誤解される遺伝子組換え
8月末の「遺伝子組換え実験研修」に参加してから「遺伝子組換えはかなり誤解されているな...」と感じました。
品種改良という言葉は受け入れられているのになぜ、遺伝子組換えが嫌われているのだろう?
ひとつは情報操作があるのではないかという説があります。これまでのルールを守って野菜を栽培してきた農家や加工してきた食品会社を保護する目的があったかもしれません。
しかし、時代が変わりました。しっかりとした学習と知識で、反論していかねばならないと思います。 私もそうなのですが、世間に基本的な遺伝子の知識が不足しています。これが情報操作する側とされる側の双方の問題点です。
真実はひとつです。有益なものなのか、そうではないのか。あるいはわからないかのいずれかです。わからない時代は終わりを告げようとしています。
そこで、今日は品種改良と遺伝子組換えについて、小麦を例にとって調べてみましょう。(参考HP 厚生労働省・横浜市立大学木原研究所)
小麦の歴史と遺伝子組換え
人類が最初に栽培していた小麦は、植物学の分類では1粒小麦のアインコーン(Einkorn)と思われます。
1万〜8500年前の先土器新石器時代には、野生の麦と栽培した麦の両方を混ぜ、小麦も大麦も区別せずに食べていたようです。最初は、麦に豆や雑穀が混ざったものを石と石の間にはさんで製粉し、水で練って焼いて食べていたと思われます。
品種改良で殖えた染色体
その後アインコーンは他の1粒小麦のクサビコムギ(Aegilops sguarosa)と交雑し2粒コムギになりました。
このとき通常染色体の数が14本(2n=14と書く)ある1粒小麦の染色体に突然変異があり、染色体が28本(2n=28)になって2粒小麦ができました。
染色体が2倍になるのは人の細胞でも一時的に起きていることで、1つの細胞(2n)が分裂して、2つになるとき、細胞の染色体が一時的に2倍(4n)になります。
ふつうは、この染色体が2つに分かれ、もとの染色体数をもつ、2つの細胞(2n)になるのですが、このときに突然変異が起きると、染色体が分かれなくなることがあります。これを4倍体といいます。
ふつうの細胞の1個だけに、このようなことがおきても生物自体に変化はありませんが、受精卵に突然変異が起き、4倍体ができると、すべての細胞が2倍の染色体を持つ4倍体になります。
古代主食だった大麦
紀元前6500年頃になると「土器」を使うようになり、粗挽きした麦を「おかゆ」にして食べるようになりました。「おかゆ」には小麦よりも大麦が適していたため、古代エジプトの古王国、中王国時代には主食は大麦でした。
紀元前5500年頃に栽培されていた2粒小麦のなかまのマカロニコムギ(T. durum)は1粒小麦の野生種のタルホコムギA. squarrosaと交雑し、普通コムギ(T. aestivum)が生まれたと考えられています。
2粒小麦は染色体数28本(2n=28)、1粒小麦では染色体数14本(2n=14)です。通常は異種植物間で交雑はおきませんが、ここでも突然変異がおきたと考えられます。普通コムギでは染色体が42本(2n=42)にまで増えました。普通コムギは1粒小麦から見ると6倍体になります。
こうしてできた普通コムギの栽培はメソポタミア地方で始まり、紀元前3000年にはヨーロッパやアフリカに伝えられました。
偶然だったパンの誕生
古代エジプトで始まった「パンづくり」の話は、あまりにも有名です。ある時、こね終えた生地をつくって放っておいたところ、この生地は大きく膨らみ表面には泡が出ていました。
面白半分に焼いてみたら、大変香ばしく軟らかくておいしい「パン」ができたという話です。これこそが、現在の私たちが食べている「発酵パン」の始まりで、生地が大きく膨らんだのは天然の酵母菌による働きだったのですが、当時の人たちは神に感謝してパンを「神からの贈り物」と崇めました。
この出来事からパンが急速に広まり、「大麦」から「小麦」への主食の転換は決定的なものとなりました。
本格的に広がった小麦の栽培
古代のエジプト人は豊穣の女神としてアイシスを、後世のギリシア人はデメターを、ローマ人はセレスを農業や穀物の女神として礼拝し、小麦からできたパンを神からの贈り物として崇拝しました。
聖書の中にも頻繁に「麦」や「小麦」が登場し、重要な作物であったことがわかります。聖書の中で小麦が最初に登場するのは、最初の書である創世記(30章14節)であります。
日本への小麦の到来は、中国から朝鮮半島を経由して伝わり、弥生式文化の中末期には小麦や大麦が栽培されていました。当時、小麦のことを、末牟岐(まむぎ)または古牟岐(こむぎ)と称していたようです。
小麦の大生産地であるアメリカ大陸へは16世紀に、オーストラリア大陸へは18世紀にヨーロッパからの移民がその種子を持ち込み栽培が始まりました。
品種改良とは何か?
品種改良とは、家畜や栽培植物などにおいて、より人間に有用な品種を作り出すこと。具体的な手法としては、人為的な選択、交雑、突然変異を発生させる手法などを用いる。
品種改良は必ず遺伝子の改変を伴うので、人工的に遺伝子を変える遺伝子組換え技術も含まれる。
家畜にしても栽培植物にしても、その歴史は数千年に渡るといわれるが、おそらくはその間に、より人間に有利な特徴のあるものを選び、それを優先して育てることがあったと思われる。
小麦等については、数種の原種の間に生じた雑種であることが確かめられているから、恐らくその間に偶然に生じた雑種を、特に選んで育てた経過があったはずである。
遺伝子組換えとは何か?
遺伝子を人工的に操作する技術を指し、特に生物の自然な生育・増殖過程では起こらない型式で行うことを意味している。
細菌などの遺伝子の一部を切り取って、その構成要素の並び方を変えてもとの生物の遺伝子に戻したり、別の種類の生物の遺伝子に組み入れたりする技術です。
例えば、細菌の持つ除草剤の成分を分解する性質を発現させる遺伝子を、植物の遺伝子に挿入することで、除草剤に強い作物を作り出すことができたりします。
品種改良と遺伝子組換えの違いは何か?
遺伝子を変えるという意味では品種改良も遺伝子組換えも同じです。
遺伝子組換え技術を応用することで、生物の種類に関係なく品種改良の材料にすることができるようになりました。 従来の交配による品種改良でも自然に遺伝子の組換えは起きており、人工的に起こした遺伝子の突然変異を利用することもあります。
遺伝子組換え技術が従来の品種改良と異なる点は、人工的に遺伝子を組み換えるため、種の壁を越えて他の生物に遺伝子を導入することができ、農作物等の改良の範囲を大幅に拡大できたり、改良の期間が短縮できたりすることです。
しかも変わる遺伝子は従来の品種改良と違って、安全で正確な遺伝子の改変方法が確立しています。(ジーンターゲット法など)
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