
遺伝子組換えが世間に認められて、病気に強く、豊かな実をつける、優秀な遺伝子を獲得した植物が、栽培されるようになると、次に考えるのはヒトへの応用であろう。
両親の生殖細胞の遺伝子に問題があることがわかっていたら、生殖細胞を遺伝子治療すれば。生まれてくる子は正常な子が生まれる。しかも、その治療の効果は代々引き継がれる。
例えば血友病の家系から未来永劫、血友病を消し去ることも可能になるのだ。
遺伝子組換えは、こういう遺伝病などの根本的な治療・解決に道を開いた。しかしその反面、どこまで遺伝子治療を認めるかという問題点も出てきた。
もう少し美しかったら...もう少し鼻が高かったら...もう少し力が強かったら...もう少し才能があれば...もう少し長生きできれば...ヒトは自分の欲求のために遺伝子をデザインする可能性があるからだ。
実際に人間の永遠の美や知性や力、生命に対する欲はつきることはない。
しかしそんなことが果たして許されるのだろうか?
クローンのヒトへの応用が法で規制されているように、遺伝子治療についても法で規制される事になるだろう。
遺伝子治療がどこまで許されるかは、時代とともに議論しなければならない問題である。
当面は、遺伝子組換えのヒトへの応用は、生命に危険を及ぼす遺伝病や重篤な症状に限られるべきである。
ともあれ、いろいろな可能性に満ちた遺伝子治療。今日は遺伝子治療とは何か?遺伝子治療はどこまですすんでいるか?など調べたいと思う。
(参考HP Wikipedia・QoleLlifeline)
遺伝子治療とは何か?
遺伝子治療(いでんしちりょう)とは、異常な遺伝子を持っているため機能不全に陥っている細胞の欠陥を遺伝子組換えにより、修復・修正することで病気を治療する手法である。
その方法は、ベクターウイルスを使って正常遺伝子を導入する手法がとられている。
ベクターを注射、吸入、塗布などで患部組織に注入するか、患者自身の血球などを一度取り出し、体外でベクターを作用させてから、患者に戻す方法がある。
世界初の遺伝子治療は、1990年に米国で先天性代謝疾患のADA欠損症(重症の免疫不全を起こす)の患児に行われました。国内では1995年以来、ADA欠損症、何種かの癌などに対して、実験的に実施されています。
遺伝子治療の可能性
今はまだまだ研究途上の遺伝子治療ですが、その未来はとても大きな希望に満ちています。
医師や研究者たちは、将来は「総合病院規模の病院や専門的治療が可能な病院で、注射などの簡単な方法で」遺伝子治療できることを目指しています。
遺伝子治療は現在は大事をとって・また研究のため長期の入院としていますが、手術などに比べると手技が割合簡単で処置時間も割合短くできる可能性があり、患者の身体的負担は少なくなると予想されます。
将来は「日帰り遺伝子治療」も可能になるかも知れません。
また、遺伝子治療が一般的になれば、何年も、または一生、多くの薬を毎日欠かさず服薬し続けるより、数回の手技的な治療で済む遺伝子治療の方が、面倒な服薬が不要で患者のQOLが高まり、また医療費も削減できる、という見方もあります。
医学と治療そして看護は、有史以来4000年かけて発達してきました。遺伝子治療はわずかに12年、まだまだ無限の発展の余地があると言えるでしょう。そしてその発展の速度は、速まりつつあります。
今は不治の難病や先天性疾患、薬や手術では治療できない癌なども、遠からず遺伝子治療によって治療の可能性が開ける、病の苦しみ悲しみから人が解き放たれる、そんな日がきっと訪れることでしょう。 私が思い描く、近未来の予想図です。
10年前には、遺伝子レベルで治療するなど、SF小説の世界でした。しかし今は現実です。近い未来、こんな診療風景が珍しくなくなるかも知れません。
その時、これまで治療と療養生活、医師と患者・家族の間に立ち双方を支えてきた私たちナースにも、新しい役割が期待されることになることでしょう。そのために今から、遺伝子と生命について、改めて学び始めて頂ければと思います。
遺伝子治療の実際
遺伝子治療はまだ研究途上の「実験的治療」であるため、本邦では「臨床研究」として治験段階となっています。つまり、効果が保証された確立された治療法では、ありません。
「遺伝子治療臨床研究」が実現するまでには、本邦の場合、実施計画について所属機関、多くは大学医学部の倫理委員会での審査を受け、次に厚生労働省と文部科学省の各倫理委員会での審査が行われた後に承認されます。
この手続きに、以前は2,3年かかっていましたが、最近は1年未満にまで短縮されてきたようです。
事前の準備、対象患者選択の進捗にもよりますが、認可から数ヶ月〜で臨床研究が開始されます。
残念なことですが、遺伝子治療臨床研究は現時点では、誰もが受けられる治療ではありません。
生命の根幹を操作することによる予想外の重篤な副作用のリスクと治療・延命効果との兼ね合い、そして後の治療に活かすべき研究データの収集を考えると、「既存の他の治療法が奏功しない」「遺伝子治療の効果判定の障害になる条件が無い」等の条件が満たされる必要があります。
そのような条件を満たして遺伝子治療臨床研究に参加できた患者は、各計画について数人〜20人程度です。
もちろん遺伝子治療臨床研究を受ける患者は、遺伝子治療に不安や疑問を感じれば、臨床実験を中止して通常の治療に切り替えることも、また通常の治療を併用することもできます。
患者はボランティアとして最新の実験的治療に参加する一方で、その権利は厳密に確保されています。
遺伝子治療の方法
ベクターをつかう方法
遺伝子治療は「遺伝子を薬とした治療」で、治療用遺伝子を搭載したベクターが薬に相当します。
このベクターは、現在は実施機関(大学医学部等)や製薬会社・専門のベンチャー企業が研究室でほぼオーダーメイドで調製しています。
調製されたベクターは、病原性が無いことを厳重にチェックされ、初めて臨床に送り出されます。
これらの過程は、通常の医薬品同様のGMP基準に基くようになってきており、安全性・信頼性は厳重に管理されています。
上記のようにして作られたベクターは、アンプル等に詰め、冷凍する等により保存されます。基本的にはその扱いは、管理が厳重である以外には通常の医薬品と変わりません。
ただし、万一周囲の環境に不用意にベクターがばら撒かれることがないよう、その管理に際しては細心の注意が払われています。 遺伝子治療はその華々しいイメージと裏腹にまだ研究途上で、限られた患者しか治療を受けられていません。
その登場から12年間で世界中で5000人弱、国内では40人ほど、というのが現実です。
遺伝子治療はまだ試験段階で効果が保障できず、未知の副作用もあり得ます。そのため、遺伝子治療を受ける患者は、「既存の治療が全て奏効しない」「遺伝子治療の効果判定の障害になる条件が無い」という条件を満たす必要があります。
しかも現在は、治療費用が実施施設の限られた研究費で賄われているため、研究費が足りる範囲でしか実施できない、という問題があるからです。
副作用はほとんど無い
副作用は、これまでは軽い発熱程度しか見られていません。
ただし、2001年アメリカでベクターが原因と思われる劇症肝炎による死亡者が、2002年にはフランスで遺伝子治療が原因と考えられる白血病が発生しました。
このような深刻な事態は極めて確率は低いと考えられていたのですが、起こり得ることが示されてしまいました。
そのため、各国とも今まで以上に慎重になっています。
遺伝子治療の問題点
遺伝子治療はどんな場合に使うか
結果・効果は、ADA欠損症や閉塞性動脈硬化症のように劇的に治癒した例もあれば、特に癌などでは効果が認められなかった例もあります。
ヒトの遺伝子をどこまで組換えてよいかは、倫理的に非常に大きな問題で、さまざまな議論があります。
そして遺伝子を操作することが、環境や進化にどんな影響があるのかは、未知の領域です。
遺伝子治療を、誰もが受けられる現実の治療にしてゆくためには、これらの問題を解決してゆく必要があります。
遺伝子が直接に関与する疾患、つまり遺伝病を含む遺伝子疾患は4000種類前後と言われています。また、例えば肥満や糖尿病のように、生活習慣がより大きく関与するが遺伝子も関与する部分がある疾患もあります。
しかし、遺伝子治療はそれら全ての疾患に有用とは、現在は考えられていません。 遺伝子治療がもっとも有益かつ不可欠と考えられているのは、ADA欠損症のような、先天的に遺伝子が無かったり変異しているタイプの疾患です。
これらの疾患は、必要な遺伝子を補えれば、治癒できる可能性が高いと考えられています。
特に、重篤で、治療法が無いか、治療の負担が期間的・経済的に極めて大きい遺伝子疾患は、遺伝子治療の必然的適応と言っても良いでしょう。
現在の医学、通常の治療ではもはや奏効しない場合も、遺伝子治療の対象となります。進行癌や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病がこの場合に当てはまります。 遺伝子治療は、生命の営みの根幹である遺伝子を操作します。そのため、さまざまな倫理的問題が提起されています。
遺伝子治療ではどの細胞を治療するか
遺伝子治療では、どの細胞を治療するかは、非常に重要な問題です。
生物には大きく分けて「生殖細胞」と「体細胞」の2系列の細胞があります。特に先天性疾患の場合、卵子・精子・受精卵の生殖細胞を遺伝子治療すれば、子供が健康体で生まれる期待があります。
しかし、その遺伝子治療の結果は子孫にまで受け継がれます。 そのため、「生命を都合よく作り変えて良いのか」「生命の選別、障害者・病者への差別につながらないか」「子孫に遺伝子治療の結果が遺伝した時、問題が生じないか」という倫理的問題が大きく、実施は見送られています。
体細胞は、体を作る細胞です。これを遺伝子治療しても、子孫に遺伝子治療の結果が遺伝することはありません。 そこで現在全ての遺伝子治療は、体細胞つまり病変を起こした細胞、または強化したいリンパ球などの細胞に対して行われています。
しかし体細胞に対する遺伝子治療も、例えば悪くなった組織・器官を治療したら老化しない・若返る・不老不死になるのではないか? といった問題も提起されています。
遺伝子治療は生命の根幹から治療し、場合によっては生命のあり方さえ変えてしまいかねないものだけに、常に科学的・倫理的検討と、何より「いのちに対する真摯な思い」が必要なのです。
(以上 QoleLlifelineより記事引用)
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