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遺伝子治療はその華々しいイメージと裏腹にまだ研究途上で、限られた患者しか治療を受けられていません。その登場から13年間で世界中で5000人弱、国内では40人ほど、というのが現実です。

厚生労働省のホームページを検索すると遺伝子治療の実際がわかります。その歴史はまだ始まったばかりです。今から13年前に検討されガイドラインがつくられました。

1994年に厚生省(当時)から「遺伝子治療臨床研究に関する指針」、文部省(当時)から「大学等における遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」が公布されました。遺伝子治療の臨床実験を行なうためのルールが提示されたのです。



遺伝子治療はまだ試験段階で効果が保障できず、未知の副作用もあり得ます。そのため、遺伝子治療を受ける患者は、「既存の治療が全て奏効しない」「遺伝子治療の効果判定の障害になる条件が無い」という条件を満たす必要があります。

しかも現在は、治療費用が実施施設の限られた研究費で賄われているため、研究費が足りる範囲でしか実施できない、という問題があります。

遺伝子治療をするにも厚生労働省の認可が必要で、まだまだ普通の病院で治療を受けるという感じではありません。ここまで少しずつ手探りで行われてきたのが現実です。

しかし近い将来、遺伝子組み換え技術の向上により、安全性が向上し、広い範囲で治療がすすむ可能性があります。

今日は「遺伝子治療のガイドライン」とは何か、効果のあった遺伝子治療は何かを調べます。(参考HP 厚生労働省・Qolelifeline)


遺伝子治療ガイドラインとは?


次の3つの条件がそろった場合に限るとされています。
(1)重篤な遺伝性疾患、ガン、後天性免疫不全症候群その他の生命を脅かす疾患または身体の機能を著しく損なう疾患であること。

(2)遺伝子治療臨床研究による治療効果が、現在可能な他の方法と比較して優れていることが十分に予測されるものであること。

(3)被験者にとって遺伝子治療臨床研究により得られる利益が、不利益を上回ることが十分予測されるものであること。

つまり、他の治療法では治療できない重篤な疾患であり、遺伝子治療の成果が確信できるケースでなければ、遺伝子治療実験を行なうことはできないということです。

この他にも、実施施設は、十分な設備を備え、実験の是非を適切に判断できる審査委員会を設け、実験の対象となる被検者に十分な説明の上で同意を得るなど、詳細で数々の規定が明示されています。


厚生労働省遺伝子治療ガイドラインはこちら
         → http://www.mhlw.go.jp/shingi/0106/s0620-3.html#sanko1

効果のあった遺伝子治療 


末梢性血管疾患(慢性閉塞性動脈硬化症・ビュルガー病)

大阪大学医学部(臨床遺伝子治療学)では2001年、下肢の血管が閉塞・壊死し最悪の場合には下腿壊死・下肢切断を余儀なくされる難病「閉塞性動脈硬化症(ASO)」の遺伝子治療に成功しました。閉塞性動脈硬化症は、バージャー病またはビュルガー病としてよく知られています。  

大阪大学の遺伝子治療は、HGF(Hapatocyte Growth Factor: 肝細胞増殖因子、身体機能を司る蛋白質の一種)を遺伝子治療により患部組織で産生させて、血管を再生させて治療するものです。 

HGFは肝臓を再生させる物質として発見されましたが、近年、肝臓以外の組織・器官の再生にも働くことが分かり、血管を再生させるために利用したのです。  

大阪大学の遺伝子治療では、HGF遺伝子をドーナツ状に加工した「プラスミドDNA」をベクターとして使います。  

このHGF遺伝子プラスミド・ベクターを血管が壊死した患部(下腿)の筋肉に期間をおいて数回、場所を変えながら注射します。すると、治療開始一ヶ月後頃から患部に新しい血管が再生し始め、それに伴い血行が改善され下腿や足趾等の壊死や潰瘍が治癒していきます。 

もっとも劇的な症例では、歩行不能となり車椅子で入院した患者が、治療開始から数ヶ月で独歩で退院するまでに回復した例もあります。  

この治療法は、遺伝子治療によって組織を再生させる点で、再生医療とも言えます。現在、遺伝子治療と再生医療は非常に密接な関係を持ち始めており、この治療法は非常に重要な意義があります。  

大阪大学では、同じく血管疾患である心筋梗塞・狭心症などの虚血性心疾患への応用も準備を始めています。また、他大学などと協力して、パーキンソン病などの神経変性疾患(神経難病)などの遺伝子治療にむけての基礎研究も始めています。

重症免疫不全症(SCID)の一つ・ADA欠損症

重症免疫不全症(SCID)の一つ・ADA欠損症は、1990年に米国NIH(米国立衛生研究所)で人類史上初の遺伝子治療が施された疾患です。 

日本でも1995年に北海道大学医学部付属病院で、この疾患の患児にわが国初の遺伝子治療が実施されています。  

ADA欠損症は、アデノシン・デアミナーゼ(ADA)という酵素の遺伝子に先天的な異常があるために細胞が代謝異常を起こし、特にリンパ球が減少する等により重篤な免疫不全を起こし、無治療なら乳児期にほとんどが死亡する疾患です。  

それに対して従来は、骨髄移植か、ADA遺伝子が本来作るはずの酵素:アデノシン・デアミナーゼを補充する「酵素補充療法」だけが治療法でした。しかし骨髄移植が可能な症例・状況は限られ、酵素補充療法は一生続ける必要がある上に年間数千万円の費用がかかるとも言われ、どちらも大きな問題を抱える治療法でした。  

そこで、足りないアデノシン・デアミナーゼ遺伝子を患児の細胞に取り込ませることが考えられました。 具体的には、患児の血液中からリンパ球だけを採取し、これを研究室で培養しながら、リンパ球にアデノシン・デアミナーゼ遺伝子を搭載したウイルスベクターを作用させ、リンパ球に治療用遺伝子を導入します。

そしてリンパ球に遺伝子が導入され、異常がないことを確認した上で、患児に骨髄移植同様に点滴注射して戻します。 

北海道大での遺伝子治療臨床実験では、約1年半に渡り11回の遺伝子導入リンパ球の点滴が行われました。  

アデノシン・デアミナーゼはごく少量で足りるので、比較的少数のリンパ球でも治療用遺伝子が導入できれば、治療効果が期待できます。 

結果的には、北海道大で治療を受けた患児はADA酵素補充療法は低用量で続けているものの、現在は小学校に元気に通っているとのことです。 

また、その後の研究により、ADA酵素補充療法を完全に中止できる、つまり実質的な「先天性遺伝子疾患の完治」の可能性も示唆されています。
(以上Qolelifelineより記事引用)

 

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