaminase)により様々な塩基置換を引き起こされるためである。このメカニズムを体細胞超変異といい、ヒトやマウスにおいて抗体の多様性や親和性の成熟に関与している。
遺伝子変換 (gene conversion)V(D)J遺伝子再構成を終えた可変領域遺伝子が、V遺伝子上流に存在する偽遺伝子にランダムに置換されて、多様性をつくる。これを遺伝子変換 (gene conversion; GC) といい、主にニワトリでみられる。1986年レイノーらにより報告された。
クラススイッチ組み換え (class switch recombination; CSR)
V(D)J遺伝子再構成等の過程を経て生まれたB細胞は、抗原の刺激を受けると成熟化し、増殖する。この際、重鎖定常領域 (CH) をコードする遺伝子にDNA改変が起こり、最初IgMを分泌していたB細胞はIgG等他のクラスの免疫グロブリンを産生する。同じ可変領域を異なる定常領域と組み合わせることにより、さらに多様な抗体を作り出す。このことをクラススイッチ組み換えという。
これら様々な遺伝的原理により人間は、1000兆種類以上の抗体をつくりだせる事ができるのです。この多様さゆえに無数ね存在する外部抗原に対応できるのです。
その後の利根川進博士
ノーベル賞を受賞した。利根川進博士はかなり変わった人かもしれない。他の人と同じ事に興味を持たないというのだから相当だ。ある程度他人と同じことに興味がないと、社会生活に差しつかえそうだ。
しかし、その考え方は理にかなっている。人が自分で考えて成長していく存在である以上、自分のできること、できないことを区別して、早く得意分野を発見して努力することが人生の秘訣であることは、多くの人が述べている。できないことはルールに沿って生きるのがよい。
利根川博士のノーベル賞受賞研究、「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」を見ると、「1つのことに対して、よく考えが練られている」という印象を受けた。まず利根川博士からはその考え方を学べる。
現在は脳科学の分野に研究の舞台を移し、様々な成果をあげている。脳科学の成果については、次の機会に紹介したい。
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